さらば王様
退位というものは、いつの時代もやってくるものだ。
反逆者の私兵に囲まれた王様は、玉座の縁を握りしめ、肩を落とした。
周りでは、後宮の女達が不安気に様子を伺っている。
反逆者の私兵達は、おしなべて若い。
成人の儀を済ませたばかりの者も、まだ毛が生え揃っていないような者もいる。
その者まで引き連れてやってきた反逆者に、国王は嘆息し
「もう少し待てなかったのか。」
と、誰にも聞こえぬよう呟いた。
「麗しき国王陛下」
皮肉を言いおる。
王様は私兵の中から現れた、自分よりも麗しい姿の反逆者の姿を認めた。
若く、たくましい。
自分の若い頃を見ているようだ。
いや、若き日の自分よりも遥かに王に相応しい。
それほどまでの男であった。
「本日もご機嫌麗しゅう…」
「よせ。」
形式的な挨拶を遮り、国王は反逆者を見据えた。
面長の顔に冷たい笑みを浮かべており、切れ長の目には余裕すら感じられる。
王座が目前という焦りは見られなかった。
「何故だ。」
国王は問うた。
「何故、待てなかった。」
反逆者の顔から笑みが消えた。
「何故、急いだ。」
三つ目の問を発した時、反逆者は酷く顔を歪ませた。
「それをあなたが言いますか。」
反逆者は、歪んだ顔を元に戻して、国王の問いに答えた。
「あなたのやったことを、私もやったまでですよ。」
反逆者の答えは明快だった。
若かったあの日、国王もこうして老いた先王から国を奪ったのだ。
それを今、自分が逆の立場となって繰り返していたのだ。
あの時の自分はどうだったろうか。
これ程までに優れた簒奪劇を遂行することができていただろうか。
ぐるぐると頭の中を、当時の想いが駆け巡る。
国王は、玉座の縁を再び強く握りしめた。
「よろしいですか、国王陛下。いや、先王陛下。」
反逆者が勝ち誇ったように告げる。
老いた国王に、抗う術はなかった。
そして、王国は新しい国王を迎えたのであった。
翌日。
〇〇県の☓☓動物園のホームページに、サル山のリーダー交代のニュースが発表された。
先代のゴローから、新リーダーのケンタへの禅譲がなされ、ケンタは8代目のリーダーに就任したとのことであった。
ケンタは若い群れのリーダーを努めており、切れ長の目で多くの雌に人気があるとの但し書きが、ホームページの片隅に小さく記載されていた。