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夢の中で

「ここに来るまでにですね」

「何だお前から話すなんて珍しい」

 谷本新也アラヤが話し出すと、友人兼高校時代の先輩でもある藤崎柊輔が驚いた顔をした。2人は藤崎の部屋でいつもどおり飲んでいた。

「僕だっておしゃべりくらいしますよ。……ここに来る途中、とても綺麗な人を見かけたんですよ」

「ほお」

「……その顔は信じていないでしょう。本当に綺麗だったんですよ、こんな人がこの世にいるのかっていくらい。……赤いワンピースに長い黒髪で。それが全然派手じゃないんです」

「ふうん……」

「ああいう美人と話が出来たらなぁと思いますよね……」

「……それはどうかな」

「え? 美人は嫌いですか、藤崎さん」

「そうじゃなくて」

 藤崎が苦笑する。杯を掲げて、新也を指差す。そしてニヤリと笑った。

「お前は女運が絶望的に悪い」

「な……っ」

 すごく失礼なことを言われたのは分かったが、過去を思い返してみれば返す言葉が新也にはなかった。


 その夜、これは夢だと分かる夢を谷本新也アラヤは見ていた。

 新也は何の変哲もない住宅街をただ歩いていた。

 靴を履いて、外出用の上着も着ている。

 周囲はほんのり明るく暑くも寒くもなかった。

 周りの風景は新也の知っている箇所を継ぎ接ぎしたものだった。

 いつもの高架線下、一杯飲み屋の場所には駅前の花屋がある。いつも行くコンビニは家の近くの小さなスーパーに変わっている。不思議な感覚だった。よく知っているのに、知らない街。

 新也は最初、当てもなく歩い続けていた。

 夢だと分かっているのだ。どこに行ったって良いだろう。

 しかし、気づけば自宅の方向へと向かっていた。道を曲がり坂を下って、こちらだろうという方角に足を何となく向ける。

 そしていつか通ったトンネルをくぐり抜けようとした。それは今までののどかな景色と比べて唐突だった。

 そこに、赤いワンピースを着た女が立っていた。

「え」

 新也は思わず声を上げた。

 最初は昼間見た女性を夢にみているのかと思ったが、その女は異様な姿だった。

 女は全身細いかすり傷だらけで、薄汚れた赤いワンピースを身にまとっていた。

 長い黒髪は汗で濡れて、額や首筋に張り付いている。足元は裸足で、傷ついているのか血や泥で真っ赤だった。

 そしてだらりとさげた右手には刃の鋭い包丁。

「っ……」

 やっぱり昼間の女性は異形のものだったのかと、新也は一歩後ずさった。

 それを攻めるように女がトンネルを背景に、顔を上げて奇声を上げた。

 きいぃ、ともぎいぃ、ともつかぬ高い声だった。

 空へ向かい吠えると、女が猛烈な勢いで新也に向かって走ってきた。

「っ!」

 新也は回れ右をして後ろも見ずに駆け出した。

 女は凄いスピードで追いかけてくる。

 砂利を踏む足音が聞こえる。

 横目に振り返ると、包丁の鈍いきらめきがすぐそこまで追ってきていた。

「うわ!」

 目が覚めた。

 新也は飛び起きると思わず周囲を見渡した。何もいない。

 しかし、心臓は全力疾走したように早い鼓動を打っている。冬だと言うのにじっとりとした嫌な汗もかいていた。

「よかった……」

 新也はどさっと布団に身を投げだした。仰向けで、天井を仰ぎ見る。

 深呼吸をした。

 しかしそれでは終わらなかった。


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