ギデオン崩壊の過程
カレンとヒナタはポルマに夢中になっており、エルフ一族全員が共通して同じスキルを持っているという事実の大きさをあまり感じていない様子であった。
「ダンジョン大陸のものは大体スキルは備わっておる。種族単位でその内容は異なるみたいだがな」
ということはスキルの期限はそもそもダンジョン大陸にありそうだと久東は思う。
久東はこっそりとシルマのステータスを確認した。
■シルマのステータス
エルフ Lv10
HP 100/100
攻撃力 80
防御力 80
速攻性 80
命中力 80
知力 40
創造性 40
【スキル】
名称 : プロモーション
属性 : 無属性
Rank : C
値こそ小さいが確かにスキルを所持していた。
「我々エルフの種族はプロモーションというスキルを持っているが、ピグミーはfastというスキルを持っている。これは単純に動きが速くなるというスキルみたいだな」
種族ごとにスキルが継承されているのならば、スキル発令と遺伝子の関係はかなり濃いものがあるかもしれない。
「まぁでも今はヒナタのコピーがあったからよかったもののポルマがたくさん食べられないのは残念ね」
全くスキルの話に興味がなく、ポルマで頭がいっぱいになっているカレンは言った。
「昔は取れていたんだ。ベネネも豊富にそこら中の木々に生えていた。しかし、ダイア国がこの国を支配し始めて数年で収穫量が激減してしまったんだ」
シルマによると、ベネネも昔はよく取れていたらしい。だが、ダンジョン大陸が人間に発見され、人類が足を踏み入れ始めると急速に外の文化が入ってきたのだ。
世界市場はスキル所持者によるモノの大量生産により、モノを売りつける市場を求めていたのだ。そこで白羽の矢が立ったのがダンジョン大陸である。
シルマによると、ダイア国は最初はただ貿易をしたいと言ってきただけだったそうだ。しかし、あっという間にダイア国のモノでギデオン国は溢れかえるようになった。やはり世界の科学はダンジョン大陸のそれとは比較にならないほど進んでおり、その利便性にエルフ一族は虜になったのだ。
「最初のうちは良いことばかりだと思っていたのだ。こちらもベネネやポルマなどの食糧を逆に売り、貿易としても成り立っていたのだ」
しかし、どんどんダイア国側の輸出割合が増えていく。ギデオン国としては支出が増えるばかりで、払えるものがなくなった状態になった。最初は買っていたポルマもダイア国は買わなくなった。
「ダイア国は「では今度そちらの国に工場を作るからそこで働いて労働力となってくれ」と我々エルフとピグミーに要求してきたのだ」
知らない国が運営する知らない施設で働けと急に言われてもやはり抵抗は多い。最初、エルフもピグミーも反対していた。
「やつらはとうとう武力行使を始めたのだ。ダイア国の方針に逆らう意思のあるものは粛清すると」
ダイア国から派遣される幹部5人のスキルはかなり強いものらしく戦闘民族として評価されているらしいエルフ一族でも敵わなかったそうだ。
「そこからはこの国はダイア国側の国民と我々旧王族側の国民に分かれたのだ」
ダイア国は早くにダイア国側であることを証明したエルフ、ピグミーに対しては手厚い待遇にすると宣言したのだ。
その宣言を皮切りに我先にとダイア国側の工場に働きにいく国民が増えてしまったのだ。
「ホントにうまいやり方だ。徐々に徐々にやつらは武力と政治でこの国をのっとっていったのだ」
旧王族側のエルフやピグミーをダイア国に密告すればさらに待遇が上がるシステムもある。それゆえ、旧王族側の人間は疑心暗鬼に陥りバラバラになりつつあるそうだ。
「生活は確かに便利になった。しかしな。この国の文化や文明は急速に失われたのだ」
シルマはそっと山積みされたポルマを手に取る。
「こんなに美味いのにな。奴らはまた新しい工場を作るらしい。もうすぐこれが作れなくなるんだ」
哀しそうにシルマはポルマを口の中に放り込んだ。




