久東なりの研究 その1
「おい!今なんて言ったんだ?」
久東は思わずしゃがみ込み少女の顔を両手で包み込むように触った。
初めて顔をちゃんと見た。目がくりっとしていて髪はボサボサの茶髪。活発で明るそうな少女だ。
「え?なんてって。私の思ったこと言っただけだよ」
プニプニのほっぺたがギューっと圧縮されて変な顔になっている。
「思ったことを言っただけって……それは今さっき俺が……もしかして……」
この子の能力、コピーは「物理的」なもの以外もコピー出来るんじゃないか?
俺が今考えていた思考という「抽象的」な概念をコピーしたと考えれば……
「なぁ、君名前はなんていうんだ」
顔を掴んだまま久東は聞いた。
「如月ヒナタだよ。孤児院のおじいちゃんがつけてくれたの。未来を明るく照らす子になってねって」
「そうか……ヒナタ。お前のスキルはとてつもなく凄いものかもしれないぞ。今まで何をコピーしてきたんだ?」
「おはじき、石、草、カスタネットとか。でもそれができるようになったのも最近のことなの。出来ない時もあるし」
「なんでこの子のスキルを誰も研究しないんだ?この子のスキルはとんでもない可能性を秘めてるかもしれないのに」
久東は思わず声を上げた。おそらくこのコピースキルのコピー出来るものは物質に限ったことではない可能性がある。
「ヒナタ、お前コピーするときってどうやってるんだ?」
「コピーしたいなって思った時に、コピーって言うだけだよ。ほら」
ヒナタは手の甲を差し出す。小指の下付近に【COPY】薬指の下付近に【PASTE】と書いてある。
「スキル保有者はみんな体の一部にスキル名が出てくるの。私は左手の甲に。技名を話せば発動するの」
「なるほど、じゃあさっきの会話でヒナタがコピーと発言したからスキルが発動していたのか」
「そうかも。おじさん、スキルないのが悲しいって言ってるからその気持ちどんな気持ちなんだろ?って思ってはいたんだ。ちょっと、おじさんの気持ち分かった気がする」
ヒナタは俺の思考が知りたかった。その状態でコピーと発言したから思考がコピーされたと考えられる。
つまり、【ヒナタが欲したものをコピーできる】のか。
思考がコピーされたという事はあらゆる抽象的な概念までコピーできる可能性がある。
久東はコピースキルに隠された【ある能力】への可能性に気づき身震いを起こした。
【ある能力】とははつまり【他人のスキル】や能力値である【ステータス】をコピーできるかもしれないという事である……
「おい!ヒナタもう一回、俺のステータスをコピーしてみてくれないか。一般人の大したステータスじゃないかもしれないが」
「えぇ、そんなのできるか分かんないよ」
「出来なくてもいいさ!これは実験だよ。おじさんがヒナタのスキルの研究をしてあげるよ」
「ホント!?ホントにおじさんが研究してくれるの!ヒナタのステータスは確か・・・あった!」
ヒナタはくしゃくしゃになった紙を俺に見せた。今日は国民全員にステータスが郵送で通知される日だったのは幸運だったかもしれない。
■如月ヒナタのステータス
学生 Lv3
HP 20/20
攻撃力 15
防御力 15
速攻性 15
命中力 15
知力 5
創造性 5
【スキル】
名称 : コピー
属性 : 無所属
Rank : D
むちゃくちゃヒナタは喜んだ。ジャンプして飛び跳ねている。
こんなに喜ばれるとは思わず少し罪悪感を感じる久東。
「おぉ!だからもう一回やってみてくれ!」
「うん!」
大きな目を輝かせてヒナタはうなずいた。
俺は頭の中で第二火曜日に目黒駅前のコンビニでよく弁当が廃棄されている事を思い出した。
これをヒナタが読み取れるのか?
「コピーー」
ヒナタはまっすぐこちらを見つめながら叫んだ。
「どうだ?ヒナタ。何か変わったか?」
「ううん。なーんにも!」
ヒナタは笑いながらそう言った。何が面白いのかわからないが、とりあえず研究されると言うことがとても嬉しいのだろうと久東は思った。
久東は思考を巡らせる。なぜ?コピーされないのか。なぜコピーされる時とされない時があるのか。
久しぶりの試行と検証。なんだか久東は懐かしい感覚になった。俺はこんな事が好きだったんだな。
ヒナタは久東を爛々とした目で見つめる。初めて研究対象になった嬉しさから。
川のせせらぐ音も、空中を飛ぶ飛行機の騒音も、今の2人の耳には入ってこなかった。久東の非凡な知能指数の高さがいかんなく発揮されることとなる。
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