少女
あれがスキルなのか。
俺に与えられる事はなかった神の恵みとも言われる力。
スキルと呼ばれる能力を持つ人間が出現し始めて早50年ほどらしいが、今の子供達は喧嘩もスキルを使ったものになっているのか。
久東は少女の元に駆け寄った。
「君、大丈夫かい」
少女はグッタリと倒れていた。
「大丈夫……。おじさんありがとう」
少女は俺の手を掴み立ち上がる。
「いつものことなの。私のスキルが弱いからみんな馬鹿にしてくるの」
少女は土が付いた赤いスカートをパンパンと叩いた。
久東は内心おじさんと言われたことに少し傷ついている。
「そ……そうなのか。おじさんからしたらスキルがあるだけ羨ましいけどね。何でもコピー出来るんだろう。凄いじゃないか」
「すごくなんかない。私まだスキル二つしか出現してないし。さっきの前田くんなんかもう四つ出てるし。同級生の美咲ちゃんは5つ。それに私のスキルは戦闘に不向きなの」
確か、1つのスキルには多くの技の種類があって、本人の成長速度に比例して使える技も増えていくと聞いたことがある。この子は同い年の中では遅い方なのか。
「大丈夫さ。きっと君も他の同級生の子に追いつけるよ。それにもう2つも出ているのだろう?」
「うん。でも使い方よく分かんないの。先生も偉い教授も。マイナースキルは人口が少ないから研究も進んでないんだってさ」
少女は膨れっ面をする。
スキルには属性がある。火、風、土、水、などのようなスキル属性は所有する人口が多く、また戦闘に優れたスキルのため、政府が優先的に研究開発費を与えているらしい。俺には関係のない話だが義務教育でこれくらいなら学校で習ったのだ。
「私のスキルは無属性。つまり、前例にないスキルらしいの。だから、どうやったら強くなるのかもスキルの使い方も誰も分からない。だから、雑魚スキルって馬鹿にされるの。最悪だよね」
「それはちょっと災難だね。でも、おじさんはスキルすらないんだ!君の方がよっぽど優れてるよ」
「私もこんなスキルなら無い方が良かった。変な学校入れられるし。孤児院でみんなと遊んでる方が楽しかったな」
逆効果だった。励まそうと自虐したのに。
この子にとってはスキルがない方が幸せだったのか。
スキルは8歳までに出現すると言われている。出現したらすぐに国が運営する「国立スキル科学学校」へ入学しなければならないのだ。
将来的なエリートとしてスキル保有者を育成すべく設立された学校。国民全員の憧れでもある。
「スキル学校に入れるだけでもおじさんは羨ましいけどな。おじさんなんもないんだから」
久東はそう言ってポンポンと少女の頭を撫でた。
「スキルと言っても私ができる技は2つだけ。3dプリンターが出来るような【コピー】と、使い方の分からない【ペースト】だけだよ」
頭を撫でながら久東は思う。役に立たないスキルを付与されて、行きたくもない学校に行くのは苦痛かもなしれないな。
頭を撫でながら少女の顔を見る。すると少女は突如として取り憑かれたように早口で話し始めた。
「そうだよね。運動の才能もない。学もない。歌も上手く歌えないし絵も上手く書けない。話も下手だしコミュニケーションも下手。おまけにプライドは高い。俺には何もない。もんね」
え?何を言ってるんだこの子は?
久東は突然の出来事に思考が追いつかなかった。今少女が話していた事は、一字一句さっき久東が思っていた事と同じであると分かったのは数十秒後のことだった。
この子のスキルは俺に何をしたんだ?
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