河原
久東凛は思った。俺には何もない。
運動の才能もない。学もない。歌も上手く歌えないし絵も上手く書けない。話も下手だしコミュニケーションも下手。おまけにプライドは高い。
俺には何もない。
だから俺は今こうして河原で1人で寝そべっているのだろう。3ヶ月も。
久東は年に数回政府から送られる自分のステータスをポケットから取り出し確認した。
リアルタイムのステータスは公民館に置いてある能力判別機器に入るか、ステータスを見ることが出来る能力者に見てもらうしかない。
■久東のステータス
無職 Lv1
HP 10/10
攻撃力 1
防御力 1
速攻性 1
命中力 1
知力 108
創造性 90
【スキル】
なし
久東は知能はかなり高い水準であったが今の時代スキルがなければゴミ同然であった。どれだけ賢くてもスキルがなければ評価されない現実があった。
ロクな職にありつけず、家で引きこもっていたら堪忍袋の尾が切れた両親に追い出されて早3ヶ月。
俺はこの河原で日々を過ごしている。ホームレス支援団体から配給されるわずかなご飯と廃棄される残飯を漁る日々。
何とか今まで食いつないできた。あそこのコンビニは第二火曜日なら残飯があるとか、向かい岸の林田さんの領域に夜踏み込んだら後で陰湿な嫌がらせを受けるとか。
ホームレスとして生きて行くノウハウが蓄積されてきており、最初よりも俺は今スムーズに生活を送れるようになっている。
しかし、だ。
このままではいけないだろう。このままダラダラとホームレス生活を続けるわけにはいけないだろう。
だが、突破口が何もない。学もない。体力もない。そんな俺が働ける職なんて低賃金の劣悪な職しかないだろう。
同級生は結婚だとか子供だとか、そんな年頃なんだろう。32歳というのは。職場でも認められてきて彼女がいたり家族がいたりするのだろう。
絵が上手いやつとか歌がうまいやつとか面白いやつとか、SNSを上手く使って自己表現をしているのだろう。
文化的で健康的で幸せな日々を送っているのだろう。
誰でも発信できる時代になったからこそ自分の無能さが浮き彫りになっているようで悲しい。
河原に流れる水をボンヤリ眺める。天気の良い日に川の音を聞きながら空を見上げるのが1番の幸せな時間だ。
「おい!悔しかったらやり返してみろよ!雑魚スキルでよ!」
「コピーマン!コピーマン!」
何やら下の方が騒がしい。数人の子供達がはしゃいでいるようだ。
「お前いつになったら戦えるんだよ。お前のスキルなんて3Dプリンター以下だって先生もいってたぞ!」
「そんなんじゃいつまで経ってもダンジョンには行けないなー」
数人の男の子達が1人の子供をいじめているようだ。
「やめてよ。私だって頑張ってるの」
【第一のスキル コピー】
少女は小石に願うように触れる。しかし何も起こらない。少女は何かを諦めたのか小石を拾い投げ捨てた。
「えいっ」
少女は小石をからかってきた少年に投げる。
【第3のスキル 風神の壁】
投げられた小石は突如として現れた竜巻の壁に阻まれてしまった。
「お前のスキルじゃ俺たちとは相手になんねーんだよ!コピーもできる時とできねー時があるみたいだしな!落ちこぼれはこれでもくらえ!」
【第2のスキル 神風】
突風が少女を襲う。突如として発生した風に少女は対応することが出来ず吹き飛ばされてしまった。
「孤児院に帰ってスキルの研究に励みな!まぁ無理だろうけどね」
捨て台詞を吐き、少年らは去っていった。
残されたのは河原で1人倒れる少女。久東は少女の元へ思わず駆け寄った。
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