教育
「おい!お前、今のやつ直撃してたら死んでたぞ!」
「あぁ!お前は誰だか知らんが殺すつもりでやったんだ!当たり前だろ!」
久東はスキル所持者の道徳心が分からない。理解できない。それは久東自身がスキルを、所持せずに今まで生きてきたからだろう。
「うちのヒナタが攻撃したのは申し訳ない!でも、どう考えてもやり過ぎだろ!ナンバープレートならやる!だからもう攻撃すんな!」
「ウルセェ!お前ら程度のナンバープレートなんかはなからいらねぇわ!俺は今、カレンが攻撃されたことに怒ってんだ!そのザコにな!」
火野の怒りはおさまることを知らない。むしろ、時間が経過してだんだんと増福しているように久東は感じた。
周りを取り囲む火の壁を見る限り、先生を探してリタイアすると言う手段は取りにくい。また、そもそも久東もこの壁内部に入るためリュックの中の水をむちゃくちゃ被って突入したのである。
おそらくこの中にヒナタがいるだろうと思って突入したがビンゴだった。
この中には水がなければ入れないだろう。つまり、この状況を打破するには火野を説得するか倒すかの2択なのだ。
「おい、ヒナタ。お前あいつのステータスを見たのか?」
「うん……とんでもなく高かったよ……だからヒナタ逃げようとしたんだけど……」
「なるほど……」
久東は火野のナンバープレートを確認した。ナンバー3。この試験の参加者のトップ3のこの男がなんでこんなところにいるんだ。
「お前なんでスライムの森にいるんだ?ナンバー3な
らもっと違う入口じゃなかったのか?」
久東はひとまず時間稼ぎに適当なことを聞いた。
「はぁ?そんなもん決まってるだろ。カレンがこの近くにいるってわかってたからだよ!始まる前にカレンの入口の場所を見せてもらってたんだ。こいつは戦闘向きじゃないからな!俺が守ってやらないとダメだろうが!それなのに……そこのクソ落ちこぼれヒナタの野郎に……」
カレンはヒナタから攻撃を受けた箇所を押さえてうずくまっているが、そこまで重症ではなさそうだ。
「カレンは戦闘向きじゃない?」
「お前も馬鹿にすんのか?俺のカレンを?ホント大人はどいつもこいつもスキルが戦闘向きかどうかで俺たちを判断しやがる。クソ野郎しかいねぇのか!」
【第一のスキル 火砲】
【第三のスキル 風壁風壁風壁風壁】
なぜか火野の導火線に触れてしまった。久東は再び攻撃の対象となってしまう。ヒナタが必死で壁を作り足にダメージが残る久東の逃げる時間を確保する。
「くーちゃん!!!大丈夫?!」
ヨロヨロと歩きながらヒナタの稼いでくれた時間でなんとか火の玉を避ける。
「いや、別にカレンちゃんを馬鹿にしてるわけじゃない!」
久東は必死で弁明する中で少しずつ火野達の関係性がわかってきた。
おそらくこの2人は依存しあっているのだろう。大人に雑に扱われたカレンは強い火野に。大人に恨みのある火野は被害者であるカレンに。
火野の導火線はカレン、そしておそらくカレンの導火線は火野。
「先生達はいつも言ってる!強くなければ正義じゃない!強ければ何でも許されるって!現に今の社会はそうじゃないか!!だから俺はお前たちを殺しても、それは正義なんだ!」
スキル養成学校は戦闘教育は一流だが、普通の一般常識を何も教えていないことにここで初めて久東は気づいた。
スキル養成学校は戦力を整える事を第一にし過ぎて、子供たちにこんな考えを持つような教育をしていたのか?この子たち恐らく14歳くらいだろ?これがそのまま大人になったら……
スキルを持たざる者、一般人である久東にとって常識外れの考えを受け入れることは出来なかった。




