レベリングの為に超特急①
本当に自慢ではないけれど、僕は友達と呼べる関係の人が現実では数えるほどしかいない。学校の登下校は勿論のこと、教室でさえほぼ一人でいる。
とはいえ誰とも話さない訳でもなく、別に僕もコミュ症ではないので話し掛けてくれれば会話はする。ただ一人でいるだけというか、グループに所属していないだけというか。まあぼっちには変わりないけれどハブられているとか、とにかくそういうイジメの類ではないとだけ言っておく。
しかし、僕は現実には少ないだけでゲーム内であればそこそこに知り合いは多い。その中から特に仲良くなった人達とはグループを作りメッセージのやりとりをするような仲だったりする。
「……隠しボス、ねぇ」
昨夜、ログアウトした後の話だ。
件のグループチャットでトラベルを始めたことを書いてみたら、思いの他みんなやっていることが判明した。まあ、神ゲーだなんだと言われているゲームだから、そこまで不思議ではないけれど。
なんだかんだで全員が同じゲームをやっていることが少ないこともあり、折角だから集まろうと言う話になり、次いで、どうせだから何かやろうと言う話になった。そこでゲーム友達が持ってきたのが隠しボスの情報というわけだ。
どうやらソロで活動している時に偶然発見し、交戦したらしいが普通に返り討ちに遭ったようだ。流石にソロで行けるほど楽な敵ではないらしい。
「……挑むんだったら、しばらくはレベリング重視かな」
昨日始めたばかりで、エリアボスの経験値を独り占めしたとはいえレベルは未だ十七、辿り着いている街は二つ目の「ツヴァイダル」だ。
それに対して隠しボスは、ソロとはいえレベル八十台の友人を返り討ちにしている。プレイヤースキル以前にステータスが圧倒的に足りていないだろう。
そもそもその出現する場所もかなり遠い。まあ場所に関しては最悪、出荷することも可能なので、取り敢えずの問題はレベルだ。
「……効率の良い場所探さないとなぁ」
VRMMOでのレベル上げは基本的に苦行だ。例を挙げれば、延々と自分の身体を使って敵を倒すことと、そこが効率の良い場所であれば必然的に他のプレイヤーが現れること。前者はただの作業になるので言わずもがな、後者は人が多くなると敵mobの数は減るし、他のプレイヤーと揉めることなんかも良くあるからだ。
だから、攻略サイトに載っているような場所ではなく穴場的な場所を探したい。まあ見つからないだろうけど。
そんな訳で助けを求めたのはゲーム友達の中でも一番付き合いのある鳥類だ。そいつは「コトリ」という可愛らしいプレイヤーネームを固定で使っている、銃などの中長距離射撃が得意なガチゲーマーな男。二年くらい前にとあるゲームでチームを組んで、そこでお互いの力を認め合ったという、古き良き少年漫画的な展開があったのは良い思い出だ。それからはまた別ゲーで敵対したり共闘したり、SNSでのやり取りを始めたりなどあって何だかんだで一番仲が良いゲーム友達だったりする。
ピコン、という通知音が聴こえてくる。たぶん、今さっきコトリに送ったお誘いメッセージの返信だろう。反応が早いのも彼の特徴だ。
「んー……「ウルフィーア」かぁ」
返信の内容を要約すれば、効率の良い場所を知ってるから取り敢えず「ウルフィーア」まで来てくれ、というものだった。彼の指定した場所は名前的にたぶん四つ目の街だろう。
「……まあ、何とかなるかな?」
合流する時間は夕方、今からだと三時間後。それまでに間に合えばいいだけだ。
実は僕はRTAとかも得意だったりするんだ。まあ「アインスフィン」から「ツヴァイダル」の距離を考えたら、三時間だったら余裕な気もするけれど。それでもエリアボス討伐にどれくらい掛かるか分からないから油断は禁物だ。間に合わなかったらコトリに迎えに来てもらおう。