レベリングの為に超特急③
めちゃくちゃ遅筆で本当にごめんなさい
鈍い音を立てながら揺れていた地面が一段と大きな音を上げると、足下からソレが飛び出してくる。
どこから出てくるかは大体予想できていたので用意をしていたスキル「バックステップ」を使用し回避。少し距離を取る。
「大きいなぁ」
このエリアボスは巨大な蚯蚓の姿をしていた。外から見た限りではあまり硬そうには見えないけれど、HPはそれなりに多そうだ。これは大変だぞ。
表現するならば黒板を引っ掻く音を少し低くしたような、そこそこ不快な音が響く。これも巨大ミミズの攻撃の一つなのかもしれないね。ずっと鳴らされてたら具合が悪くなりそうだし。
「取り敢えず、一撃目」
ちゃんと詠唱して威力を上げた『アル・ファイヤ』を、その長い胴体に喰らわせる。どれだけ効いているのかまったく分からないけれど、ダメージが通っていると信じて追撃に掛かる。
「攻撃を充てるのは簡単だけど……」
その分何処かで帳尻を合わせてくる筈だ。攻撃力が高いのか、攻撃範囲が広いのか、HPが多いのか、それとも全部か。ともあれ、あまり時間を掛けていられないのが現状、ならば突貫あるのみだ。
巨大ミミズは既に身体の全てを地上に晒し、泥の上を這っている。まだ様子見のつもりなのか、暴れることもない。
刃は弾かれることなくその身体を通っていく。安物の剣でも傷をつけられることに安心するけれど、前回のエリアボス戦のようにゴリ押しは効かないから注意しないと。
「キャィィィィィィィィィ」
地味に効く精神攻撃のような鳴き声と共に頭を持ち上げる。そして繰り出されるのは単純な叩きつけ攻撃だった。
「おわわっ」
しかし単純なだけ威力はそれなりにあるらしく、足下の泥に足を掬われ避けきれずに掠ってしまったダメージでも三分の一はHPを持っていかれた。
最近は足場の悪いところでの戦闘をやっていなかったせいか腕……というより足が鈍ってるかもしれない。
これはちょっとマズイぞ。何がマズイって、これから会おうとしているコトリや、近々合流する友人たちは漏れなく全員がゲームガチ勢なのだ。
……実はここ一ヶ月くらい農場ゲームにハマっていたんだ。当然、ただの経営系ゲームなので戦闘なんてなく、ゲーム的要素のある作物採集をしていただけ。
一ヶ月しか離れていないと普通なら思うけれど、ガチ勢にとっては一ヶ月もなのだ。つまりどういうことかと言うと、一ヶ月で鈍った分だけガチ勢どもに置いていかれるのだ。流石にキレることはないとは思うけれど、彼らのことだ、足を引っ張るなら僕のことを肉壁として利用するかもしれない。それも、僕を煽りながら。
「何というか……それは嫌だ!」
ただ掠っただけで大袈裟だと思うことなかれ、ガチ勢が挑む戦いにはたった一つのミスで詰むこともありえるのだ。
……これはちょっと、リハビリが必要みたいだ。幸いにも、現在はエリアボスとの戦闘中、ついでに泥で足場も悪い。一ヶ月のブランクを取り戻すには十分だろう。
先ずやることはひたすら回避すること。これは最優先で勘を取り戻さなければならないから。巨大ミミズの出す攻撃は叩きつけや横薙ぎなど単純なものしかなかったが、これでも十分。
慣れてきたら今度は攻撃を混える。回避をメインで攻撃は多少傷つける程度で。
リハビリなんて表現を使っておいてなんだけど、やってることはこれまでと大して変わらない。何が変わったかと言えば、自分の動き一つ一つに意識を向けているくらい。
次はもっと最小限に、次はもっと深く、速く。
こんな風に考えるだけで大分違ったりするんだ。……とは言え、僕はプロでもなんでもない素人なのでこれが本当に意味があるのかはわからないけれど、少なくとも僕にはこれが一番合っている。
徐々に攻撃する頻度も増やして、動き方のレベルも上げていく。回避と攻撃はほぼ同時に、クリティカルは九割近く、時々魔法も混じらせて。
自分の動きが悪くないと思えるようになった頃には、巨大ミミズはドロップアイテムとなって消滅していた。
ちなみに、掛かった時間は一時間と三十分である。
……ちょっとヤバい。
「バックステップ」
後方へのステップ時にAGI1.5倍。回避性能が五秒間若干上昇。
「ナイトクローラー」
ツヴァイダルとドライストを繋ぐ泥地帯の中心部に存在するエリアボス。
太く長い身体を持ち、土中を自由に泳ぎ廻る。口の部分には中央に集まるように牙が生えている。
特殊攻撃は敵を丸呑みし、体内の消化液でスリップダメージを喰らわせ、後に勢いよく吐き出す。