35話 資材置き場という名の
※前回までのあらすじ
傀儡師の疑いがある人物を追った!
【35話】資材置き場という名の
俺達三人は傀儡師と思しき人物の気配を追って、山中にある洞窟の前に辿り着いていた。
「この中に……」
アルマは緊張からかゴクリと喉を鳴らす。
洞窟は横長に大きく口を開けていた。
奥は真っ暗で何も見えず、それなりの深さがありそうだった。
「おいルーシェ、燭光だ。暗いヤツじゃなくて、明るい方な」
「えー……明るいのですか?」
彼女は不本意な表情をした。
「あの周りが暗くなる闇バージョンは、そもそも普通の燭光を元にアレンジを加えたものだろ。通常の燭光ができないわけがない」
「それはそうですけど……ダークエルフとしての私のイメージが……」
「そんなもの大したイメージじゃないだろ」
「むぅ……」
ルーシェは唇を尖らせ渋々、燭光の魔法を使う。
途端、彼女の手の平に光の球が灯り、洞窟の内側を照らし出す。
そのまま内部へと足を踏み入れた。
中は岩肌が剥き出しの何の変哲も無い普通の洞窟だった。
自然に出来上がった空洞にしては高さも幅もあり、俺達三人が横に並んで歩いても大分余裕がある。
洞窟は真っ直ぐに伸びていた。
それに沿って暫く歩いて行くと、少々広さのある場所に辿り着く。
と、そこで鼻を突く異臭。
この臭いは……。
記憶の中の臭気サンプルと一致したと同時だった。
ルーシェの燭光が、その正体を照らし出す。
「……ひぃっ!?」
アルマが掠れたような悲鳴を上げた。
照らし出されたのは、無数のゴブリンの死体だった。
死体がまるで藁山のように無造作に積み重ねられていて、その光景を見るだけでもおぞましい。
しかも、既に腐り始めているようで、そこかしこで蛆が湧いている。
俺達を襲ってきたものと違い、こうなってしまっては傀儡としての利用価値も無く、放置されているのだろう。
酷いものだ……。
よくよく見れば、ゴブリン以外の死体も確認できる。
魔物だけに留まらず、熊や狼などの動物の姿も見受けられる。
この場は、命を命と捉えない……まるで傀儡の材料置き場といった雰囲気を醸し出していた。
「マ、マオ様……」
ルーシェが辛そうな声で訴えてきている。
これらのものに明かりを向け続けている者の身になって考えれば、その苦しさも自ずと分かる。
「ああ、もういいぞ」
言ってやると彼女は安堵したように明かりの向きを変えた。
だが、それは不用意だった。
新たに照らし出された場所には、目を覆うほどの凄惨な光景が広がっていたのだ。
「あ……ああ……」
ルーシェは声も出ず固まってしまっている。
俺は思わず、奥歯を噛み締めた。
そこにあったのは人間の死体だったのだ。
大半が大人の男性であったが、中には母親とその娘らしき死体もあった。
互いに寄り添うような形で岩壁に座らされている母娘の姿を見ていると、柄にも無く体が熱くなっているのを感じる。
「悪趣味がすぎるだろ……」
思わずそんな言葉が口を突いて出た時、側にいたアルマの体がフラリと傾いた。
「おっと、大丈夫か」
「あ……す、すみません」
咄嗟に受け止めると、彼女は気を失いかけていたのか腕の中で渇いた笑みを見せる。
「まさか……また、こんな光景を目にしてしまうとは思ってなかったので……」
「また?」
「前に……人が失踪する事件が相次いで起きたことがあって……犯人として傀儡師の存在が浮かび上がり、その討伐を命じられた時があったんです。あの時も、こんな光景に怯えるばかりで、何もできなかったんです……」
アルマは悔やむように視線を逸らす。
「それが普通じゃないか」
「え……」
「こんな光景を見せられて、平気でいられる人間にはなって欲しくはないがな」
「……」
言いながら彼女を立たせると、俺は洞窟の奥に目を向ける。
そこは行き止まりだったが、壁際に木箱が堆く積まれており、その中で多くの宝石や金貨が燭光の明かりを浴びて煌めいていた。
「ともかく、ここの主は野放しにしちゃいけない存在だってのは確かだな」
恐らく、この傀儡師は邪竜騒ぎに便乗して、荒稼ぎをしている。
ゴブリンが凶暴化したのは邪竜せいだと思わせ、街道を行く商人の馬車を襲い金品を強奪しているのだ。
邪竜にとっても、いい迷惑である。
やり口としては盗賊達と一緒だが、こちらは更に輪を掛けて醜悪だ。
死者を愚弄するやり方。
こんな外道を放っておけるわけがない。
まずはその傀儡師を捕まえる。
そう思った矢先だった。
ウウウウゥゥ……。
周囲から一斉に低い唸り声が上がった。
見れば、周りにある全ての死体が動き始めている。
腐ったものも、そうでないものも。
魔物も動物も。
そして人間も。
ゆらりと体を持ち上げ、俺達を取り囲もうとしている。
「っ!?」
「あわわわ……」
アルマとルーシェは互いに抱き合ってブルブルと震えるばかり。
だが所詮はただの死体だ。
俺が一払いするだけで全てが吹き飛ぶだろう。
しかし、傀儡となった死者とて、そんな手荒な真似はしたくない。
それに――。
俺はすかさず背後に振り向き、闇の中で煌めいた銀色の光を指先で止める。
人差し指で支えたそれは、一本のナイフだった。
俺は、ほくそ笑む。
「まさか、それで不意打ちのつもりか?」
ナイフを辿った先にある人物の顔は驚愕に染まっていた。




