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1話 隠遁生活に憧れて

【1話】 隠遁生活に憧れて




「覚悟しろ! 魔王!」




 場は玉座の間。



 精悍な顔付きの、いかにも勇者って感じの男が俺に剣先を向けていた。



 それはまあ仕方が無いといえば、そうなのかもしれない。




 だって俺、魔王だから。




 この状況、客観的に見れば鬼気迫る場面なのだろう。



 でも、俺は心の中で、



「やれやれ……」



 と嘆息していた。



 俺がこの世に生を受けてから、幾年月。

 これまでにも何人もの勇者と、こうやって対峙してきた。




 ある時は筋骨隆々の肉体を持った孤高の勇者。

 


 ある時は魔法に長けた頭脳派勇者。



 ある時は、非常にバランスの取れた勇者パーティ。




 彼らと向き合う度に毎回、同じように嘆いていたのだ。



 それはなぜか?



 大きな理由の一つが――



 俺は戦いが好きじゃないってこと。



 俺自身、そんじょそこらの攻撃じゃ傷一つ付かないが、人間という奴は非常に脆い生き物で、人差し指で軽く小突いただけで簡単に壊れてしまう。



 誰かを傷付けることは苦手なのだ。



 そもそも戦う理由だって無い。



 あいつらは魔物だ、魔王だ、討伐だ、とやってくるが、俺は人間に手を出した覚えはこれっぽっちも無い。



 なのにも拘わらず、あいつらは俺が魔王っていうだけで討伐にやってくる。

 そんな理由で一々戦いを挑まれる方の身としては、たまったもんじゃない。



 だけど俺は、人間って奴が案外、気に入ってる。

 憧れすら感じる。



 だからこそ、こんな殺伐とした争いには、ほとほとうんざりしているのだ。

 ほんと、いい加減にして欲しい。



 ああ、どこか誰もいない場所で静かに暮らしたい!

 田舎で猫でも飼って、のんびりと過ごすのだ。



 ただそれだけの願いなのに、全く叶いそうにない。




「さあ、おとなしく永劫の闇へと還るがいい!」




 勇者が強い口調で叫んだ。



 ほらね。



 こっちだって、その永劫の闇とかいう、そんな場所があるなら、とっくに帰ってるよ!



 しかし、この台詞を聞くのも、もう何回だろうか……。

 あいつらは、これを言わなきゃいけない呪いでもかけられてるのか?



 いちいち反論する気にもなれない。

 まあ、それ自体無意味なんだけど。



 奴らにとって俺達魔物は困った存在なのだろうから。



 さて――。



 俺は気を取り直して、意識を目の前の勇者に移す。

 対勇者用の演目を決める為だ。



 今回は、どのパターンで行くかな……。




 致命傷にならない程度の力でビビらせ、退散してもらうパターン。



 逆に俺が傷を負ったように見せかけて逃げるパターン。



 あとは封印されたふりをして相手が去るのを待つパターン。




 大体、この3パターンくらいしかないのだけど……どれも根本的な解決にはならないんだよなあ。



 力でビビらせるパターンは一時的には居なくなるが、どうせまたすぐにやってくるし、俺がやられたフリをして逃走するのは、いずれ場所を突き止められてしまう。


 そもそも住む場所をまた一から構築するのも面倒なのだ。



 となると、封印されたふりパターンが一番無難なのだが……これもこれで難点がある。



 俺の迫真の演技のせいで、奴らは聖剣に魔王を封印する力があると信じ込んでいるが実際の所、この身には全然効いてない。



 勇者が聖剣の力で生み出した封印の祠に、



「うあーやめろー」



 と、わざとらしくならないよう自分から足を踏み入れて、封印されたふりをするだけだ。



 その後、ほとぼりが冷めた頃合いを見計らって、こっそり祠から抜け出すのだが……あいつらは余程嗅覚が良いのか、すぐに嗅ぎ付けてやってくる。



 恐らく、俺が祠から出ると封印の力が消えてしまうので、それで勘付かれてしまうのだろう。



 そんな訳で結局、どれを選択しても同じことを繰り返すだけ。

 何にも変わらないのだ。



 はあ……。



 できることなら生まれ変わってやり直したい。

 今度は魔王じゃない人生を歩むのだ。


 誰かに左右されず、自分だけの為に生きる。

 そして、さっき言ったようなスローライフを送る。



 とは言ってもこの体……。

 不老不死なので、生まれ変わることすらできないんだけどな。



 はあ……。



 と、二度目の長息を吐いた所で、何かが心に引っ掛かる。



 ……ん。



 生まれ変わる……?

 ということは……。



 ……はっ!



 そこで俺は、あることに思い当たった。



 そうか!


 復活の可能性がある封印だからダメだったんだ。



 だったら、



 死んだふりすればよくね?



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