古典落語はしたくない7
音吉、舞太と出て行って、再び一人となった師匠ではありますが、二度あることは三度あると言います。
「され、何だか嫌な予感がするねえ」
そう師匠が独り言を言うと、またまた別の弟子である、ふかし、と言う名のものがやってきました。
「師匠、師匠、少しばかりお時間よろしいですか」
「そら、やっぱりきたよ」
「やっぱりって言うのは、師匠、そいつはどういうことですか」
「どうでもいいよ、そんな事は。それで、ふかし、お前も古典をやりたくないなんてことを言うのかい」
師匠はいい加減飽き飽きしていたものだからこう言ったわけですが、そんなこととはつゆほども知らないふかしはどう切り出していいのか迷っていたところを、師匠に機先を制されて、一瞬戸惑いますが、それはそれとして、つらつらと自分の思いの丈を師匠にぶつけます。
「すごい!よくわかりましたね、師匠そうです、その通りなんですよ、師匠。自分、正直に言わせてもらうと古典はですね、もう今、現在となってはですね、実際のところと少々ズレが出てきてしまってるんじゃあないかと思っているんですがね」
「ふかしや、一応言っておくがね、おそらくお前の言う古典っていうんのは落語のことじゃあないとは思うけれどもね、それでも言わせてもらうとだね、お前の言う通りでね、確かに古典っていうものは作られたのは何百年も前のものだけれどもね、人の心、っていうものはそんな百年や二百年かそこらでそうそう簡単に変わるっていうものじゃあないんだ。確かに年月が立つに連れてね、人間の生活の仕方っていうものはいろいろ変わってきたけれどもね、そこで生きている人間の中身はいつだって同じなんだ。だからね、古典っていうものはだね、古臭いものだけどね、いや、古臭いものだからこそね、変わらない人間の心の中を描いていてだね、その結果お客さんがそいつで笑っていただくっていう寸法でね……」
師匠はついつい自分の古典落語についての見解を長々と説明してしまいますが、ふかしはそれを遮ってあまりといえばあまりな一言を発します。
「師匠が何を言っているのかさっぱりわかりません」
「ああ、そうだろうねえ、そうだと思ったよ。で、ふかし、お前のいう古典っていうのはどういう古典で、何でまた古典を辞めたいと思って、そして新しく何を始めたいんだい」
師匠はもう投げやりになって、ふかしに説明を求めます。