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古典落語はしたくない  作者: らくご者
6/11

古典落語はしたくない6

舞太はそれこそ踊りださんばかりに熱弁を振るいますが、師匠は至って冷静です。

「違うよ、舞太」

「違うって何がですか、師匠」

「あたしはね踊り子さんじゃあなくてね、落語をする噺家なの」

「師匠、嘘でしょう。冗談にしたって笑えませんよ」

「そりゃあ、冗談じゃあなくて、本当のことだからね、舞太」

「えっ、だって、そのう」

「わかってるよ、舞太。どうせお前もあたしが何かしたから勘違いしたって言うんだろう。そうなんだろう。そうに決まってるのだろうよ。さあ、怒らないからその理由を言ってごらんなさい」

舞太はしどろもどろになってしまいましたが、師匠は優しくなだめるように問いかけてくれます。そのおかげもあってか。舞太は正直に理由を話しだしました。

「その、わたし、初めて師匠が正座している姿を見たときにですね、こう、全身に電気がビビって流れるような気持ちになったんですね。ああ、なんて凛とした佇まいなんだろうって、そんなものだから、わたしは、この人に教わるしかないって思ったんです。この人に教えを請えば、わたしも人様に姿を見せただけで感動を与えられるようなダンサーになれるんじゃあないかって」

舞太のその姿はまるで初恋を語る女子中学生のようでした。そんなことを言われたものだから、師匠もまんざら悪い気もしません。

「そうだったのかい、舞太。まあ確かに、あたしの正座しているところに惚れ込んでくれったて言うのは嬉しいけれどもね、やっぱりあたしは噺家だからね、落語を褒められてもらいたいんだよ。それにね、お前がそのダンスとやらをやりたいって言うのは重々わかったけどね、じゃあ一つあたしが指南してしんぜようってわけにはいかないんだよ」

「そんな、師匠! それじゃあわたしは破門されるっていうことですか!」

師匠の残念そうな物言いに舞太は心底そんな事はごめんだ、と言った様子です。結局のところ落語とダンスというやることに違いはあったようですが、舞太が師匠を尊敬してやまない、ということに変わりはなかったようです。

「いや、破門ってほどのことじゃあないんだけどね」

「師匠! それじゃあわたしはこれからも師匠のことを師匠と呼ばせていただかせてよろしいんですね。師匠の正座姿をわたしの理想とさせてもらって構わないんですか?」

「うん、それくらいなら別に問題ないけどね。いや、けど踊りは教えられないよ。それは自分で何とかしてもらいたいんだけどね」

「はい、師匠! わたしにとって師匠は今までも、そしてこれからも師匠ただ一人です。どうもありがとうございます。不肖、この舞太、今から師匠の元を離れささていただきますが、師匠の教えをしかと胸に抱いて芸を精進させていただきます」

舞太はそう言うが早いが、まさしく踊るような足取りで師匠の元から飛び出して行きました。

「言うほど何かを教えたって言うわけじゃあないけどね」

師匠は一人残されてついつい呟きます。





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