古典落語はしたくない5
舞太は切々と訴えます。
「やっぱり、わたしはですね、伝統の殻なんてものを打ち破りたいんですよ。具体的にはですね、立ち上がったり飛んだり跳ねたりしてですね、自分は何にも縛られてはいないぞっていうことを表現したいんですが……」
舞太の説明を、師匠がとんでもないと言った様子で慌てて遮ります。
「いやいや、ちょと待ちなよ、舞太。あたしたちがやっているものは落語なんだからね、実際問題正座を崩すっていうのはまずいよ」
「落語って、師匠、一体全体何をおっしゃっているんですかい」
舞太の何処かで聞いたような問いかけに師匠はいやな予感が頭をもたげます。
「いや、だからね、舞太、そもそもお前の言っている古典っていうのは何のことなんだい」
「何を言ってるんですか、師匠。クラシックダンスのことに決まってるじゃあないですか」
舞太が先ほどの音吉と同じようにあっけらかんとして答えたものだから、師匠は思わず渋い顔をして言葉を絞りだします。
「クラシックダンスねえ、そうか、そうきたかい。ダンスときたか……じゃあとりあえずだね、クラシックダンスをしたくないというのならね、代わりに何をしたいのか聞こうじゃあないか」
「わかりました、師匠。そもそもですね、クラシックダンスというものは、大元の基本ががっちりと決まっていて、まず最初にその基本の動きを叩き込まれるんですね。だからわたしは正座ばっかりさせられるんでしょう。正直なところ、わたし、もう正座には飽き飽きしてきたんですよ。そこでモダンダンスなんです。わたしみたいにですね、伝統ばっかりじゃダメだって考える人が他にもいてですね、そんな人達が自分の感情を思うままに、自由奔放に、約束事とかそう言ったものを取っ払って始めたものがモダンダンスなんです。わたしも正座からすっくと立ち上がって溢れ出る感情をありのままに表現したいんですよ」