古典落語はしたくない4
音吉が去って行った後に一人残された形になった師匠ですが、兎にも角にも一安心しました。
「やれやれ、せわしないったらありゃしないよ、まったく。 しかし何だったろうだろうねえ、あれは」
師匠がそうひとりごちていると、師匠の別の弟子である、舞太がやってきて、師匠に頼みごとをします。
「師匠、師匠、わたし、師匠に頼みごとがあるんですがね」
「なんだい、舞太、おまえもかい」
「おまえもかいって、師匠、どういうことですか」
「なんでもないよ。こっちの話だよ、舞太。それで、いったい頼みごとってのは、いったい何なんだい」
師匠の問いかけに舞太は申し訳なさそうに切り出します。
「師匠、わたしはねもう古典なんてやりたくないんですよ」
「お前までそんなことを言うのかい、舞太や」
舞太が音吉と同じ申し出をされて師匠は悲しいやら情けないやら分からなくなってきました。
「舞太や、お願いだから理由を言ってくれよ。古典をやりたくないなんて言うその理由をさ」
「ええ、師匠、それと言うのものですね、わたし、事あるたびに注意されるんですよ。『なんだその姿勢は、きちんとしろ。背筋を伸ばせ。伝統を何だと思ってるんだ』って言った具合にです。もう口うるさいったらありゃしないですよ。確かに伝統やら何やらが大事なのはわかりますがね、それにしたって毎回毎回正座ばかりさせられるって言うのはどうにもこうにもたまりませんや」
「しかしだね、舞太、やっぱりだね、正座はすべての基本だよ」
「はい、わかってます、師匠。やはりですね、正座っていうのは、こう、ピシッとしてですね、なんとも言えない凛とした佇まいがあって、わたし、好きなんですがね」
「わかってるじゃあないか、舞太よ。それならどうして古典なんていやだというんだい」