古典落語はしたくない1
前回は古典落語の『死神』をモチーフとしたパロディでしたが今回は私の創作となります。ちなみに今回はまだ完結していません。それでもよろしければ是非、ご拝読してください。
今どきの若い者は、という言葉がございますな。まあ、年寄りが若者のことを、やれ常識を知らないだの、やれろくな経験もしていないだのと言って愚痴るときの表現なわけですが、とは言っても、そんなことを言っている、年寄りも自分が若いときには、同じことをその時代の年寄りに言われているわけでございまして……
とあるところに落語家のお師匠様がいらっしゃいました。そこに名前を音吉というお弟子さんがやってきて師匠に相談事を持ち掛けます。
「師匠、師匠、ちょっとお時間よろしいですか?」
音吉の頼みに師匠は答えます。
「何だい、音吉、どうしたい」
「師匠、それなんですがね、常々師匠は『古典をしろ、古典がすべてだ』なんておっしゃっていますがね、やっぱりですね、ぼくは古典ばかりやっているわけにはいかないと思うんですよ。だって、古典って、あれは電気もろくになかった時代のものでしょう? ですからね、古典ってのはですね、今の時代には則わないと思うんですよね」
音吉の無礼ともいえる物言いに、師匠は憮然としながらも答えます。
「ああ、まったく音吉や、そんなことをいうのかい。『電気がない』って言うがね、じゃあお前、その電気でどうしたいって言うんだよ。どうせあれだろう。お前はいっちょテレビに出てだね、大勢の人間にちやほやされる人気者になりたいっていう魂胆だろう。違うかい。いいかい、あたしはだね、テレビってのはやっぱり好きになれないよ。あんなふうにだね、ちょっと見てくれの良い若いものをだね、派手な照明や音楽を使ってきらびやかにしてね、手っ取り早く人気者に仕立て上げることは、あたしはどうかしてるんじゃあないか、と思うんだよ」
師匠は年寄りらしく若者である音吉の物言いに、口を酸っぱくして答えますが、音吉はとんでもないというふうに首を振ります。
「いや、違いますってば、師匠。ぼくだってね、芸をするなら、やっぱり舞台でやるべきだと思うんですよ。なんてったって、芸は直接お客さんの目の前でするものですからね」
「音吉、わかってるじゃあねえか。そうだよ、芸は舞台でしてこそだよ。しかしそれならね、なんでまた古典をやりたくないなんて言うんだ」