第7話「燃えてるみたい、だね」
◇
待機用異世界「バーガーランド 」内、ジャックバーガー異世界店にて。
「怖かったねー、ちっちゃなおじいさんの群れ」
「あれだけ数がいるとチートの定義とかわかんなくなるよなぁ。『静』の力使えたから気づいたけど、一歩間違ったら今頃胃袋の中だったぜ?」
「こういう話を挟んで『主人公達は必ずしも万能ではありません』っていうのをアピールするやり方、あたしは好きじゃないかなー」
「どこからの誰目線だよ。ポテト食えポテト」
「もぐもぐ、そういえばヒビィってジャクバでバイトしてるんだよー」
「日々子が? あいつに提供出来るスマイルなんか存在しないだろ」
「ううん、ゼロ円で振り撒いてるみたい。偉いなぁ、ちゃんと頑張ってて」
「まぁ……タダで貰った力で無双して稼いでる俺達よりは、な」
「そういえば、なんであんたリス好きなの? 似合わなすぎー」
「いいだろ別に。世界的に有名なアニメとランドのキャラが好きなだけだ」
「うわー、切ない恋バナとか幼少期のトラウマネタとか期待したあたしが馬鹿だったー。何その平和でしかない理由」
「うるせーよ! ……ポテトのお代わりは?」
「いる!」
……いつもいつも、元気だねぇ。
「おう、ジャッキー」
「ジャッキー! チート倒す前だから、とかじゃなくて普通に大ピンチの時くらい助けてよー! 女子高生がおっさんに襲われたんだよ? 日本の法律なら死刑だよー?」
ボクの知ってる日本にはそんな法律なかったと思うけど……。
そんなことより、てけててーん! げんぶつしきゅう~!
「わーい! お金だー! ひぃふぅみぃ、きゃーっ」
「さっきまで檻の中で狼狽えてたのが嘘みたいなテンションだな」
現金で元気になる、ちょっと韻も踏んでるしポジティブで何よりだね。
そうそう、さっきの「オウルドイーター」で、キミ達が倒したチート数はなななんと、合計三十六になりましたー! おめでとー!
「祝われるほどのもんなのか、よくわかんないな」
「三十六、ってだいぶ中途半端だね」
いいのいいの、キミ達の日々の活躍には感謝してるよ、本当に。
「ジャッキー……」
「こちらこそ、これからもよろしくね! ジャッキーラブ! マネーラブ!」
うん。なんか言おうとしてたことあったんだけど、もういいや。それじゃ、レッツらワープ~!
◇
「言おうとしてたことあったんだけど」とか、ちょっと病んでるセリフみたいで吐き気がするね。
あいつらのお陰でまた一つ、世界は平和になりました。めでたしめでたしー、とはならないしね。
……おかしいんだよなぁ、腑に落ちないんだよなぁ。ボクは二人をあの食人族の村に直で送ったはずなのに、どうして転送地点に誤差が生じたんだろう。
結果的に最初に遭遇したのがチートだったからよかったものの、もしもそうじゃなくて、例えば普通の魔物だったりしたら……。
まぁいいや、ピンチを切り抜けたばかりのあいつらを不安がらせても仕方ないし。
あ、お会計お願いしまーす。……二万飛んで七百円!? ファストフードでどれだけ食べてんだよ!
◇
「アリス、一緒に帰ろ……? 私とアリスが一緒に帰るのは前世からの約束なんだよ……」
放課後、ヒビィは時々こんなふうに声を掛けてくれる。
人見知りのあたしはこくんと頷いて、優しい夕焼けの中を並んで歩いて行く。ロリータな体躯のヒビィは普段は見た目に似合わない皮肉屋だけど、あたしと一緒にいる時はいつだって親切で、楽しい気持ちにさせてくれる。
「ふふっ」
不意に、何かを思い出したようにヒビィが笑みを浮かべた。どうしたの? と訊ねるあたしに、
「……なんでもない。夕焼け、綺麗だね。燃えてるみたい、だね……」
世界が燃えてるみたいだね。そう言って、あたし達は何かがおかしくて、くすくすと笑い合った。
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