第4話「問題はあれだよなぁ」
◇
「複合系オリジナルスキル『ネヴァーノウズ 』!」
空を埋めつくした黒雲から数え切れないほどの雷が降り注ぐ。
白い外套を身にまとったチート魔術師くんの最奥義らしい。屋外はもちろん、たとえ核シェルターに籠っていても数多の雷は必ず対象を灼き焦がす……!
「みたいなやつ?」
「だなぁ」
まず、雷、めっちゃ当たってる。あたしもクズ村も、昔のアニメだったら骨が透けて見えちゃうくらい。
「なっ……なんだとっ!?」
「あーなんかもうそれ、敵キャラのセリフだよね? ポンコツ勇者を支えるチート魔術師って設定じゃなかったっけ?」
うろたえるチートくんをからかうあたしを、
「おい」
珍しくクズ村が低い声で制してきた。ゆっくりと首を横に振って、
「設定とか……言ってやるなよ」
はぁ。よくわかんないけど。
「ごめんごめん、今のなし」
たまには素直に従ってあげましょー。あ、雷消えちゃった。チートくん、戦意喪失らしい。
うーん、どうしようかなぁ。あ、それじゃあ、
「お詫びにね、あたし達のスキル教えてあげるからさ。元気出してよ」
「設定」という言葉を受けてずーんとしてるチートくんに、あたしは微笑み掛ける。女の子の笑顔だぞー、喜べ喜べ!
「こっちのクズ村の『静』のスキルは、簡単に言えば『無効化』。物理攻撃も精神攻撃も毒も細菌も時空歪曲もなんでもかんでも。相手が『無効化』スキルを持ってたらそれも無効化、ここポイントね」
あたしの説明にクズ村が「わかりやすっ」といいリアクションをしてくれた。あんたのためじゃないっつーの。
「…………」
言葉を発しないままチートくんがあたしを指差す。どうやら興味を持ってくれたらしい。ちょっと嬉しい、かな。
得意気になって、あたしは説明を続ける。
「あたしはねー、『動』のスキルなの。相手のスキルをコピーして、二倍から二兆倍の威力で使えるんだよっ」
よっ、ってどんなキャラの語尾だよ。舌を噛み千切りたくなったけど堪えた。
「たとえばさっきあなたが唱えてたスキル、えーと……『ねばーのうず』?」
あたしが疑問形で唱えるのと同時に、さっきまでとは比べ物にならないくらいの落雷……というか、眩し過ぎて何も見えなくなった。
しばらく目を閉じて、ゆっくり開くと黒焦げになったチートくんの遺体……もないや。やり過ぎたー。
「って感じでねー、気をつけなくちゃね」
チートくんがいる体で話し続けてみる。
「ただ、問題はあれだよなぁ」
ぼやくようにクズ村があたしの言葉に付け加える。
「チートスキル持ってる奴にしか使えないっつーのがなぁ」
うーん、確かに。
そうなのです。チートスキルを持ってる相手としか、あたし達は戦えない。
たとえば勇者御一行様。勇者がチートキャラなら勇者には勝てるけど、パーティーのその他のメンバーには……ムリムリ。可憐な女子高生ですからー。
まぁ、いつもはチートキャラを真っ先に倒してはったりでごまかしてるけどね。
「別にいいんじゃない? あたし達って別に世界を救いたいわけじゃないし。征服したいわけでもないし」
「まぁ、な。で、どうすんだこの世界? 黒焦げだぞ?」
見渡す限り焦土と化した大地。あたし達に出来ることは……。
「帰ろうか」
「だな」
ジャッキー、と名前を呼ぶこともなく、あたし達は光と闇の混じり合った渦に包まれて、自分達の世界へ帰って行く。
荒れ果てた異世界のことなんかより、あたしは財布の中身と模試の結果の方が気になって仕方ないのです。
◇
これは、だいぶ酷いね。
ボクはだだっ広い荒野と化した異世界を「オート」の力で修復していく。
映像を逆再生するように大地には木々が息吹き、草花が踊る。
ただ一つだけ、蘇らないもの。それはもちろん、さっきアリスが殺めたチート魔術師だ。
修復が済んだらさっさと行かなくちゃ。
アリスと龍之介がジャクバのポテトを食べ尽くす前にね。
主人公達のスキル説明のお話でした。
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