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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
松崎苺の添削/画策/倒錯/柵
40/40

最終話「遅いよー!」


 簡潔に言えば、ボロ負けだった。

「神に挑んだ敗北者」ことジャッキーは、有するスキルを無制限に遣って、友達をひとりずつ確実に殺していった。


 そしてまた、最後に残されたわたしは--

「『捻じ巻き戻し』」



「あはっ。殺ってみろよ~!」

 ジャッキーの声に影島アリスが嘆息する。

「いい加減、聞き飽きたよ」

「ん~? 聞き飽きた~?」

「三億二万四千飛んで七回目だ。そりゃあねぇ」

 わたしが苦笑すると、

「でもよ、そろそろなんとかなりそうだよな」

「あと一万回以内で勝てそうですわね」

「……気の長い話だね……」

「『雨垂れ石を穿つ』だな!」

 三億回以上殺されたのに、みんなはどんどん明るくなっていた。明るい、っつーかヤケになってる感じ?


 わたしのチートスキル『捻じ巻き戻し』を使えば、幾らでも平行世界を生み出すことが出来る。しかも、殺される前まで時間を戻して。

「あはは~! 元気だね~!」

 ジャッキーもそのことには気付いてるんだろうけど、とぼけた振りをして笑っている。身体が半分溶けた、佐伯ルナの姿で。


「『ゴールデンウィークポイント』!」

 赤瀬川葵が敵との距離を取り、

「困ったなぁ!」

 と小森日々子が叫べばわたし達のリミッターは外れる。

「『ゲームオーバー』!」

 灰崎寅宗が真空の刃を放ち、けれどそれはジャッキーに片手で叩かれて終わりだ。

「『パンデミック・マジョリティ』! かーらーの、『ソウル・インフィニティ』!」

 影島アリスが、かつて屠った敵のスキルを操る。無制限に自らのクローンを生み出し、その一人ひとりがジャッキーを無に帰そうとする。

 それでも、


 ぱあん! と大きな音を立てて弾けたジャッキーは、次の瞬間には佐伯ルナの姿に戻っている。


「ボスキャラが友達の姿をしてるって、ゲームなんかじゃよくあるけどよ」

 ジャッキーが手のひらから放つ闇色の散弾を「静」の力で打ち消しながら、鈴村龍之介が口を開いた。

「こうして直面してみると、あんまりピンチな感じしねーよな。ルナルナに似てるだけで、全然違う--あいつは、俺たちにこんなことしねーよ!」

「うん! 『ゲームオーバー』!」

 応えるように、影島アリスが灰崎寅宗のスキルを遣う。弱体化は解かれて、リミッターも外している。

 それでも、『相手の人生を強制的に終わらせる』はずのチートスキルは、ジャッキーに届かなかった。


「茶番だよね~」

 振り返ると、赤瀬川葵も小森日々子も灰崎寅宗も殺されていた。

 赤瀬川葵は黒焦げにされて。小森日々子は内蔵を掻き回されて。灰崎寅宗は切り刻まれて。殺されていた。

 そして、正面に向き直った時にはチートスレイヤーズの二人も殺されていた。

 鈴村龍之介は四肢の骨を折られて。影島アリスは首を飛ばされて。

 三億回以上見た光景だけど、決して慣れるようなものではない。もう二度と見たくない。それでも、敵に勝つまでは繰り返さないといけないのだ。

 友達のために、鷺沼正義のために。



「『捻じ巻き戻--』」

「おっはよー!」

 廊下から教室に入ってきた人影は、のんきな声を上げて微笑んだ。明るく染めた髪がキラキラと輝いて、偽物とは全然う。鈴村龍之介、お前の言ってたことは正しいよ。

「はじめまして、だよね。わたしは松崎苺」

 そんなふうにわたしが挨拶を返すと、彼女はまた微笑んだ。

「そうだね。はじめまして--そして、さようなら」



「愛されるけれど、愛せないチートスキル」だと鷺沼正義は言っていた。遣い勝手の悪いあのスキルを持った彼女は、どうすればよかったんだろう。そうぼやいていた。


「苺ちゃん。サギーのお陰で、こうして一瞬だけでも逢えて嬉しかったよ」

 可愛い顔だ。さぞかしモテるだろう。

「『愛されるけど愛せない』。やっぱり、このスキルは自分のためには遣えないんだよ。だから--やっぱり、さよならしなきゃね」

 そう言うと、彼女は半壊した教室の中、わたしとジャッキーの間を横切ってベランダに向かった。ベランダに着くと、一度振り返り、友達と別れる時のように片手を挙げて大きく振った。

「!?」

 まばたきを一度した、次の瞬間にはその姿は消えていて、思わずベランダに駆け寄る。

 キラキラした光の粒子が舞っていた。飛び降りることもせず、彼女は世界から消えたのだ。

 そして、その光の粒子はどんどん広がって、わたしもジャッキーも友達の死体も包み込んで、ゆっくりと世界を呑み込んでいく。


「逢えて嬉しかったよ、佐伯ルナ」

 わたしが呟くと、耳元で、

「ううん、わたしはただの『雌豚』--」

 くすくすと笑う声が風のように流れていった。 



 まあ、そんなわけで世界は救われましたー、とかね。犠牲の上の勝利ってヤツ?

「愛されるけど愛せないスキル」を「未来」に対して遣うとか、チート過ぎやしませんかねー。

 で、悲しいことに語り部のわたしはこうして生きてるわけなんです。佐伯ルナのサービスかな?


「ポテト美味しいよねー」

「身体に悪いものほど美味しいですよね」

「……もぐもぐ……うま……」

 学生らしく、放課後にファストフードを楽しんだりしてね。

「『三本の矢』!」

「いや、ポテト三本持ってキメ顔すんなよ寅宗」

 

 あの日以来、誰もチートスキルを遣ってないみたいだ。遣えなくなった、じゃなくて遣わなくなった、ね。ここテストに出ますよー。

 あーもう、語り部とか不確定要素とか言ったって、揚げたてのフライドポテトには勝てないよねー。ファストフード最高!

「ファストフード最高!」

「いっちー、元気だね」

「あはは、影島は相変わらず可愛いねぇ」

「……世界一だよ……アリスは……」

「『青春』だな!」

「寅宗、鍵括弧つければことわざになるわけじゃないぞ」

「あ、いらっしゃったみたいですよ」


 開いた自動ドアにみんなで顔を向けると、二人は小さく手を挙げて応えた。成績優秀組は遅くまで大変だねぇ。

 少し頬をふくらませて、影島が声を掛ける。

「遅いよー! サギー! ルナ!」

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