第3話「こんなものだった」
二週間に一度だけある倫理の授業。今回は不貞行為を働いた女性についての討論だった。
要約すると、愛しい男性に会うためには好きでもない男とまぐわうことが必須。さぁどうする、みたいなやつ。
「どうでもいい……心の底から、どうでもいい……」
ヒビィが呪いの言葉を唱えるように呟いて、討論はスタートした。あたしとクズ村を含めて七人のグループ。司会はサギーだ。
「はい、小森さん、貴重なご意見ありがとう。他の方、何か意見は?」
「はいはーい!」
片手を上げて元気よく応えたのは佐伯さんだ。「どうぞ」と促されて、こほんと咳払いをしてから、
「ダメです!」
はっきりとした唇の形でそう言った。グループの一人ひとりに大きな瞳から視線を飛ばして言葉を紡いでいく。
「ダメでしょ? ねぇ? 好きな男と会いたいからって他の男とヤっちゃダメでしょ?」
「生々しいこと言うなアホ」
クズ村が佐伯さんの頭を小突く。「イテッ」とあからさまに顔をしかめてクズ村を睨む佐伯さんは、それでもどこか嬉しそうだ。せーしゅんですねー。
「だってさー、どう考えてもダメでしょ? ねぇ?」
「えーと、他の意見の方は?」
困り顔のサギーは、それでもなんとか司会業を続行する。さすがクラス一の常識人。
「すっ」
すっ、って自分で発声しながら灰崎くんが挙手した。灰崎寅宗。クズ村の幼馴染、尾井萩高校のタイガーアンドドラゴン(自称)。
「将を射んとすればまず馬を射よ」
ことわざを一つ放って、え、なんでドヤ顔してんのこの人?
「そういうことだ」
何がどういうことなのかわからない。愛しい人に会うためならヤっちゃえ、ってこと?
「なるほど……」
なんで納得してるんだよクズ村。
「あのぉ……」
「はい、赤瀬川さん」
むぅちゃんがおずおずと手を挙げる。お願いむぅちゃん、いい感じの討論に持っていくにはもうむぅちゃんしか……!
「お金で解決出来ないんですかぁ?」
「は?」
むぅちゃん!? 今まで温厚に司会をこなしてくれてたサギーが「は?」って言ったよ! これもう収集つかないよ!
「死ねばいいんだよ、みんな、死ねばいいんだよ……」
ちょっと黙っててヒビィ。
あ、灰崎くんがスマホを取り出して調べ物? と思ったらソシャゲしてるし、クズ村はその画面を覗き込みながら佐伯さんの「ねぇねぇ龍之介~」を片手でいなしてるし、滅茶苦茶だ。
「影島さん」
名前を呼ばれた瞬間、ビクッ、と金縛りに遭ったように身体に緊張が走った。
「何か意見はありますか?」
サギーの柔らかい声に応えるために、何か話そうとするけれど……。
「な、にも、ありません……」
精一杯、振り絞った言葉はそれだけだった。
影島アリス、十七歳。
チートスレイヤーズ!! なんて、異世界では威勢を張っているけれど、現実ではこんなものだった。
◇
「『こんなものだった』の腹いせで異世界壊してちゃ世話ないよなぁ」
「いーの! 今日はもう! いーの!」
呼び出された異世界で暴れ回るあたしを、クズ村は呆れたように眺めている。
「人見知り、っつーかコミュ障? なのに、なんで異世界だと強気なんだよお前」
「うるさいうるさい、うるさーい!」
アクション映画のような爆風を浴びて、名も知らぬチートモンスターは空の彼方へと飛んで行く。
ストレス解消も出来る素敵なバイトなんです、チートスレイヤーズ!!
初日なので、3話まで投稿させていただきました。
日常、非日常、織り交ぜながら書いていきたいと思います。
主人公達の「力」についても、近々。
ご意見、ご感想などお待ちしております。
やっぱり、書くのは楽しいですー!