第37話「少しだけ面白いぜ?」
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探偵もののマンガのクライマックスで「犯人はお前だ!」って容疑者を指さす時の探偵は何を考えてるんだろうね。
まあ個室に呼び出して面談するわけにもいかないんだろうけど、罪は罪として裁かれればいいだけだとわたしは思うんだよねー。
はーい! 俺様が犯人を見つけましたよー! みんなで炎上させてくださーい! って言う奴は愚かだし、それに乗っかる奴はただただ可哀想だよ。
不満とか不安とか色々あるんだろうけどさ、くだらないアニメとか見て死ぬまで生きていこうぜー。
本当、キメ顔で指さしてトリックの説明してさー。ああ楽しそうだなぁ探偵。
って思ってたよ。
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「あはっ。あははは~」
さっきまで神妙な顔してた可愛い女の子がドロドロと崩れていく様を見せられたら、キメ顔する余裕なんてないよねー。
「ジャッキー、だよねぇ?」
「ご名答~。よくできました~!」
「美しい悪意」「天啓への模範誤答」「大義ある裏切り」「完全無欠の失敗作」「掘りすぎた墓穴」「パーフェクト・パーフェクト・パーフェクト」「真っ黒な赤」などなど。
数え切れない世界の中で無数の名を持つこいつのことを、チートスレイヤーズは「ジャッキー」と呼び、父様は「神に挑んだ敗北者の抜け殻」と呼んでいた。
そう、抜け殻。全てを失った敗北者のかたまりであるこいつは、影島アリスと鈴村龍之介--チートスレイヤーズの二人を利用してスキルを収集していた。
「それでさ~、ボクがボクだってことを当ててキミはどうするの~? まさか、」
ドロドロした鈍色を少女の姿に戻して、ニヤニヤと笑う。
「殺す、とか言わないよね~?」
「ん? んー。ちょっと待ってね。作戦会議するから」
「友達」がみんな惚けているのを見兼ねて、展開を急ぐジャッキーをわたしは制した。
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「影島アリス、鈴村龍之介、灰崎寅宗、小森日々子、赤瀬川葵。みんな、気付いてるんだよね?」
一人ひとりを指さして、わたしは確認する。
「ここが無限に創られたただの『下校するだけの世界 』だってことに。どこにも進めない世界だよ、ここは 」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙、か……。そりゃそうだ、わたしはほんの少し前に現れたただのイレギュラーな「友達」なんだから。
でも、だからこそ安心したよ。こいつらには本当の友達の言葉なら届くんだって、確信できる。
父様、あなたの遺言を、いま伝えるよ。
わたしは、吸えるだけの空気を吸った。そして、
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「鈴村龍之介! 無力を平和だと勘違いしてるエゴ野郎! 佐伯ルナはベランダから飛び降りて、地面には血溜まりが残ってる。お前が『何も無い世界平和』を願ったのならそんな血溜まりさえ残さないはずだ。
忘れたくないんだろう? 自業自得で痛い目を見て恥ずかしくて死にたくて諦めて忘れようとして、それでも憶えていたいんだろう? しっかりしろよ!」
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「灰崎寅宗! コンティニューしてばかりの『ゲームオーバー』! お前はどれを選ぶんだ? 自由な異世界、不自由な日常、窮屈な友情、退屈な平和、喪失への怒り--。好きにしろよ! ただし、責任の所在はお前の外側にはないからな!」
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「小森日々子! 引きこもりの繋がらない『マリオネットワーク』! 困ってないのか? 助けてほしくはないのか?
……違うだろう? 困らせたいのはお前だ! 助けたいのはお前だろう! 好きなように叫べ! そして思い知れ! お前の身体はお前の言うことしか聞かないんだよ!」
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「赤瀬川葵! 弱点だらけの『ゴールデンウィークポイント』! 平穏を望むなら代償を差し出せ! 革命を起こさずに英雄を気取るな! 世界はお前のために存在しない、お前は世界のために存在してるわけじゃない! 落ち着きたいならがむしゃらに動け!」
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「影島アリス! わかってるよな? 悲劇じゃひとは笑えない。……観客のいない舞台で踊って楽しいか? お前は「悲劇」だ。最低の脚本を用意してやった。だから、お前が戦い、お前が笑え!
……悲劇を喜劇に変えるのは、少しだけ面白いぜ?」
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「ん~? 作戦会議とやらは終わったのかな~?」
けらけらけら! と佐伯ルナの姿で笑うジャッキーに、わたし達は意思のある瞳で応えた。
「あはっ。殺ってみろよ~!」




