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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
松崎苺の添削/画策/倒錯/柵
38/40

第36話「もっとちゃんとしろよ」


 青春を謳歌する、なんて言うのは大人ばかりで、子ども達はみんな地獄にいるのさ。

 思春期だからー、で片付けないでいただけますかねぇ? ねぇ?

 スクールカーストとかマイノリティとか格好良さげな片仮名宛てがって、はいはい我々は理解していますよみたいな顔してんじゃねーよ。

 

 なーんて意見をSNSで見掛けてどうでもよくなって、あーユーチューバーにでもなろうかなぁ、って見えない未来に夢を見たことは、わたしはないんだけどね。

 いや、誰にもそんな夢はないのかもしれないし、どうでもいいけど。


 未来に夢を見なさい、ただし保証はできません。


 不確定要素の賑やかし傍観者であるわたし、松崎苺から見てもこの世界は不条理で溢れていて嫌になるけど、その「嫌になった結果」のひとつが今まさに眼前に広がっているわけです。



 チートスレイヤーズの片割れ、鈴村龍之介の願い「世界平和」が歪んだ形で叶えられた結果、

「龍之介ー! 一緒に帰ろー!」

「『仲良きことは美しきかな』、だな」

「おう、ルナルナ! 寅宗!」

「……一緒に帰ろう、アリス……」

「私もご一緒しますわ」

「うん、ヒビィ! むぅちゃん!」


 夕焼けの教室。繰り返される下校時刻。


 ……わたしのチートスキル「捻じ巻き戻し」が遣われてしまっている……。

「やり直し」なんてキメ顔で言ったのが恥ずかしくなってくるよ。


 鈴村龍之介の「静」の力で抑えられて、影島アリスの「動」の力で好き放題に遣われてしまっているわたしのチートスキル「捻じ巻き戻し」。

 簡単に言えば無限に平行世界を産み出せるってだけなんだけどねー。今のこの世界が何億個目なのかわかんないやー。ははは。


 いや、辛い思いをしたのは分かるけどさー、過去に囚われることを「世界平和」なんて呼んじゃいけないでしょう、少年。

 なーんて、大人ぶりたい訳でもないし、「このまま世界が終わってしまえばいい」と思うことを「悪」とは呼びたくないけどね。


 うーん、でも、このお話もそろそろ終わらせないと。父様のためにもね。

 夢から覚めるまでが青春ですよー。



 帰り支度を終えて教室を出ようとする「友達」を、

「ちょっと待って!」

 ひとりの少女が通せんぼした。教室と廊下の間に立って、両手をめいっぱい広げて。


「どうしたの? いっちー」

「松崎、忘れ物か? 待っててやるから取ってこいよ」


「そうじゃなくて。いやあ、さ。楽しいよ? とっても楽しいよ? 突然産み落とされた『スキルそのもの』のわたしだって、オチのない四コマ漫画みたいな平和な日常に憧れはするよ?

 でもねー、ちょっとチート過ぎません?」

 

「『可愛い子には旅をさせよ』、か?」

「……どうしたの……? 苺……」

「松崎さん、ゲームか何かのお話ですか?」


「うん、ゲームか何かのお話だよ。上手く行きすぎて気持ち悪くなる、ズルい奴の話だよ」

「松崎、お前……何を……」


 少し狼狽したように見える『友達』の向こう、ベランダを松崎苺は指さした。


「そこから、ひとり。落ちたよね」



「『捻じ巻き戻し』で繰り返すのは構わない

『ゴールデンウィークポイント』で適切な距離を置くのは構わない?

『マリオネットワーク』で助けてもらうのは構わない?

『ゲームオーバー』で別の人生を過ごすのは構わない?

『雌豚』で想われるのは構わない?」


「やめてくださいっ!」

「……やめて……!」

「やめろ!」

「…………」

「ズルいんだよ、お前達。現実から目を背けるなら、もっとちゃんとしろよ。何美味しいとこだけ味わってんだよ。

 ……ねぇ、佐伯ルナ」


 松崎苺は、ベランダから少女のひとりに人差し指を移した。

「きみ、本当に『佐伯ルナ』なの?」

「……あはっ」


「『捻じ巻き戻し』の世界に父様が、『鷺沼正義』がいないのは、お前の都合だろう? ねぇ、佐伯ルナ」

「……あはっ、あははは~」

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