第2話「いつかブーメランみたいに返ってくるのかもねー」
◇
チート討伐完了。
待機用異世界「バーガーランド」内、ジャックバーガー異世界店にて。
「毎回、思うんだけどさ」
「ん?」
「チートチートって馬鹿の一つ覚えみたいにさー。よく言うなぁ、って。ん、ポテトうまっ!」
「だなぁ。なんだろうなぁ。まぁ、転生して強くなったりして、そんで異世界っていう環境にいると万能感? みたいなのが出ちまうんじゃねぇの? ……よく食べるなお前」
「最初から強いってズルいよねー。もぐもぐ」
「それがウリなんだろ。転生する前の人生で劣ってたりするのは前振りだよな」
「あとさー、もぐもぐ、そういうヤツらって自分がすごいってこと割と隠すよね? もぐもぐ、一人で十分戦えるくせに、もぐもぐ、仲間がどーのとかスローライフだとか」
「そりゃまぁ……ネタ切れ防止とかネタ被り防止とか、いろいろあんだろ。あ、すいませーん、ポテト追加で。あとコーラ」
「大変なんだねー。あー、こうやってあたし達が喋ってるのもいつかブーメランみたいに返ってくるのかもねー」
はいはーい、今日はそのへんにしておこうか。
「きゃー、ぬいぐるみが喋ったぁ!」
「いや、いつも通りだろ」
「ピエロをよりファンシーにした感じの、でもあんまり可愛くない小さなぬいぐるみが喋ったぁ!」
はいはい、説明ありがとね。アリスも龍之介もお疲れさま。
「むぅちゃんがくれたジャクバ本店限定レインボーカラーのストラップ付きぬいぐるみがー!」
うんうん、アリスはほんと、そういう所がアレだよね。
じゃあ、まずは恒例の……テケテテーン! げんぶつしきゅう~!
「わーい! お金だぁ」
「……別にいいんだけどよ、なんでこれ茶封筒に入ってんの?」
いや、それは一応ね、ちゃんとしとこうかと思って。明細はないけどさ。
「あとさ、今どこから出した? ぱっと空中に現れたように見えたんだけど」
「ひーふーみー、二万三千七百えーん! 嬉しいっ! ジャッキー好き! ラブ!」
あはは、あんまり強く握りしめないでね。綿出ちゃうから。
それと龍之介、あんまり詮索するの禁止ね。ボク、まだキャラ定まってないっぽいし。
「定まってないってなんだよ。メタ発言ぽいこと言えば許されるとか思うなよ?」
わぁ、怖い怖い。今時の若者はすぐキレるってほんとだね。なーんて、そんなこと言う大人になっちゃダメだよ~?
うーん、今日倒したやつでちょうど二十人目だね。いいよいいよー。じゃんじゃんやっちゃって!
チートを倒すたびに現金支給! たくさん倒したらどんな願いでも必ず一つ叶えてあげちゃう!
チートを倒してくれたらボクはうれしい! ウィンウィンだよね~。
でもね、あんまり無駄遣いしちゃダメだよ~?
「はーい」
「おう」
よしよし、それじゃあ反省会終わりっ! 会計は済ませておいたから、二人とも自分達の世界へレッツらワープ~!
◇
ジャッキーの掛け声と共に、あたし達は再びまだらの渦に包まれる。
完全に視界が遮られている間に、あたしは制服に付いた埃を払ったり、下ろしていた髪を束ねたりする。すっかり慣れちゃったなぁ、つまらないファンタジーみたいな非日常。
向かいに立っているクズ村は腕を組んでうつむいている。おやおや、何か悩み事かな?
「…………」
直立不動で寝ているだけだった。なんだコイツマジか。
そして感覚的には三分くらいの時間が経って、あたし達は呼び出される瞬間に存在していた時刻、地点に帰還する。
木曜日、四限目、二年C組の真ん中辺りの席。
退屈な退屈な、倫理の授業中だった。