第28話「お茶でもしよーぜ」
◇
「って感じにまとまったんだけど……。聞いてるんだろ? ジャッキー」
シャンデリアの飾られた天井の、その更に上。世界の果てに向かってサギーは声を掛けた。
異世界『キルトハイ』から『バーガーランド』にいるはずのジャッキーへ想いを飛ばす。
「サギー、お前にはそんなテレパシー的スキルがあったのか……!」
「ん? いやないよそんなの」
「はぁ!?」
「ほら、でも大抵のラノベって、こういう時こそ想いの力で奇跡を! みたいになるじゃないか」
真顔で語るサギーにどう返したらいいのか悩む俺を見て、女子達はくすくすと笑っていた。
「……馬鹿みたいだよな、なんか」
「うん。でもさー、それくらいじゃないとやってられないでしょ」
そう答えてアリスは微笑んだ。なんでもない、普通の女子高生のように。
「生きるってさー、基本ツラいじゃん? 楽しいことと悲しいことを足し引きしたらマイナスになるってあたしは思ってるし。だから、たまには馬鹿なことしないとね」
「ポジティブなのか病んでるのか、よくわかんねーな、お前」
歯切れの悪い俺と、
「……どっちも……需要あると思うよ……アリスは可愛いし……」
「裏と表があってこその硬貨ですものね」
相変わらず日々子はアリスを全肯定だし、葵は金の話だった。
「馬鹿って、失礼だなぁ」
「あはは。ごめんねサギー」
「アリスが謝ることないよ……馬鹿だよこいつ……」
「でも、愚かな方が楽しめることもありますよね」
「よし、じゃあみんなでやるか!」
俺達は大きく息を吸って、それぞれの想いとひとつの名前を吐き出す。
「「「「「ジャッキー!!!!!」」」」」
◇
けらけらけら! おっひさしぶり~!
まるで壁にいくつも取り付けたスピーカーから部屋の中心に向けて音を鳴らすように、姿の見えない声が響いた。
「ジャッキー!」
力を戻してほしいって? ちょっと都合が良過ぎないかな~?
って思ったんだけどね。いいよ? けらけらけらっ!
「いいのか? 俺達が勝手に辞めるって言ったのに……」
う~ん。やってくれれば、うぃんうぃんだからね~。
「悪かったな、ジャッキー」
「ごめんね、ジャッキー。まだちょっと信用してないけど」
謝る俺とアリス。信用してない、っていうのは素直な気持ちだし、ジャッキーも当然わかってるはずだ。
いいんだよ~。形だけでも謝ってくれれば、立派な大人になれるからね~。
あ、あとそこの抜け殻ちょっと来い。お茶でもしよーぜ。
「え、あ、ちょっと、」
「サギー!」
光に包まれるとかのエフェクトなしで、力は戻しておいたよ~。
じゃあ、またね~!
◇
引き止める間もなく、サギーは光と闇のまだらの渦に包まれて姿を消した。
お茶って言ってたから『バーガーランド』に連れていかれたんだろう、たぶん。
「これで、一件落着しそうですね」
笑顔の葵に、
「そうだな。とりあえず、現実世界に戻るか。サギーが無事だといいけど」
「あっちに灰崎くん、いるんだよね。謝らなくちゃね」
許してくれないって、わかっててもね。
そう言いながらアリスは、束ねている髪を解いた。
バトルモード、か……。
そう、俺達はこれから自分達の世界で戦うんだ。




