第22話「俺もうやめるわ。」
◇
寅宗の姿が完全に見えなくなった頃、いつもと同じようにまだらの渦が現れた。
ジャッキーではなく寅宗の力で連れてこられた異世界だったが、たぶん、待機用異世界「バーガーランド」に向かうんだろう。
俺もアリスも無言だ。寅宗に与えられた傷は触れる間もなく、最初から存在しなかったかのように癒えていく。
◇
やっほ~! お疲れ様だね~。
「バーガーランド」のジャクバ本店に呼び出された俺達に、ジャッキーは普段通りの言葉を掛けてきた。
「他人事みたいに言うなよ……。お前、何も知らなかったのか?」
俺の身体は、寒気もないのに震えていた。恐怖か、怒りか、寂しさか……わからないけど、いつもと変わらないジャッキーの態度を見て、問わずにはいられなかった。
「知ってたんだろ、寅宗のこと! この前の『 ブラックリッパー』の時から!」
ジャッキーは数秒、沈黙してから答えた。
うーん、大体当たりだね。ちょっとだけハズレかな~。
俺の向かいに座るアリスは、フライドポテトに手をつけることもなくうつむいたままだ。ジャッキーの話を聞いているのかどうかもわからない。
「ちょっと、ハズレ?」
どこがだよ、と訊ねる俺にジャッキーはケラケラと笑った。
もっとも~っと、前からだよ~。君達が『ブラックリッパー』を訪れるよりもずっと前から、ボクは灰崎寅宗のことを知ってました~!
ぞっとして、俺は自分の両腕を抱きしめるようにつかんだ。
なんだ、今の台詞。それじゃあ、俺が想像していたよりもずっと前から、寅宗とのことは仕組まれていたのか……?
うーん、灰崎寅宗以外にも、色々あるけどね~。
まぁ、これからも気にせずどんどん殺っちゃってよ!
願いならちゃーんと、叶えてあげるからさ~。
けらけらけら!
「……くんは、どこ行ったの?」
ジャッキーの不愉快な笑い声の後から、アリスが振り絞るように声を出した。
「灰崎くんは、どこへ行ったの?」
うつむいたまま、スカートの裾をぎゅっと握っている。
ふと、アリスが髪を結んでいないことに気づいた。結ぶ気力がなかったのか、それとも、戦いは終わってない、ってことか……。
ん~? 気になる? 気になっちゃう~?
意地の悪い思念体は、ピエロのぬいぐるみの姿でアリスの顔を覗き込む。
教えてあげませーん! って言うか、知らねーし! いなくなった奴のことなんて気にしてられないよ~。
ほらほら、「来るもの拒まず、去るもの追わず」って言うじゃん! いいことわざだよね~!
「うるせぇ!」
俺は怒鳴るようにしてジャッキーの言葉を止めた。
小さなぬいぐるみ、壊すのは簡単だ。けれど、どうせこいつはまた何かを容れ物にして現れる。思念体そのもの、意識そのものを倒さないと話は終わらない。
けど、もういい。もう、終わりにしよう。これ以上、誰かを傷つける前に。
「すっげースキル貰っておいて悪いけどよ、俺もうやめるわ。『チートスレイヤーズ』」
「あ、あたしも……」
やめます、とアリスがびくびくした声音で続いた。
え~!? と、ジャッキーは楽しそうに、驚いた振りをした。
やめちゃうの~? いいよ、いいよ、好きにしなよ~。
あ、じゃあ最後に……残ってたコレ返すね。
テケテテーン! 「ざいあくかん~!」
「うわ、ぁ……」
「きゃっ、あ、あぁ……」
今まで自分達が殺めてきたチートスキル所有者達の悲鳴や呪いの言葉が、次々に浮かんで来る。
世界を救おうとした勇者、村を守ろうとした魔術師、独りぼっちの魔物……。悪い奴ばかりじゃなかった。明らかに英雄と呼ばれるべき奴だっていた。
それなのに、俺達は自分達の願いを叶えるためだけに、チートだからと言うだけの理由で殺し続けてきた……。
「ごめんなさい……」
「ごめん、ごめんなさい……」
頭を抱えたまま、俺達は渦に包まれて現実世界へと帰されていく。
けらけらけら、けらけらけら~!
ジャッキーの笑い声がいつまでも響いていた。まるで、これからまた何かが起こるのを知っているかのように。




