第20話「何もしてない振りをして」
◇
「サギーってさ、」
チート討伐を終えて異世界から戻る途中、光と闇のまだらの渦の中で、アリスが呟くように話し始めた。
「いつもみんなに優しいけど、本当のことは言ってない気がするんだよね」
「ああ」
なんとなく、わかる気がする。自己主張が強い俺達のグループの中で、あいつだけが妙に大人びているとか、そういうことだろう。
「本当なのかな」
あたし達のやってること、知ってるって。
アリスの声音は少し震えていて、けれど気軽に否定出来る問いでもなかった。
あの発言の後、何度か訊ねてみたけどはぐらかされたままだ。でも、恐らくサギーは知っている。俺達のことも、俺達がやっていることも。
アリスの問いに答えられないまま、まだらの渦は緩やかに消滅して、俺達は現実世界へ--。
◇
「戻れるって、そう思ったか?」
渦が解けて広がった視界いっぱいに、砂漠が広がっていた。
「寅宗?」
俺達の目の前にはフードを深くかぶったクラスメイト、灰崎寅宗の姿がある。
「戻れるって思ったんだろ? 何もしてない振りをして、いつも通り、教室に」
「何を言って……」
質問を遮るように、ひゅん、と空を切る音がして、頬が熱くなった。熱くなった部分に触れて始めて、血が流れていることに気付く。
「うわ、」
驚く間もなく、ひゅん、とまた鳴る。「きゃっ」
悲鳴に視線を向けると、アリスの太腿が切れていた。
何が起きたのかわからない。傷口が熱い。熱くて痛い。
「何すんだよ寅宗! 何なんだよここ!」
「忘れたのか? この前来ただろお前等」
「え、……あっ……『ブラックリッパー』?」
脚を抑えながら答えるアリスの声を聞いて、俺も思い出した。そうだ、少し前にチート魔術師の女の子を倒した異世界だ。
「思い出してくれたか。ようこそ『ブラックリッパー』へ。俺は、盗賊ギルド『窮鼠』のサブマスター、トラムネ・ハイザキだ」
初めて会ったかのように、寅宗は名乗った。俺達を貫くように睨みつけながら。
「ちなみに、お前等がこの前串刺しにした女がギルドマスターで、俺の恋人……じゃねぇや、振られたんだった」
はははははっ! はははははははははっ!
高らかに、悲しそうに寅宗は笑った。
◇
ふーん、へー。なるほど~。
「相手の人生を強制的に終わらせる」チートスキル「ゲームオーバー」。
それをわざわざ弱体化させて、龍之介の「静」の力を無効化したんだね~。
チートに対して最強! な二人の力に対抗するためとは言え……もったいないなぁ。
空中から刃物を出すだけのしょっっぼいスキルになっちゃってるよ~。
まぁ、でも、高校生二人を殺すのにはそれで十分だよね~。
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