第1話「『マラソン大会万年最下位の俺が異世界では音速を超える』とかさー、」
◇
遂にたどり着いた、異世界「スロウスレーゼ」を脅かす魔王の城「キルテーゼ」。巨人が出入りするのかと思わせるような巨大な門扉には、魔王「ギルデロス」の紋章が刻まれている。双頭のドラゴンと大鷲を象ったこの紋章に、今までどれだけのスロウスレーゼ民が苦しめられてきたことか……。
「行くぞ」
「「「「おう!!!!」」」」
俺の呼びかけに、仲間達が応えてくれる。長い旅だった。けれど、それももうすぐ終わる。
振り向き、頼もしい仲間達の顔を眺めると、この世界に転生してからの出来事が次から次へと頭に浮かんだ。楽しかったことも、辛かったことも。全ては俺の持つスペシャルレジェンド級音速移動スキル「バニッシング・メテオ」があってこその----
「はぁ、」
溜息くらいつかせてよ、ね。
「誰だっ!?」
あ、こっち見た。誰だっ、ってさぁ。とりあえず「っ」がムカつくわ。誰だっ、の「っ」が。
制服着た女子高生に言うセリフじゃないよねー。まー別にいいけど。
「ぬはははははははっ!」
後ろから更にイラッとする声が聞こえて、あたしはますます不機嫌になった。まぁ、これもいつものこと。
「誰だと訊いているんだ! 答えろ!」
異世界転生チート勇者くんは伝説の剣(カッコイイ!)を抜いて、あたしとクズ村に今にも斬り掛かろうとしている。
あたしはそんな勇者くんに、
「なんだっけ? その『バニッシング・メテオ』って技? スキル? やってみてよ」
人差し指でくいっと「来いよ」の仕草をした。
「なっ、なにをーーーーッ!」
激昴した勇者くんが音速を超えるスピードで向かってくる。伝説の剣(ステキ!)の刃が一瞬きらめいて、そして。次の瞬間にはぼろぼろになっていた。伝説の剣(笑)も、勇者くんも、ぼろぼろに。
新聞紙で叩かれた家庭内害虫のように大地に平伏してる勇者くんを、勇者御一行様は「マジかよ」って顔で見つめている。
「『 マラソン大会万年最下位の俺が異世界では音速を超える』とかさー、もう少しマラソン頑張りなよ、ってあたしは思うよ?」
うん、じゃあ、そろそろネタバラシ。
「誰だ、って訊かれたから答えるね。あたしの名前は影島アリス」
名前を名乗って、ずれたメガネをくいっと上げる。ディスイズマイキメポーズ。
「オレの名前は鈴村龍之介!」
クズ村が変なポーズで名前を叫んだ。いい加減ちゃんと決めなよ、キメポーズ。
「いい加減ちゃんと決めなよ、キメポーズ」
おっと、思ったことが声に出ちゃった。
「ご、ごめんなさい……」
しゅんとするクズ村。
「あのさー、そのすぐに謝る癖やめなよー」
「いや、でも、オレが悪いんだし」
「確かに、キメポーズ決めないのはあんたがはっきりしないからだけど、そんなすぐ謝る? だったら最初から決めとけばいいでしょー?」
「はい……ごめんなさい……」
「あーもう!」
「あ、あの……」
言い合いになってるあたし達に、勇者御一行様のエルフっぽい女の人が声を掛けてきた。
「あなた達は……何者、なんですの?」
「ああ、」
「名乗ってねーなそれ」
「クズ村のせいだよー」
「いや、そうだけどよ」
「なに、今度は謝らない気?」
「謝るなってさっき言ったろうが」
「いやいや、謝るなら今でしょ! なう!」
「あ、あのぉ……」
おずおずと答えを催促するエルフガールに、あたし達はキレ気味に応えた。
「「チートスレイヤーズです!!」」
◇
あたし、影島アリスとクズ村……鈴村龍之介は、チートスキルを持つ相手にだけ有用なスキルを持っている。
「動」の力と「静」の力。名前は好きに決めていいって言われたけど……まだ考え中。
あたし達はこの力を使って数多ある世界を悪い奴らから救う……なんてつもりはなくて、ただただ、自分たちの願いを叶えたいだけなんです。お金と、モテ期。
勇者でも魔王でも、チートな奴なら全部倒して自分達の願いが叶えばハッピーエンド!
わかりやすいお話のはじまりはじまりーっと。はぁ。
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