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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
影島アリスの非情/非日常
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第14話「お前も来るんだよ」


 期末試験を終えて、もうすぐ夏休みが始まる。


 高校三年生の夏休み、制服を着て学校に通う期間ももうそんなに長くないんだなー、とかそんなセンチメンタルな気持ちになりたかったんだけど……。


「ねー」

「『ねー』じゃねぇよ。スキル説明の途中で攻撃、は流石に可哀想過ぎるぞ」


 無残な姿になったチート男性(トラックに轢かれて転生したらしい。ありがち)を憐れむクズ村の言葉に、あたしは弱々しい笑みを浮かべるだけだった。

 もうしばらくお世話になる制服も血塗れで、クリーニングに出そうものなら即通報! 逮捕! って感じだ。


「血塗れの女子高生、需要ありそうじゃない?」

「どんな性癖の持ち主だよ。仮に存在したとして、そいつに喜ばれて何か得すんのか?」

「あぁ……」

 ないわー。失うことばっかりだ。社会的にも、人としても。


 まだらの渦に包まれて、あたし達は現実への帰路に就く。

 髪を結んでいる間に、さっきまでべとべとと貼り付いていた血の塊も染みも、蒸発するように消えて行く。


 血。赤い赤い、血。


 あたしが傷付けたんだよね。それなのに、あたしはどうして罪悪感を感じないんだろう。

 不思議に思う。ジャッキーからお金を受け取る度に、罪の意識を失ってしまうような気がする。

 時々、なかなか寝付けない夜の闇の中で、胸の奥がズキ、と音を立てるように痛むことがある。

 傷付けた痛み、殺めた生命が蠢いているような、そんな気持ちになる時があるのだ。


 あたしは自分の願い--お金のために、たくさん人を殺めてきた。

 もうすぐ罰を受ける時が来るのかもしれない。そんな予感がして、スカートの裾をぎゅっと握った。



「ゲーセン、行くかー」

 誰にともなく龍之介が声を上げると、


「さんせーい! ね!」

「『よく学び、よく遊べ』だな」

「お金さえあれば、ゲームオーバーはありませんよね」

「……行く。……アリスも……ね」

「僕も行っていいのかい?」


 佐伯さん、灰崎くん、むぅちゃん、ヒビィ、サギー。みんな行く気満々だった。……灰崎くん、それはことわざなの?

「あ、あたしはちょっと……」

「いーから、お前も来るんだよ」

 気乗りしないあたしは、半ば引き摺られるようにしてパーティーに加わった。


 

 高校生、学校帰り、近づく夏、ゲームセンター。青春の季語を並べたような放課後の帰り道だった。


 その日は夕焼けが綺麗で、あたしは馬鹿みたいにはしゃいだ。

 犯した罪のことも、叶えた願いのことも全部忘れて、このままここで人生が終わってしまってもいいと、そう思った。


「楽しいねー!」


 現実世界ではあまり喋れないあたしが大きな笑い声を上げると、みんなも笑顔を向けてくれる。

「少しはマシになったか?」

 ぼそっとクズ村が呟く。あたしは一瞬きょとんとしてから、強く頷いた。ほんと優しいね、鈴村。


 オレンジ色に包まれたあたし達七人の笑顔は、その向こうの夜の暗さなんて知らない振りをして、いつまでも輝いていた。

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