第14話「お前も来るんだよ」
◇
期末試験を終えて、もうすぐ夏休みが始まる。
高校三年生の夏休み、制服を着て学校に通う期間ももうそんなに長くないんだなー、とかそんなセンチメンタルな気持ちになりたかったんだけど……。
「ねー」
「『ねー』じゃねぇよ。スキル説明の途中で攻撃、は流石に可哀想過ぎるぞ」
無残な姿になったチート男性(トラックに轢かれて転生したらしい。ありがち)を憐れむクズ村の言葉に、あたしは弱々しい笑みを浮かべるだけだった。
もうしばらくお世話になる制服も血塗れで、クリーニングに出そうものなら即通報! 逮捕! って感じだ。
「血塗れの女子高生、需要ありそうじゃない?」
「どんな性癖の持ち主だよ。仮に存在したとして、そいつに喜ばれて何か得すんのか?」
「あぁ……」
ないわー。失うことばっかりだ。社会的にも、人としても。
まだらの渦に包まれて、あたし達は現実への帰路に就く。
髪を結んでいる間に、さっきまでべとべとと貼り付いていた血の塊も染みも、蒸発するように消えて行く。
血。赤い赤い、血。
あたしが傷付けたんだよね。それなのに、あたしはどうして罪悪感を感じないんだろう。
不思議に思う。ジャッキーからお金を受け取る度に、罪の意識を失ってしまうような気がする。
時々、なかなか寝付けない夜の闇の中で、胸の奥がズキ、と音を立てるように痛むことがある。
傷付けた痛み、殺めた生命が蠢いているような、そんな気持ちになる時があるのだ。
あたしは自分の願い--お金のために、たくさん人を殺めてきた。
もうすぐ罰を受ける時が来るのかもしれない。そんな予感がして、スカートの裾をぎゅっと握った。
◇
「ゲーセン、行くかー」
誰にともなく龍之介が声を上げると、
「さんせーい! ね!」
「『よく学び、よく遊べ』だな」
「お金さえあれば、ゲームオーバーはありませんよね」
「……行く。……アリスも……ね」
「僕も行っていいのかい?」
佐伯さん、灰崎くん、むぅちゃん、ヒビィ、サギー。みんな行く気満々だった。……灰崎くん、それはことわざなの?
「あ、あたしはちょっと……」
「いーから、お前も来るんだよ」
気乗りしないあたしは、半ば引き摺られるようにしてパーティーに加わった。
◇
高校生、学校帰り、近づく夏、ゲームセンター。青春の季語を並べたような放課後の帰り道だった。
その日は夕焼けが綺麗で、あたしは馬鹿みたいにはしゃいだ。
犯した罪のことも、叶えた願いのことも全部忘れて、このままここで人生が終わってしまってもいいと、そう思った。
「楽しいねー!」
現実世界ではあまり喋れないあたしが大きな笑い声を上げると、みんなも笑顔を向けてくれる。
「少しはマシになったか?」
ぼそっとクズ村が呟く。あたしは一瞬きょとんとしてから、強く頷いた。ほんと優しいね、鈴村。
オレンジ色に包まれたあたし達七人の笑顔は、その向こうの夜の暗さなんて知らない振りをして、いつまでも輝いていた。




