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第1話

「……ふっ」


 目の前に一筋の光が走る。すると、その足元にはさっきまでは生きていただろうものが転がっている。ファンタジーの世界などでよく見るゴブリンだ。


「いやほんと、僕の妹ながら凄いね…」

「勇者かたなしよね~」


 先程ゴブリンを倒したのは『勇者』と呼ばれた人の妹のようだ。その女の子の両手にはそれぞれマイナスドライバーが握られている。


「おにぃが…出るまでもない…」


 女の子はひとこと言うと姿を消した。


「…………まあ、先に進むか。」

「そうね。」


 『勇者』と呼ばれた少年は手早くゴブリンから魔石を取り出し隣にいた少女が魔法でゴブリンを燃やした。片付けたのち、先に進むべく歩き出したところで背後から声が聞こえる。


「ま、まってくださぁ~い…皆さん早すぎる…っ」


 ゼェハァ…と息を切らせながら近寄ってくるのはいかにも聖職者と言わんばかりの姿をした少女だ。スイカ並みに重そうな胸を揺らしながら歩いている。


「1人にしないでくださいよぉ~襲われたらどうするんですかぁ~」


 涙目になりながら訴えてくるが、そもそも1人だけ足が遅いのが悪い。

 今4人は森の中を歩いている。討伐依頼を受けゴブリンの討伐を行っているのだ。先ほどからひっきりなしにゴブリンが出てくるところを見るともしかすると集落でもあるのかもしれない。


「おっと」


 シュッと音がして勇者と呼ばれたものの頬が枝で切れる。こう木が多いのだから仕方がないことなのだ。だがそれすら許さないものがここにいた。1人足の遅い女の子の前に、先ほどマイナスドライバーを振っていた女の子があわられる。突然胸倉ではなく胸をわしづかみにした。


「わひゃっ」

「おい…さっさとおにぃを治せ。この(タンク)に魔力がどうせたくさんあるんだろう…?」


 鋭い目つきでにらみつける。そう彼女は重度のブラコンで兄が傷つくことを嫌う。


「うわぁ~んっなんで私がこんな目にぃ~~」



   

   ◇ 

   ◆   

   ◇

   ◆

   ◇

   



 さかのぼること3日前のことである。

 

「おーい。中級以上の回復が使える固定パーティに所蔵していないものはいないかー」


 冒険者ギルドの室内でそんな声が上がった。これはいつもの事で、パーティに足りない職業の臨時募集をかけているのだ。


「はい、中級です。パーティもありません。」


 見たまま聖職者という服装をした少女が立ち上がっている。どうやら先程の声に反応したようだ。少女が声の主に近づくとその後ろに3人の若者がいるのが目に入る。募集をかけた男が少女を足元から頭のてっぺんまで眺める。


「ふむ…とりあえずあっちで詳しい話をしようじゃないか。」


 男に促されるまま少女と3人の若者は後ろをついていった。案内された先はギルドに用意されている個室の一つでこういった話し合いをするときに使用される。部屋数が少ないのであいていないともちろん使えない。全員椅子に腰掛けると話しが始まった。


「さて、私は仲介役なので気にしないでくれ。まずは、全員自己紹介からお願いしようか。そのあと事情を説明しよう。」


 3人の若者のうちの1人、唯一の男の子がまずは口を開いた。


「トウヤだ。一応このパーティのリーダーとなる予定で、剣士だ。」


 挨拶をした男の子はさわやかなイメージがよく似合いそうだ。腰にちょっと長めの剣をさしている。鎧も部分鎧で動きやすくしていた。


 次に声を上げたのはその右となりにいた女の子だ。こちらの子は布製の服に身を包み首と手首足首だけ金属を装備している。


「セアラです。魔術士になります。」


 短い挨拶だったが要点はまとめられていた。頭をさげお辞儀をする。


 そして3人のうちの最後の女の子だが、この中で一番年下だろうか背も低い。急所のみを部分鎧で覆い、腰のところにたくさんの縦長な溝のついたホルスターをさげている。さらに顔をあわせてからずっと聖職者の女の子をにらみつけているのだが…


「トモミ。暗殺者。」

「え、今なんと…?」

「暗殺者。」

「………」


 聖職者の女の子は黙ってしまった。それもそうだろう、暗殺者がいるパーティとはいったいどう言うことなのだろうかと疑問に思うのは普通だ。


「あ、えっと…回復術士です。エミリーナといいます。」


 じゃっかん顔は引きつっているが全員名前と職を名乗ったようだ。


 「では、今回のパーティについての説明をさせていただきます。」というと仲介人が事情の説明を始める。どうやらこの3人のことをエミリーナに話すのが目的のようだ。


 説明の内容は以下のとおりだった。


・3人はこれから訪れる世界の危機のために呼び出された異世界人である。

・ゆえに勇者パーティということだ。

・だが、パーティバランスが悪い。

・よって回復役の募集をした。


「簡単にいうと以上である。エミリーナにはぜひこのパーティに固定して欲しい。」

「固定ですか…?」

「うむ。無事鍛え上げ、世界の危機をすくった暁には何でも1つ願いをかなえてくれるそうだ。」


 ゴクリと喉を鳴らす。何でもと言われれば誰もが同じ反応をするであろう。


「なんでも…?」

「ああ、救った世界を壊すような願いは無理だぞ?」


 それは当たり前である。

 

「あの、順に質問よろしいでしょうか?」

「応えられる範囲なら答えよう」


 エミリーナは思ったことを整理しつつ順番に聞いていく事にした。


「呼び出された理由である世界の危機とはなんでしょうか。」

「聞かされていないから知らないな。」


「勇者パーティということですが、トウヤさんが勇者様であっていますか?」

「その通りだ。」


「パーティのバランスが悪いとの事ですが、盾役とかは必要ないのですか?」

「ひとまず4人でやってみていりそうであれば補充をしよう。」


「回復役ですが、中級以上という条件はなぜ…?」

「そりゃもちろん簡単に勇者に死なれたら困るからだ。」

「……」

「質問はもういいのか?」

「あと1つだけ…報酬なのですが、どなたが出してくれるのでしょうか?」

「ノーコメントといいたいところだが…まあ創造主のような人とだけ言っておこう。」


 エミリーナは考える。普段は声を掛けてくれるまで冒険者ギルドで待っている立場だ。収入もそれほどあるわけではない。パーティに固定してしまうと自由はほとんどなくなってしまうだろうが、一定の収入が期待される。しかもそれと別に「なんでも願いをかなえてくれる。」という豪華な報酬つきだ。あくまでも自分は回復役…基本前にでることはない。危険もすくないであろう。ただ、いろいろ質問してみたがわからないことがあるのが不安だが、報酬がいいのだからそこは目を瞑るとこなんだろと割り切る。


「わかりました。固定パーティお受けします。」

「ありがとう、助かるよ。では、後はパーティメンバー同士会話を進めがんばって力を付けてくれ。」


 男はお礼を言うと自分の仕事は終わったとばかりにさっさと部屋からでていってしまった。


「……あ、えっと…改めましてエミリーナ、回復術士です。パーティの固定初めてですがよろしくお願いします。」

「パーティ入ってくれてありがとう。見ての通り誰も回復できなくてね助かるよ。」


 勇者であるトウヤさんがまっさきに返事をかえしてくれた。流石というべきだろうか、勇者の名前はだてじゃないと。


「いえいえ、私も助かりますからお互い様ですよ~」

「そういってくれるとありがたい。」

「えーとそれで今からどうされるのでしょうか?」

「そうだな…僕達は召喚されて装備だけは準備してもらえたのだが、なにぶん化物達と戦ったことすらないのだよ。」


 話してくれる内容に耳を傾ける。どうやら戦闘未経験、冒険初心者ということだ。見た感じ確かに装備だけは初心者ではないように見える。


「なるほど…では少しづつ覚えながら依頼をこなしてみましょうか。」

「依頼?」

「はい、ギルドへの登録は済んでますか?」

「いや、ここに連れてこられただけだ。」

「じゃあまずは冒険者登録からですね。そのときに説明をギルドの職員さんがしてくださいますので、まず登録すませましょうか。」


 4人はエミリーナを先頭に部屋を後にしギルドのカウンターで登録を済ませた。そのときにギルドのシステムを簡単に説明され3人とも黙って聞いていた。


「なるほど…」


 トウヤさんはギルドカードを眺めながらギルドのシステムを理解してくれたようだ。


「じゃあとりあえずそこの依頼から何か選べばいいんだな?」

「はい、ランクにあったものを選びましょう。」


 ギルドのランクはS、A、B、C、D、E、Fとあり最初はFから始まる。つまり3人はFランクというわけだ。


「強くならねばならない。ここはやはり討伐依頼を中心に受けるべきか…」

「まあ、そのほうがいいのでしょうが、無理のない依頼で少しづつ強くなっていきましょう。」

「ああ、そうだな。死んだら意味がないからな。」


 どうやらトウヤさんは慎重派のようだ。これなら安心してついていけそう。


「おにぃ。私達が受けられる討伐依頼はゴブリンくらいみたい。」

「そうか。いくつある?」

「これと。これ…3つ。」


 えーと…トモミさんがゴブリンの討伐依頼を3つ指差してるようです。内容を見ると規定数討伐するもの、ゴブリンの生態調査と討伐、森の中にある村周辺のゴブリンの討伐と集落の有無の調査の3つのようだ。3つ目のだけは私達には厳しそうです…


「なるほど…結局どれもゴブリンを倒すというものなんだな。では3つとも受けよう。」


 そういうとトウヤは3枚とも紙を壁からはがした。


「ままままってくださーいっ…集落のやつ4人じゃ無理ですよ~」

「そうなのか?でも、村が襲われたら大変じゃないか。」


 ああ、もう慎重だけど考え方も勇者様なんだとわかりました。自分がまだ弱いままなのにその行動は死、あるのみですよ~っ


「おにいがやるといってる。」


 トモミさんの目つきが鋭くこわいですーっ暗殺者って目だけで人を殺せるってきっとほんとなんでしょうね?


「きまったぁ~?」


 横からひょいっと依頼書を取り上げセアラさんが眺めています。そういえば先ほどからずっとセアラさんは静かでした。おとなしい人なのでしょうか?


「ふぅ~ん。ゴブリンってなに?」

「あ、はい子鬼です。」

「小さい鬼なんだ。かわいいかな?」

「ぜんぜん…」

「じゃあやっちゃっていいんじゃない?」


 ああ…魔術士なのにこの方は頭がよわいのだわ…


「おにぃが決めたんだから決定。」

「わかりました…でも皆さん初心者なのですから慎重にいきましょうね?」

「もちろんだ。」


 ギルドで依頼を受けた私達は森の中にある村を目指し、狩りかたの基本を確認しながら進むことにしました。目の前には薄緑色のウサギ、フォレストラビットがいます。比較的おとなしく近づかなければ攻撃はしてきません。討伐対象ではありませんがこれでまずは練習しましょうか。


「まずはこのフォレストラビットを狩って見ましょうか。」

「なに?関係のないウサギを狩れと言うのか…」

「はい、獲物がいるのですから練習用にしましょう。」


 トウヤさんは剣を構えるのですがやはり関係のない生き物を狩ることにやや抵抗があるようです。


「フォレストラビットは食料としても優秀です。」

「へー食べられるんだ。」


 セアラさんは少し興味をしめしています。

 シュッと音がしてフォレストラビットが倒れました。どうやらトモミさんがしとめたようです。


「これでいい?おねぇ食べたいんでしょ。」

「気にはなるよね~」


 まあ、いいでしょう…


「えーとそうしたら魔物は体内に魔石を持っていますからまずそれを回収します。心臓付近にあるはずです。」

「解体作業か。僕がやろう。」


 トウヤさんはフォレストラビットの胸にナイフをつきたて魔石を取り出しています。


「あとは血抜きをして皮と身を持ち帰ります。残りは放置すると魔物がよってきますので焼却しましょう。」


 指示の通りトウヤさんは解体作業を進めます。思ったより上手です。あとは燃やすのですが…セアラさんやってくれるでしょうか?


「セアラさん弱めに燃やしていただけますか?森に火が移ってしまわないように。」

「ん?ああ、私の魔法で燃やせってことね。初めて魔法使うけど調節できるかしら。」


 手を前にだしセアラさんが魔法を使います。初めてとか聞こえましたが大丈夫でしょうか?


「えーと、ファイア?」


 ゴオオオォォーーーーッ


 なんということでしょう大きな火柱が立っています。私は呆然と立ち尽くしただ眺めているしかできないのでありました…






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