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色屋のおばあさん

作者: 一二三 鈴

ある街に、一人のおばあさんがいました。

おばあさんは、とても頑固で、怖い顔をしています。

けれども、街の人はいつもおばあさんに笑いかけて、挨拶をするのです。

これは、色屋というちょっと変わった仕事をしているおばあさんの話です。






ある朝、おばあさんは出かけていきます。きょうは仕事が三つあるのです。

「おばあちゃん、行ってらっしゃい!」

「ああ、おばあさん、今日も仕事かい?行ってらっしゃい。」

おばあさんは皆に、

「ああ、行って来るよ」

と、ムスッとした顔で言いながら、歩いて行きました。






「あ、おばあちゃんだ!」

一人目の依頼人は、小さな女の子です。小さな女の子は、おばあさんを見つけてこう言いました。

「あのね、お父さんに桃色を届けて欲しいの。桜のお花の色!」

すると、おばあさんは手を前に差し出して、ぽわんとシャボン玉のようなものを浮かばせました。

「この色かい?」

それは桜をそのまま溶かしたような色をしていました。

「そうそれ!」

女の子は嬉しそうに跳び跳ねます。

「そうかい、それじゃあ届けて来るよ。」

そして、おばあさんはさっきと同じように、今度は虹色の玉を取りだして、地面に落としました。すると、地面からどんどん虹が伸びて、みるみるうちに遠くまで続いて行きました。虹には、階段が付いています。「うわぁ!すごいすごーい!行ってらっしゃい!」

「ああ、行って来るよ」

そう言いながら、おばあさんは虹の橋を進んで行きます。




虹の橋の向こう側には、女の子のお父さんがいました。お父さんはパソコンに向かいながら、ひどく疲れた目をして座っています。

「娘さんから色の届け物だよ。」

「うわっ、びっくりした。娘から?」

そして、おばあさんはお父さんに桜色の玉を渡しました。

すると、お父さんの視界から周りの物が消えて、桜色の風景に包まれました。お父さんはそれを見て、女の子とお花見に行った時のことを思いだしました。すると、その風景に桜の樹が立ち、目の前に女の子が現れました。女の子は、お父さんに笑いかけて、こんな風に言いました。

「お父さん、お仕事お疲れ様。単身赴任で寂しいけど、いつもお父さんを応援しているよ。辛いことがあっても泣いていいんだよ。泣いた後、笑顔になればみんなハッピーだよ!また、お花見にいっしょに行こうね!頑張れ!」

お父さんは、大粒の涙を流していました。桜色の風景が消えていっても、おばあさんがいなくなっていることにも気付かないで泣き続けました。そして、

「ありがとう、また、お花見に行けるように頑張るからな。」

と言って、笑いました。






「ああ、おばあさん。」

おばあさんの次の依頼人は、女の人でした。

「あ、あのね、先輩に空色を届けて欲しいの。透明に近い。」

おばあさんは、空のように澄みわたった玉を出しました。

「これかい?」

「そ、そうそれ。」

女の人はもじもじして言います。

それを持って虹の橋を架けたおばあさんは、女の人を振り返って言います。

「今から届けに行くが、あんたも来な。」

「え?」

「あんた、この色を届けて終わりかい?それじゃ、あんた後悔するよ。」

「…やっぱり、そうよね。」

「この虹の橋はあんたの先輩の行く先じゃない。この町だ。」

「え!?」

「とっとと来な!走るよ!」

「…っ!うん!」

覚悟を決めた女の人は、おばあさんと一緒に虹の橋を走り出しました。




「さっちゃん、来なかったね。」

「もう先輩行っちゃうよー。」

虹の橋の続く先は、駅の改札でした。

「あれ?虹の橋?あ、おばあさん、と、さっちゃん!」

「ああ、さっちゃん来た!」

そこには、女の人の友達がいました。

「はぁ、はぁ、まだ、先輩、行ってない?」

「大丈夫大丈夫、まだ来てないよ。お弁当買いに行っているところだから!」

「もうすぐ来るとおもう…あっ!来た!」

友達の指差す先には、女の人より少し大人びた男の人がいました。眼鏡をかけている、真面目そうで、優しそうな人です。

「お!さとみ!来てくれたのか!」

「せ、先輩、あの、」

女の人は言葉が詰まってしまいます。すると、背中にしわくちゃな手が当てられます。

「後は、お前さんしだいだ。頑張りな。」

その手は、とても力強く、女の人の背中を押しました。

「お話があります!」

そして、女の人が持つ空色の玉は二人を包み込んでいきます。

二人の足元に、道が産まれ、周りには田んぼが広がっていきます。ところどころ、森や山が見えます。そこは、二人の学校の帰り道でした。

そして、女の人は男の人に向かって言葉を口にします。

「私、先輩の、優しいところ、真面目なところ、好きです!私、先輩と同じ大学に行きたくて、でも、頭が悪くて、せっかく先輩が教えてくれたところ、全然覚えられなくて、受験も失敗してしまって、でも、泣いている私を慰めてくれた先輩が大好きです。遠く離れた場所でも、私達、恋人同士では、駄目ですか?」

女の人は泣いていました。鼻が詰まった声でも、頑張って言葉を繋ぎました。

そして、

「駄目じゃないよ。俺も嬉しい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

男の人は、心から嬉しそうにお辞儀をしました。

空色の風景が消えた後、そこには泣きながら嬉しそうに笑う女の人と、彼女を包み込むように抱き締める男の人と、その光景を見て、

「良かったね…!」

「うん、うん!」

と、もらい泣きをしている女の人の友達がいました。






「おおお…色売りのおばあさん…。」

おばあさんの最後の依頼人は、ベッドに寝ているおじいさんでした。

「わしの息子に、青色を届けてくれないか?少し、暗い色さ。」

おばあさんは暗い青の玉を取りだしました。

「こんな色かい?」

「おおお、それじゃ、それじゃ。すまないのう…体にがたが来てしまってのう…」

おじいさんは申し訳なさそうに項垂れます。

「これがあたしの仕事だ。男が弱々しくするもんじゃない。」

「こんなわしは男として失格じゃ。息子の夢を許してやれないわしは、な。」

おじいさんはそう言って、寝付いてしまいました。




虹の橋の向こう側は、都会のビルの中でした。そこには、一人の大物のミュージシャンがいました。

「親父さんから色の届け物だよ。」

「…親父からか?何の用だ。」

そして、おばあさんは青色の玉を彼に渡します。

青色の玉は広がり、病室を映し出します。

「お、親父…こんな姿…」

彼は、おじいさんに音楽の夢を猛反対されていました。そして、家を出て都会に出た後、おじいさんと連絡一つ取らなかったのです。

「息子よ、お前の夢を馬鹿にして、お前は俺の息子じゃない、音楽を目指すなら出て行け、と言ったこと、本当にすまなかった。」

おじいさんは寝たまま、お辞儀をしました。

「お前が出て行った後、わしは寂しかった。家内を早くに亡くして、お前と二人きりだったからな。でも、数日はわしの言うことを聞かなかったお前に腹を立てた気持ちで一杯だった。でもな、」

おじいさんは、咳をしながら言葉を続けます。

「村のデパートでお前の音楽を聴いた。わしは愕然とした。お前は素晴らしい歌を歌っていた。音楽に命があることをお前の歌で初めて知った。嬉しかった。でも、すぐにお前への罪悪感で一杯になった。わしはお前の才能を認めてやれなかった。お前の話を聞かなかった。本当に、申し訳なかった。」

おじいさんは咳を強めながら、懸命に言葉を繋げます。

「わしも、もう先が短い。だからこうして伝えておきたかった。お前の歌は素晴らしい。わしはいつまでもお前の歌を応援していよう。」

そして、青色の風景は消えていきました。彼は、涙を流していました。

「これを聞いてどう思った?」

おばあさんはそこに残っていました。

「親父の元へ行きたい。親父の元へ行って謝りたい。」

「そうかい。じゃあそこを走りな。」

おばあさんの指差す先には虹の橋がありました。

「ああ、行くよ。おばあさん、ありがとな!」

そういって、彼は走って行きました。




「親父!」

病室で、彼はおじいさんに叫びました。

「お、おお…来てくれたのか…」

おじいさんは、弱々しく顔をあげました。

「ごめんな、ごめんな、連絡一つよこさなくて…寂しかったよな。辛かったよな。本当に、ごめんな…。」

彼はおじいさんに泣きながら謝りました。その体をおじいさんは懸命に抱き締めました。

「謝らなくてもいい。わしも悪かった。わしは、来てくれただけで十分嬉しいんだ。」

「でも!」

「なら、歌を歌ってくれんか?お前の歌を、聴きたい。」

「…っ!分かった、歌うよ!いくらでも歌ってやる!」

そうして、彼は歌い始めました。優しく、力強い歌は、二人の絆を紡ぎ出していきました。






おばあさんは、全ての仕事を終えて街に戻ります。街の皆は、頑固なおばあさんの中の色を知っています。

だから、

「おばあさん、お帰り!」

「おばあちゃん!お帰り!」

こうして、笑いながらおばあさんに挨拶をするのです。

「ああ、ただいま。」

ご覧いただきありがとうございました。

自分でもひらがなとカタカナのみは読み辛いと思ったのでこちらも投稿しました。元の方はそのままにするつもりです。

この小説が心の拠り所になればいいなと思っています。

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