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第3話 夫婦喧嘩は犬も食わぬ

 今回は、麗姉さまの結婚に引っ掛けて、私の今後について、父と母では意見が割れたようです。

 夕食の時間になって、家に居るのはわたしと雪江さんだけ。

 父は、国会議事堂から帰ってきませんから、どこかの料亭で密談でもしているのでしょうか。

 当然、第一秘書の長兄も帰っては来ません。

 兄のお嫁さんは、地元の神戸で建設会社をなさっている、有力者のお嬢さま。

 今は、二人目のお子様の出産で、地元に帰っています。

 静かなものです。

 久しぶりに、家族以外の声が聞こえて、賑やかな家になったのですが、今は、この静寂が、かえって重く感じられます。


「おや?お嬢さまお一人ですか?」

「まあ、土方さん、どうしたんですか?」

「ええ、先生の自転車を、国会から運んできたんです。もちろん、お兄様のもね。」

「まあ、ご苦労様です。ご一緒にお食事でもいかがですか?」

 儀礼的に、すぐこういう言葉が口に出るのは、職業病(議員の娘が職業と言えるならですけど。)と言う物でしょうか。

 わたしは、すぐに若い人たちのお腹が気になります。

 ちゃんと食べているか。

 おなかがすいていないか。

 休憩はとれているか。

 すべてにおいて、気になります。

「ああ、そんな時間でしたか。え~、僕の仕事はここまでですから…いただきます。」

 わたしはくすりと笑って、雪江さんに土方さんの食事を言いつけました。


 雪江さん(三十二歳)は、頷いて台所に消えました。

「遅くまでたいへんですね、土方さん。」

「いえ、こういう雑用が僕の仕事ですからね。平気ですよ。仕事に文句を言えるような身分じゃありません。」

「そう言うものでしょうか?」

「そういうものです。僕は、大学出たてなんですよ。」

「そうね、たくさん食べてください。」

 そこへ、雪江さん(三十二歳)が、お盆に食事を乗せて出てきました。

「うおっと、こりゃすごい。いっただきま~す。」

 土方さんは、箸を取ると猛然とご飯を口に運び始めました。

「まあ、ご飯は逃げませんよ。」

 私の声も聞こえないくらい、一生懸命ご飯を食べています。

「ひじかたさん!」


「うっ!」

 私の声に、土方さんはのどを詰まらせました。

「お、お水!はい!」

 私の差し出したコップを受け取り、ぐっと飲み干しました。

「はあはあ、あぶなかった…」

「…」

 土方さんは、大きく息を吐くと、にこりと笑いました。

 山本耕史のような、さわやかな笑顔でした。

 シブ好み?

 いいじゃないですか。

 土方さんは、私を振り返って、口を開きました。

「おじょうさん、もっと食べないと元気にゃなれませんよ。」


 視線が胸にあるのがわかりました。

 わたしは、あわてて両手で、胸を隠しました。

「ど、どこを見て言ってるんですか。」

「ああ、そう言やあそうですね、あはは。」

 ちっとも悪びれたところがありません。

「土方さん、お父様と付き合って、おじさん化してませんか!」

「え~、そうですかぁ?」

 心底いやそうな顔をしています。

「そうですとも、とても二十二歳には見えませんわよ。」

「うわ~、どうしよう。なにか若そうなことしなくちゃ~。」


 私は、雪江さん(三十二歳)と一緒に、笑い転げてしまいました。

「ああおかしい!土方さん、落ち着いて。おかわりはいかが?」

「もう十分いただきましたよ。ごちそうさまでした。」

「それじゃあ、コーヒーでもいかがですか?」

「そんなにしていただくと、部屋に帰った時に、寂しくなるじゃないですか。」

 土方さんは、階下に部屋をもらっています。

「あら、土方さんでもそうなんですか?」

 私は不思議に思って、聞いてみました。

「そりゃそうですよ。僕は、多摩の出ですから、そんなに遠い訳じゃありませんが、兄弟もありましたから、一人は寂しいもんです。」

「まあ、そうなんですか。でも、まあコーヒーぐらいはつきあってくださいね。」

「はあ、そうします。」


 リビングに移動して、土方さんをソファに迎えて、私はコーヒーを前に、質問を口にしていました。

「今日の双葉さんの行動ですけど、土方さんはなにか聞いていますか・」

「双葉さん?ああ、片岡の従姉妹さんですか?いえ、特に聞いては居ませんよ。ワキサカの事業とは、関係がないんじゃありませんか。」

「そうですか。麗お姉さまのご用で、私の学校の様子を見に来たと、おっしゃいましたけど、額面通り受け取って良いものか…」

「麗さまのお名前が出たのでしたら、そのとおり受け取った方が良いと思いますね。」

 繊細な細い彫刻刀で、丁寧に彫り上げた能面のような、なめらかな鼻梁に少ししわを寄せて、土方さんは微笑みました。

「なんでも疑ってかかるのは、悪いことじゃありませんが、度が過ぎると自分がわからなくなりますよ。」

「そう言うものでしょうか?」

「そう言うものです。僕なんか、単純なものですよ。」

 一番単純じゃないひとが、言いますこと。

 私は、すましてコーヒーに口をつけました。

 砂糖を入れるの、わすれた!


 土方さんは、薄く笑って続けます。

「女の子は、素直でいるのがいちばんですよ。」

「あら、私が素直じゃないと?」

「ええまあ、人の言葉の裏をさぐろうとなさるのは、素直な子のすることですか?」

「はあ、そうですね。」

 私は、少しむっとして答えました。

「麗さまの、ご予定ですが、今ですとチューリヒに向かっていますよ。」

「え?」

「なんでしたら、携帯に電話なさっても、つながる時間帯ですよ。」

 時間は夜の八時を少し回ったところ。時差を考えれば、向こうはお昼過ぎです。

「いいかしら?」

「そりゃ、怒ったりはしませんよ。」

「じゃあ、電話してみるわ。」


「それがよろしいですよ。麗さまもお喜びになりますよ。」

 土方さんは、そう言って席を立ちました。

「お姉さま、新婚旅行はいかがですか?」

『快適え~。ご飯もおいしいし、景色はええし、もう楽しいてならんわ~。』

「そうですか?今日、双葉さんが学校に来ました。」

『あら、もう?早いこと。それで、どうどした?』

「ええ、隅々まで調べて行きましたわ。私にも、学園の様子をお聞きになって、なにやらせっせとメモを取っていらっしゃいましたわ。お姉さまの指示を、楽しそうに。」

『ほほほ、あの子は…今度、どこかご一緒しなくてはいけまへんなあ。』

「そちらに?」

『それもよろしおすなあ。ほな、麗子ちゃんも、一緒においない。パリで、お菓子たべまひょ。』

「はあ、お菓子ですか?いいですね。」


『そやな~、新婚旅行から帰ったら、忙しいなるけど、新年になったらヒマもできるし、その時にでもご一緒しまひょ。』

「ほんとに?楽しみにしていますわ。」

『そうどすな、ほなまたね。』

 土方さんの言ったとおり、まったく裏も表もありませんでした。

 本当に、あのお姉さまは、真っ直ぐでケレンみもなくて、思ったとおり生きている気がします。

 土方さんは、そのへんが、よくわかっているようで、侮れませんね。

 私は、結婚式の様子を、何枚かプリントアウトして、通学かばんに入れておきました。

 翌朝のことです。

「おはようございま~す。」

 朝からテンションをあげて行く、元気な声です。

「あら、芦屋さん、おはようございます。」

「雁子だってば、麗子ちゃん。」

「か・かりこちゃん?」


「そうそう。昨日は気づかなかったけど、外に警官とか居るのね。驚いちゃった。」

「ええ、いつも居るのよ。朝ご飯は?食べたの?」

「え?いやあの…あたし、朝はいつも食べないのよ。」

「まあ、だめよ。朝ご飯はちゃんと食べないと、栄養が偏るし、集中力も落ちるのよ。」

「そう?」

「まだ、早いし、一緒に食べましょ。いやなら、せめてオレンジジュースだけでも飲んで行って。」

「わかった。ゴチになるわ。」

 土方さんのような、軽快な江戸弁で巻き舌の雁子さんです。

「うひゃ~、朝からこんなに食べるの?」

 雁子の驚くのも無理がないほど、料理の種類が多く並んでいます。

「チーズだけでも何種類あるのよ。」

「五種類でございますよ。」

 雪江さんが、すまして答えました。


「あらまー。」

「少しずつでも召し上がっていただければ、お嬢様の体には良いのです。」

「なるほどねー。だからあなたは、ひ弱そうに見えないのね。」

「健康な病人もいないと思いますけど。」

「そりゃそうだ。あはは!」

 朝から明るい声が、ダイニングに響きます。

「うわー、このスープおいしー。あ、くるみパンだ。」

「それ、全部雪江さんが作ったのよ。」

「へえ!パンも?」

 雪江さんは、黙ってうなずきました。

「へ~、パンの作り方って、どうやるの?今度教えてくれない?」

「よろしいですけど、そろそろお出かけのお時間ですよ。」


 二人は、あわてて上着を着ると、エレベーターに向かいました。

「今日は、私が押して行くわね。」

 雁子は、気さくに言って、車椅子のハンドルを持ちました。

 玄関で待っていた土方さんは、目で聞いてきましたので、私もうなずいて見せました。

 土方さんは、後ろから着いてきます。

「そうそう、それでさあ、五人組の他に、芸能人は来てたの?」

「ええ、歌舞伎の俳優さんとか、お相撲さんとか、あと落語家さん。」

「あれまあ。さすが、ワキサカね。」

「変わったところでは、宝○の男役さん。」

「うわ!ホントに?」

「なんだか、本家の奥様がお好きなんだそうよ。」

「ふうん、ワキサカの力は、どこまで行くんだろうね?」


 そんな会話を楽しみながら、学校に向かいます。

「あ、そうそう、これプリントしてきたわ、どうぞ。」

 私は、夕べプリントした写真を取り出しました。

「わ、いいの?」

「少ししかないから、申し訳ないんですけど。」

「ううん、これで十分よ。ありがとう、麗子ちゃん。」

「ど・どういたしまして。」

 後ろで、土方さんがくすくす笑うのが、聞こえてきます。

「ゆうべ、帰ってからねえ、あやが電話してきてさあ。」

「あや?伊丹さん?」

「そう、委員長。麗子ちゃんに迷惑かけたんじゃないかって、説教するのよ。」

「まあ。」


「まったく、彼女の説教好きにも困ったもんだわ。まあ、悪気があるわけじゃないから、よけいに困るんだけどね。」

「そりゃあ、怒る訳にも行きませんわね。」

「まあ、事情を話したら、納得してたけど、彼女もおせっかい焼きだよねえ。」

「ふふふ、伊丹さんも心配してくれているのよ。」

「そうね、あ、言ってるそばから、影よ。」

「おはよう、芦屋さん。」

「おはよう。」

「おはようございます、伊丹さん。」

「あら、白峰さんのいすを押していたのね。おはよう。」

「今日は少し寒いですね。」

「そうですね、もうじき中間試験ですし、芦屋さんは、準備はいかが?」


「うえ、そう言うことは、朝聞きたくないわー。」

「いつならよろしいのよ。学生であるうちは、一年中ついてまわることよ。」

「はいはい、あ~正論かざされると、反論の余地がないわさ。」

「うふふ、本当ね。伊丹さんはまじめだから。」

「人間、地味で真面目な人が、最後まで残るものよ。」

「そりゃさー、派手なばかなんか、すぐに居なくなるだろうけどさ。」

 そんなおしゃべりをしているうちに、校門が見えてきました。

「土方さん、もうここでよろしいですよ。あとは、伊丹さんと芦屋さんが一緒ですから。」

 土方さんは、うなずいて帰っていきました。

「芦屋さん、それで昨日は白峰さんの家で、粗相はしなかったんでしょうね?」

「電話でも言ったでしょ?なにもなかったって。くでぇぞコラ。」


「またそう言うことを言う。だめでしょ、学校で江戸弁は。」

「たは~~、かんべんしてよ~。」

「あなたたちって、飽きないわ~。」

「漫才のコンビじゃないんだから!」

 伊丹さんは、あわてて言いました。

「そうだよ~、しかも伊丹とコンビ~?」

「それは私のセリフでしょ。」

「いんや、あたしのセリフだねー。」

「まあまあ、芦屋と伊丹じゃあ、ご近所じゃないの。」

『どこの話よ!』

 

「兵庫県…あいたたた、ぶたないで~。」

 二人に同時攻撃をかけられて、ほうほうのていで車椅子を進めました。

「あ~、そうそう。伊丹ー、麗子ちゃんからこれもらったんだ。」

 雁子は、ポケットから先ほどの写真を取り出して見せました。

「なに?結婚式?」

「正確には、結婚披露宴だね。」

 あやは、あわてて写真を取り上げて、じっくりと見ました。

「な・なによこれ、まさかワキサカの麗さま?」

「あら、わかっちゃった?」

「…ど、どうやってこんなものを手にいれたのよ。こんなの、外には出ていないはずよ。」

「だって、当事者がいたんだもん。」

「当事者?」


「要するに、出席者。」

「うそ…」

「ホント!」

「か・かわいー。」

 麗子の遠慮がちなツッコミに、二人は声をそろえて反論しました。

『ダジャレじゃな~い!』

「だから、当事者がいたのよ、すぐ近くに。」

 雁子は、私の車椅子をくるりと回して、あやの前に向けました。

「まさか…」

「その、ま・さ・か よっ!」

「本当に白峰さんは、このお式に出席なさったの?」

「ええまあ…」


「ほら、ここだよ。」

 雁子は、別の写真を見せました。

 お姉さまと旦那さま、双子と、五人で撮った写真です。

「なんてこと…灯台もと暗しとはこのことね。他の人にばれないように気をつけなきゃ。」

 伊丹あやは、あごに人差し指を添えて、考え込みました。

「そうなの?」

 私の疑問に、あやは素早く身を寄せて、小声で言いました。

「そうです。ワキサカの関係者は、お館組が守らなくてはいけません。あの、唖莉洲さんでさえ、二人のお館組がいるんですよ。」

「あら、でも私は傍系ですもの。」

「と、とにかく、校舎の中でお話しましょう。あまり外に漏れても困ります。」

「なんで伊丹さんが困るのよ。」

「あなたねえ、あたりまえでしょ。私はクラスの委員長で、脇坂系列の伊丹航空貨物の娘なのよ。」

「ああ、なるほど。そう言えば、あたしも脇坂系列の芦屋興行の娘でした。」

 雁子は、頭をかきながら笑いました。


「わがクラスに、傍系とは言え、脇坂の関係者がいらっしゃると知れたら、私の責任問題ですからね。」

「そんなに気張るなよ~。」

 雁子の声も聞こえない様子で、あやはさらにぶつぶつ言っています。

「昨日の着物の女の子も、妙に気になっていたんだけど、これで謎が解けたわね。」

「まあ、謎ってほどのものでもないけどね。」

「あなたも、たいがい呑気ね。誘拐とか起こったらどうするつもり?」

「ああ、うん、それは困るね。」

「でしょう?」

 三人は、校庭を横切り、校舎の中に入りました。

「とにかく、私はそんなに深い親戚でもないし、ただの母方の従姉妹でしかないんですから、お館組なんて大仰に過ぎます。」

「でも…」

「私は、ただの国会議員の娘なんですから、そう扱ってほしいんです。」

「あう…」

 あきらかに落胆を顔に浮かべて、あやは立ち尽くしました。


「なぁんだ、委員長って、お館組したかったの?」

「そ・そういう訳ではありません。」

 雁子の声に、はっとして振り返ったあやは、耳を紅潮させて言い返しました。

「まあまあ、伊丹さんも、お友達になってくれるなら、嬉しいわ。」

「あら、それならいつでもどうぞ。」

「あはは!ほらぁ、麗子ちゃん、みんなあなたと、お友達になりたかったって言ったでしょ?」

「本当ね。伊丹さん、お友達として、私を助けて下さると嬉しいわ。」

「よろこんで。」

 私の差し出した手を握り返して、伊丹あやは頷きました。

「これで、麗子ちゃんのお友達は、一気に三人に増えたわね。」

「三人?」

「昨日の着物の子。双葉ちゃんって言うのよ。京都府立八坂高校三年せい。」


「へえ、府立八坂って言えば、大変な進学校よ。毎年・東大に何十人も送り込んでいるわ。」

「そうだってね、あたしも驚いちゃったよ。すごく落ち着いていて、おっとなーってカンジだったよね。」

 私は、ぼんやりと彼女の顔を思い出していました。

「そうやねえ。おっとりした、ええカンジの人やったわ。」

「あれ?麗子ちゃん、どうしたのよ。」

「あ、あれ?今、私なにか言ってました?」

「関西弁だったよ…」

「あ~、実は私、神戸から来たので、本当は標準語が苦手なの。」(本当は淡路島ですけど。)

「へえ~、そうなんだー。」

「いままで、少しも気がつかなかったわ。」

「一生懸命練習したもの。」

「そんなこと、気にしなくてもいいのに。」

 そんなことを話しながら、三人は教室に入りました。

「あら、めずらしい組み合わせね~。」

 尼ヶ崎耶柚あまがさきやゆでした。

 尼ケ崎プランテーションと言う、大規模農業法人の理事長の孫ですが、ワキサカ傘下ではありません。

「ん、まあね、昨日から仲良くなったんだ。」


「ふうん、そりゃまたどうして?」

 耶柚は、カバンから取り出した、大根などのスティックを、しゃくしゃくと齧りながら聞いています。

「お、あたしにも一本。」

「ん」

 耶柚の差し出したタッパーから、大根を引き出して、雁子は顔をしかめました。

「辛!」

「あたりまえよぅ、耶柚の畑の大根だもん。これが、本来の大根の味だよ。」

「そうかー。まあ、美容のためだ、食べよう。」

「そうそう、耶柚は毎日食べてるから、元気だよ。白峰さんもどう?」

 差し出されたスティックは、瑞々しくておいしそうでした。

「いいの?じゃあいただきます。」

「どうぞー。」

 しゃくりと噛むと、大根はじゅわっと口の中にひろがり、じいんと舌に響きます。

「辛~い、なるほど、新鮮なんだ~。」

「そうだよ、これがおなかの調子を良くするんだよ。」

「よくわかったわ。」


「あ、耶柚~、あたしにも一本ちょうだい。」

 西ノ宮寿美です。

 西ノ宮海運と言う、瀬戸内海を運行するフェリーの会社の娘です。

「コラ、社長の娘がはしたないゾ。」

「それを言うなら、このへんみんな社長の娘でしょうに。」

「あ、それは言えてるわ。でもまあ、一般の人も七割くらいは居るんだし、気をつけないとね。」

「寿美、あんたに言われても、ちょっとねえ。」

「コラ、雁子、それどーゆー意味よ。」

「いやいや、あんたは庶民派だってことでしょ。お弁当派だし。」

「しょうがないでしょ、アレルギーがあるんだから。いい加減なものを食べると、一気に出るのよ。つらいんだから。」

「だから、耶柚の畑で取れた野菜を、食べればいいのよ。無農薬で、有機栽培だもん。安全なことは、請け合いよ。」

「だから、お弁当の中身は、ほとんど耶柚んちの野菜だわよ。」

「あはは、そうですか~。」

 なんだか、やっと住み心地が良くなったみたい。これも、麗お姉さまのおかげってことでしょうか。



 秋の日差しのように、やわやわとした暖かさが、教室の中に広がったみたい。

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