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サンシャワー  作者: おにぎし
9/22

執事の柿田さん(慈視点)

レストランで小柳さんとその息子に会ってから一週間が経った。わたしは相変わらず職場とアパートの往復の毎日を過ごしているが、ひとつだけ以前と変わったことがある。


「慈さん、今日もあの人来ましたか」


昼休憩にコンビニのパスタを食べていたところへ、アルバイトの大学生の篠崎くんがやって来た。わたしの隣の席に腰かける。


「さっきいらっしゃったよ。.....このお弁当、食べる?」


「はい、いただきます!」


わたしはキレイな布に包まれた三段のお弁当箱を篠崎くんに渡した。篠崎くんは喜んでそれを受け取り、布の結び目を解く。




変化したことというのは、わたしの職場に紳士ふうの男性が毎日手作りのお弁当を届けにくることだった。柿田と名乗る、白髪混じりの初老の男性だ。


重箱の上には、毎回弁当の中身が書いてあるメモがある。篠崎くんがそのメモを取り、今日のメニューを読みあげた。


「オマール海老のグラタン、牛フィレ肉のステーキ、ホタテのカルパッチョ、季節の野菜のソテーなどなど......。今日も豪勢ですね~!」


篠崎くんが重箱を開けると、彩りのとても鮮やかな、食欲をそそる料理たちが所狭しと詰まっていた。


「じゃあ、いただきまーす!」


体育会系の男子らしく、お弁当にがっつく篠崎くん。おいしく食べてもらえて何よりだ。




柿田さんは昼休憩になると、彼お手製のお弁当を携えて職場を訪ねてくる。彼は自らを小柳家の執事だと説明した。


お母さんに聞かされたことだが、小柳さんはゲームソフトを開発・販売する会社の取締役社長らしい。わたしとは縁遠いようなエライ人だ。


「将来、小柳家のお嬢様になる慈様に、毎日弁当を差し入れするようにと旦那様に仰せつかりました」


わたしはびっくりして最初は差し入れを断ったが、「旦那様のご命令ですから」と強引に押し切られると何も言えなくなった。それに加えて、職場からアパートまでの送迎も断りきれず、電車に乗らずに毎日外国産の黒塗り高級車の後部座席に座っている。「先日、お嬢様が電車で変質者に遭遇されたと聞き、旦那様はお嬢様を心配されています」と、柿田さんは運転しながら話した。柿田さんのペースに完全に流されてしまっているが、毎日わたしの送り迎えなんかで時間を取らせてしまい、とても申し訳なく思ってはいる。


それにしても、わたしに毎日お弁当を届けたり送り迎えをするなんて、意図があからさますぎる。再婚するのは小柳さんとお母さんの自由だとしても、わたしは小柳家の娘として暮らすつもりはない。お母さんは小柳さんの豪邸に移り住んでも、わたしは一生アパート暮らしでかまわない。わたしのお父さんはあの人だけなのに、今さら新しい家族だなんて、正直なところ少し面倒なだけ。小柳さんだって、わたしなんかに取り入ろうとしなくたっていいのに。


「慈さん、このグラタンまじで美味しいですよ。ひと口どうですか」


「遠慮しとく。パスタでおなかいっぱいだから」


パスタをたいらげ、ペットボトルの水で喉を潤してから、お先に、と篠崎くんに声をかけ席をたつ。


今日の帰りにまた柿田さんがここを訪ねてきたら、今度こそ送迎と差し入れを何とかして断ろう、と思った。

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