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サンシャワー  作者: おにぎし
2/22

誤解のはじまり(慈視点)

Suicaを手に改札を走り抜け、発車ベルの鳴り響く二番線からすべりこむように電車に乗りこんだ。そのときからすでに車内は混みはじめていて席は空いておらず、吊革をつかんで立っている人がちらほらいた。わたしはドア付近の手すりを握って、空いているほうの手でジーンズのポケットからスマホをひっぱり出した。


それは忘れもしない、いや、本当はすっかり忘れてしまいたいのだけど、とにかく、家の最寄り駅から五つ目の駅を過ぎたときのことだった。平日のこの時間帯、今朝も電車は満員になった。周りの人の熱で急に蒸し暑くなった車内で、スマホをまたポケットにしまった。それまでは、昨日一緒に出かけた友人からのメールの返事を打っていて、まだドア付近に留まっていた。


わたしの隣にいた男はもぞもぞとせわしなく、不審な動きをしている。わたしはその挙動不審さが気になっていた。


最初のうちは、お尻に何かが当たっているな、くらいの少しの違和感しかなかった。そして、次の瞬間、背筋が粟立った 。


揺れる車内でおかまいなしに上下する手の感触。はじめは自分が何をされているのか頭が追いつかなかったけど、急に吐き気が込み上げてくる。けれどそれより勝って、恐怖がわたしを支配する。頭が真っ白になって、体が動かなくなる。けれどすし詰め状態の車内では、どうせ身動きを取るのは難しかった。


今日は、人生最悪の日だ。




抵抗できないまま、どのくらい時間が経ったのかは、よく覚えていない。








「はあ......よかったあ......」


恐怖でしばらく意識を飛ばしていたわたしだったが、そんなかすかな声が耳に届いた。本当に小さな声だったけど、その一瞬で、走行中の電車の騒音が遠ざかり、クリアになった。するとその声をあとに、手の動きが止まった。


痴漢をされているときは怯えきっていて何もできなかったが、その声を聞いたときに、悔しいという気持ちで頭がいっぱいになった。それまで空っぽになっていた脳内が、強烈な感情で埋め尽くされた。たしかに手の動きは消えたけど、その感触はいまだ消えずに残っている。




悔しい悔しい悔しい。このまま泣き寝入りなんかしたくない――。




いつのまにか、わたしの右手は隣の男の手首を掴み、高く掲げ、わたしの喉は叫んでいた。


「このひとに痴漢されました!」

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