仲間(?)
朝起きたらもう九時だった。
今日はやることが沢山ある。
まず一つ目に、持っている双剣を本格的な刃にすることだ。実技試験をするにともない、なるべく切れ味が悪くなるようにレヴェルに加工してもらった。切れ味が良すぎると、もしかしたらロボットが壊れるかもしれないので、切れ味を悪くするのは実技試験をする上の条件の一つなのだが、その試験が終わったので、切れ味を良くしてもらう。
二つ目は、僕の私服を買うことだ。もちろん、僕だってもうすぐ二十になるんだ、私服ぐらい沢山持っていてもいいだろう。
今日はそんな感じだ。沢山というほどでもないが、二番目の私服には時間がかかりそうだ。
まずは、双剣をレヴェルに渡し、切れ味を良くしてもらう。
「ねぇレヴェル、この双剣、もとの切れ味に戻してくれる?」
「おお、いいぜ。今日は奇跡的に予約がスカスカだからな。これくらいならすぐにやってやる」
おぉ、なんという奇跡。レヴェルの経営する武器屋は、その切れ味、武器の軽さ、そして安いので、いつもは人があふれるように来ていた。なので、あまり店が混まないように予約制にしたのだ。だが、その予約さえいつも満員なのだ。
ちょっとした奇跡のあと、ウキウキ気分で財布を手に取り私服を買いに行った。
店についてから三時間くらい。両手で抱えるほど大量の服を買い帰宅中、路地から見覚えのある人が飛び出てきた。その人は、試験会場でマルセルと呼ばれていた魔法使いだ。
しかし、急いでいたのか、すごいスピードで出てきたマルセルはすごい勢いで突っ込んできた。尻もちをつく。両手に持っていた袋の中から服が飛び出ていた。服がビニールで保護されていたことが幸いしたようだ。
「だ...大丈夫ですか?」
弱弱しい声で話しかけてきて、すぐにハッとしたような顔をして周りに散らばった服を拾ってくれた。
「いやぁ、ごめんなさい。急いでいたもので」
へへへと笑うその顔は何か憎めないものがあった。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりあなた、マルセルさんですか?」
自分の名前を呼ばれて驚いているようだ。まぁそうだろう。自分が見ず知らずの人にぶつかって、その人に自分の名前を呼ばれたのだから。
その後。試験のことを話したり、お互いの自己紹介をして仲良くなることができた。きずけば、タメ口で話せる仲になってた。そして、今、自分中で一番の疑問をぶつけてみた。
「そういえばさ、試験の時に魔法陣もなしに魔法を発動させてたけど、あれ、そういう原理なの?」
そのことを質問したとたん、今までの笑顔が消えて複雑な表情。うれしいのか悲しいのか、見分けるのが難しい顔だった。そして、こう言ってきた。
「ここで話すから、誰にも言わないでくれる?」
え?そんな重い話なの?理解できないまま路地に入って行った。
この世界の魔法は意外と身近にある。なんたって、魔法館で売っている魔導書を読めば、今や誰でも魔法なんて使える。その方法はいたって簡単で、必要なのはと魔法陣、又は魔導書だ。専用の手袋の掌に魔法陣を描くもよし、杖を使うもよし、魔導書の付録の魔法陣をそのまま使うもよし。と、簡単に使えるのだ。慣れれば威力の調節もできる。なので、キャンプファイヤーの火や、暖炉の火なども、自分で魔法を覚えてつける人が多い。
だが、マルセルが魔法を使ったときは魔法陣はどこにも見当たらなかった。だが、その魔法は、周りにバリアが張られたにも関わらず、熱風がくるのが感じられたのだ。
マルセルの目力がすごい。
「...話、するよ」
「お、おう」
僕は冷や汗をかき、固唾をのんだ。
そして、マルセルの話が始まった。その話は衝撃的なものだった。
「僕の左手の人差し指には、魔導士がいるんだ」
魔導士とは、要は魔物のことだ。レヴェルに話を聞いたことがあるが、魔導士というのは、全身を覆うように紫色のローブを着ていて、手は茶色く、その掌には魔法陣があるらしい。そんな魔導士が人差し指に入るなんて不思議なことだが、マルセルの中に入っているのは、ただの魔導士手はないようだ。その名は、通称ズルダ。魔導士の上位互換だ。そのズルダのみが使える魔法がある。その魔法名は『寄生』。その名のとおり、一定時間だけ、その相手の中に入り込むことができるようだ。
ここからが問題で、なぜその寄生で一定の場所にずっといるのか、だ。普通は最高でも三十分が限界らしい。
「どうやら僕が、抵抗してしまったみたいなんだ」
抵抗とはレジストとも呼んで、相手よりも魔法を操る力が優れている場合に発動させることができる。だが、あの魔導士でさえ人間がレジストするのは難しいのだ。その上位互換であるズルダの魔法をレジストしたというのか...。
話をまとめるとこうだ。まず、マルセルが魔法陣なしで様々な魔法を使えるのはズルダのお陰、ということだ。なので、ズルダしか使えないような魔法も使えるらしい。なんて恐ろしい子でしょう...。
その後、路地裏から出ると、マルセルはキラキラと輝く笑顔を見てくれた。その後、自分たちの連絡先を交換して別れたのであった。
ちなみにだが、この世界には携帯何とかや、スマート何とかなんてものはない。とっくの昔に無くなってしまったのだ。今はみんな、生まれた時に国から与えられる肌と同じ色をした腕輪のようなものが支給される。それは、どういう仕組みかは分からないが、自分が今時間を知りたいと思えばそこから時間が出てくるし、ニュースを見たいと思えばそれが出てくるのでかなり便利だ。もちろん、それにはメール機能や、ビデオ電話の機能もあるのだ、便利というには申し分ない。
その日の夜、家に帰るとレヴェルが双剣を渡してきた。その双剣を見ると、刃の部分はギラギラと光り輝いていた。僕が見とれていると、レヴェルが茶色いポケットを渡してきた。どうやら双剣を入れる専用のポケットが届いたようだ。これはだいぶ前にレヴェルがネット通販で買ってくれたもので、服や鎧の手首の部分に着けて、双剣を取り出したいときは、腕を振ってその遠心力で剣を出すという。危険なような感じもするが、私服などはともかく、防具などを身に着けるときは、手や足首のほうまで包み込むようなものがついていて、それだったら、刃がこすった位では痛くも痒くも無いらしい。今日はそれで寝床についた。ここでも考えるのは、勇者の試験に受かったかどうかだ、はぁ...明後日まで待てないな。あの時は三日ではやっ、と思ったが、意外と長かった。早く明後日にならないかな。
頑張ったと思う(自己判定)