表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

Hello, Variants

 「…………やめ……ろ……」

 彼が、喰われている。紅い血が噴き出し、彼の首が地面に転がる。“奴”はゆっくりとこちらを向き、私に大きな牙を向け、その大穴に私は──


 ***


「おい、お嬢さん、そろそろだぜ。」

 初老の男の声で目が覚めた。少しうたた寝をするつもりが、ぐっすり眠ってしまっていたらしい。

「よーし、ここだ。ここから先は行き先が違うんでな。じゃあなお嬢さん、達者でな」

「ああ、ありがとう、助かりました」

「ここが"ガイア"……」

 四方を山と海に囲まれた、青々とした緑が目に優しいところだな……。東洋風建築の、屋根が瓦でできている家が立ち並び、碁盤の目のように区分けされた四角形の街の中央には、ほかの家々の3、4倍ほどはある建物がある。……沢山の家屋があるが、それにしては……

「おお!アンタがハンターか!」

 振り向くと私の倍ほどはあるだろう大柄な男が薪を抱えてこちらへ向かってきていた。ガッシリとした体つきに柔らかなライトグレーの目。短く刈り込まれた髪と無精髭はところどころ白くなり始めている。彼の背負っている、身の丈ほどあるだろう大剣は──

「依頼で来てくれたハンターはアンタのことだな?俺が依頼主のギルだ」

「はじめまして、ハインケスです。さっそく依頼について――」

「まあそう焦るなよ。まずは宿の確保だろ?案内するよ」

 ……うん。確かに少し急ぎすぎだったかな。話を遮られるのは好きではないが、おとなしく彼の案内について行く。

 町とも村とも言い難いそこは、やはり人が少ないな……いない訳では無いけど、なんだろう、怯えているような気がする……

 ギルに連れられて訪れた宿は、東洋風の木造建築だった。ところどころ、壁の塗装が剥がれて瓦には苔がむしていたが、内装は外見とは裏腹に清掃が行き届いており、清潔感のあるしっかりとした旅館になっている。

 部屋に案内されてしばらくすると、東洋のホテルのオーナーらしき女性が挨拶に来た。軽く設備の説明を受けた後、私たちは武器と鎧一式以外の荷物を部屋に置き、宿を後にした。

「あの、ギルさん、そろそろ依頼の――」

「なぁハインケスさん、腹減ってねぇか?」


   ***


「さて、それじゃあ依頼の件なんだが……」

 ギルが依頼の話を持ち出したのは、結局夕刻の、日が傾き始めた頃だった。今は彼の馴染みの武具屋と狩猟道具屋を案内され、装備の点検を受けている間に菓子屋を巡り、本日3軒目の菓子屋で草団子を食べているところだ。……美味しいなこれ。モッチリとした食感にヨモギのあおい香りが鼻に抜けて後味もすっと吹き抜ける。これはまた来なければ――

「おい、そんなに美味しかったか?」

「あっ……すみません。どこまで話しましたっけ」

「今回の依頼は、度々街に降りてくる獣――《バールフ》の討伐だ」

 バールフ――確か、大柄の熊のような外見に狼の頭を持ち、5、6頭の群れをなして狩りをする牙獣種だったか……。なるほど、アイツは昼行性だからこんな時間になってから話をしたのか。しかし――

「新米ハンターには手強いターゲットですが、わざわざ別の街からハンターに依頼するほどではないのではないですか?」

 この店で4本目の団子を食べていた彼が、急に顔を曇らせたところを見るに、ただ事ではないのだろう。

「ああ……本来は、な。だが、この個体、体長はなんと7m。確認しただけでも20頭の群れを率いていて、それなりに経験を積んだハンターでも太刀打ち出来ねぇんだ。それに、襲われている村はここから離れていてなぁ、そこにはハンターもいないからどうしようもないって話なのさ」

 7m!?記録上では最大でも4mだったはず……確かにこれでは厳しいか……。

「対象の住処はここから馬車で30分ほど進んだところにある渓流だ。それじゃあ……そろそろ時間だな。出発だ」

 最後の団子を口に押し込み、武具屋に手入れを任せた装備を取りに歩くが、妙に足が重い。

この記録は私――スティラ=ハインケスの記録である。私は今までにも旅をしてきたが、今回は不可解なことが数多く起こったので、今後の研究資料として、ここに記すものとする。


今から200年ほど前、まだゲームや電子機器類が昔話ではなく、現実で使われていた時代……地上で暮らしていた人類にある天敵“獣”が現れた。奴らは今まで地上の人間が造り上げてきた文明を破壊し、太古からそこにいたかのように、生態系に適応し、馴染んでいった。

生き残ったのは、「地上」の人間に貶められてきた「地下の人間」だけだった。おかげで人類は半数を生存させたが、地上の文明とは隔絶された彼らが造った文化は数百年前、騎士が闊歩していた時代まで退化していた。

そして今から16年前、私が生まれた。その頃には地上の人間たちが造っていたものの残骸から、馬車や自治のシステムなどを再構築できるまでに発展していた。そして新たに〈ハンティスト〉と呼ばれる、“獣”を狩る者が現れるようになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=90150603&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ