第6章 ②
急激な眩しさに目を瞑ったら、真っ暗になった。薄目を開けて、周囲を確認すると、再び強烈な光に顔を覆った。
椎菜はこの感覚を知っていた。
慣れた感覚だ。今までで二回も経験している。
リムブールだ……。
懐かしいと感じている自分を否定できない。
地に足が着いた感覚と共に、空気が変わったのが分かった。
――ここは日本じゃない。
すぐに、イズクが最初に椎菜を召喚した魔方陣の上だと知った。
「レクス様!?」
椎菜は目を開けると同時に呼んだ。
……が?
「ちょっと、どうしてあんたがいるのよ?」
目の前にいたのは、想像していた人物ではなかった。
「…………カルラさん?」
カルラは、尻餅をついて目を丸くしていた。椎菜の登場に驚いたらしい。
膝をついていた椎菜はゆっくりと立ち上がった。
「な、どういうこと? いきなり、それが光ったと思ったら、急にあんたが……」
「はっ?」
(それって?)
目を丸くする椎菜に、すぐに正気を取り戻したカルラは深緑のスカートのプリーツを割りながら、ガニ股で近づいてきた。
一応、まだ言葉は通じているらしい。
「何?」
逞しい手が伸びてくる。
殴られるのかと思ったが、カルラは椎菜の脇に落ちているものに興味があったようだ。
「それは!?」
見覚えのある四角い御守りだった。
椎菜は衝動的にカルラの手中から奪ってしまった。これは、レクスにあげたものだ。
「何で、貴方がこれを?」
「王子がいらないって私にくれたのよ」
「…………そ、そう」
椎菜は口元を引きつらせながら、微笑した。
……しかし。
「嘘よ」
カルラはさらっと言った。
「見て分かるでしょ? ここは王子の執務室」
「…………あ」
「私が王子に、そうするように仕向けただけよ」
「はあ」
カルラの言っていることは意味が分からないが、ここがレクスの部屋だということは事実のようだ。
「レクス様と、イズクさんは?」
「王子はここにはいない。補佐官は王子のもとを去ったわ」
「…………やっぱり」
「やっぱりって、どういうことよ?」
カルラが片眉を吊り上げた。
「イズクさん、私を返したら出て行くって言ってたから」
「……で、どうしてあんた帰って来れたの?」
「どうしてだか、さっぱり?」
それが分からない。
イズクがいないのなら、どうして椎菜はリムブールに来ることができたのだろうか。
「それに、その毛布は?」
「ああ。……布団? 掃除機と一緒に持ってきてしまったのかな?」
アパートの部屋から、掃除機と、怪しげな高級布団も持ってきてしまったらしい。
指摘されてみれば、めちゃくちゃな私物だ。
「……そう。それが貴方の覚悟なのね?」
「はっ?」
――覚悟?
何の覚悟だろう?
意味深なカルラの呟きに、疑問符が浮かびながらも、椎菜は意識を切り替えた。
(今はそれどころじゃないわ……)
御守りを握り締める。
歩き出そうとしたら、足が掃除機に当たって痛かった。
――これは現実だ。
「レクス様は、どこに?」
何ができるかではない。ただ椎菜はもう一度会いたいと思ってここに来た。
「まったく」
カルラは溜息を吐く。
「私、個人的にはあんたのこと大嫌いだけど、今回は特別だわ。貴方の真剣さは分かったから」
「……はっ?」
真剣って。
(……何が?)
決して、ふざけているわけではないが、真剣さを伝えるようなことを、カルラに示した記憶がない。
しかし、椎菜の違和感は口に出すまでに成長してなかった。
カルラの言葉で、すぐに打ち消される。
「私、王子には補佐官を捜して欲しいの。お互いに思い合っているのに、報われないなんて酷すぎるもの。……なのに、王子は捜してくれない」
……そうだろう。
そういう奴だ。レクスは意地を張っているのだろう。
イズクを捜したところで、拒否されるのが怖いのかもしれない。
「補佐官は待っているのよ。王子が来てくれることを」
――待っている?
あの鉄面皮がいじましく待っているキャラだとも思えないが……。
しかし、椎菜はその言葉の持つ違う意味に気がついていた。
「……もしかして、カルラさんはイズクさんの居場所を知っているんですか?」




