第1話 「悪夢」
今日も私は夢を見る。
―――「ユメセカイ」は私の唯一の居場所だから…。―――
深い深い闇の世界をゆっくりゆっくり落ちてゆく…。
ゆらりゆらり。風船が落ちるようにふわりふわりと夢の世界へ落ちてゆく。
トン、と地面に足がつく。
その瞬間足元から絵の具の入ったバケツがひっくり返ったように
『ユメ』が広がってゆく。
目を閉じて、そしてゆっくりまた目を開く。
そこに広がっていたのは……
…………廃墟?
目の前に伸びる薄暗い不気味な廊下と
不自然なまでに静かな闇。
この重苦しい…
腹の底から言いようのない不安がこみ上げてくるような感覚……。
どうやら「悪夢」に降り立ってしまったようだ。
いつ抜けてもおかしくないボロボロの木製の床が
歩くたびにミシ…ミシ…と音を立てる。
割れた窓ガラスの破片がそこら中に散らばって、
かすかな光を受け鈍く光っている。
窓の外に目をやると黒々と生い茂る樹々がまるで生き物のように蠢いていた。
不思議なことに私は、
この久しぶりにみた「悪夢」に何故か強い好奇心を覚えた。
いざとなったらいつでも逃げられる という自信が
「悪夢」に対する恐怖を消してしまったのかもしれない。
私はこのお化け屋敷顔負けの廃墟をすこし探索することにした。
廃墟は思いの外広かった。
長い長い廊下には一定の距離を開けていくつか部屋があった。
内装がどれも似ているように感じたのは、
どの部屋も同じくボロボロだったからだろうか。
でも、置いてある家具の一つ一つを見ると、
なかなか凝った装飾が施されており、豪華な作りをしていた。
大方、どこぞのお金持ちの豪華なお屋敷ってとこかな。
頭に「元」がつくけどね。
私はなんだかこの夢が気に入った。
自分じゃ思いつきもしないような
少し不気味なこの真新しい世界が
私をちょっとした探検家になった気にさせた。
目に入る扉を全て開けて
いろんなところを探索しているうちに、
大きな広間へでた。
そこは比較的小綺麗に見えた。
大きな長い机と大きな椅子。
おとぎ話に出てくるような見事な赤煉瓦の暖炉。
そして一際目を引く大きな扉……。
今まで見た中で一番綺麗な扉……。
埃一つもない、不自然なくらい美しい扉。
細かい装飾が施され、所々に赤青様々な宝石がちりばめられている。
ドアノブでは大きな獅子が金の輪っかを咥え
私を見つめている。
まるで私に ”さぁ、ここを開けて” と誘っているかのように……。
この先には何があるんだろう……!
みてみたい……みたい……この扉の奥を……‼︎
この時の私は、
好奇心という糸につながれた操り人形のようだった。
目の前の扉に完全に魅了されていた。
好奇心に取り憑かれ
その一際大きくて豪華な扉を開いた瞬間、
私は全てを絶句した。
そして思い出したのだ。
ここは、「悪夢」だったことを。