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最終話

ジャックはソフィの手を引き、ショッピングモールからの脱出路を走っていた。

その後を追ってくるゾンビは早くはないが、ソフィの疲労も溜まっており、そのせいでどうしても逃げるスピードは出ない。

だが、一本道で後ろからしか来ないのであれば撃退もそう難しくはなかった。


「ソフィ、頑張れよ。もう少しだからな」


「うん。私、頑張るよ。それで、その、ティナお姉ちゃんは?」


「………あいつのことは忘れ…いや、覚えといてやれ。多分、もう会うことはない。だから、忘れてやるな」


ショッピングモール内のこの道以外の場所がどのような状況にあるかはジャックにはわからないが、恐らくはここがショッピングモールを脱出する唯一の手段だろう。

そして、その道もジャックにすぐ後ろでゾンビによって塞がれつつある。


ジャックが倒すのは追いつきそうな必要最低限のゾンビだけだ。

狭い道に溢れかえる量のゾンビが押し寄せている後ろの道は既にとても人が通れる状態ではない。

少なくとも一人では無理だろう。


それはつまり一人残ったティナは事実上ショッピングモールの脱出は不可能となったのだ。


(………あのバカ女。最後までよくわかんない奴だったが、悪い奴じゃなかったはずだ。

何なんだよ、クソ。変な死に方しやがって。頭に媚びれ付く)


開かなかった扉が開いた時、ジャックはすぐにティナが何をしたのか察した。

確かにこのショッピングモールにいる人間の中ではティナは最も付き合いが濃い人物だ。

ずっと家族と離れ離れになっていたせいで、ショッピングモールに来てからなら、家族より共に過ごした時間は長い。


だが、付き合いが長いだけで仲は決してよくはない。

だからといって、嫌いなわけではなかった。


2人の間柄は、当の本人たちが一番よくわかっていないという奇妙な関係である。


(今にして思えば…俺とあいつはなんだったんだろう。俺は家族を奪ったスピーカーを恨んでいる。それは今も変わらない。だから、スピーカーの腹心とも言えるあいつは敵だ。

………なのに、なんであいつは憎めないんだろう?わからない…意味がわからない。初恋じゃあるまいし、なんで女のことでこんなモヤモヤしてるんだ)


ジャックにとってティナがどういう存在なのか?ジャックはあれこれ悩んではいるが、実際はなんてことはない。

ジャックはティナのことをただの友人だと思っていたし、少し前まではティナもジャックのことをそう思ってると信じていた。

しかし、ティナの最期の一連の行動がジャックを惑わせている。


確かにジャックはティナのことをある程度は魅力的に感じていたが、それはあくまで人としてだ。

スピーカーに付き従っていることを除けば、ティナは非常によく出来た人間だと、短い間にそう感じる場面が多々あった。

もし、スピーカーと関係ない所で出会えばジャックはティナのことを尊敬していただろう。

だが、そういう人間こそスピーカーのような存在を狂信してしまうのだ。

ジャックはティナのことをそう評価し、スピーカーの服従しているが、1人の人間としてティナと接していた。


特別扱いは一切していなかったからこそ、ティナの最期の行動がジャックにより一層心に残させている。

そして、その感覚がジャックがティナに他の人とは違う感情を抱いていると錯覚させているのだ。


実は、そのことにジャックは薄々気がついている。

だが、それを認めることは何故かティナへの冒涜にあたるような気がし、無意識の内に答えを避けるような思考をしていた。


その答えに辿り着くことがジャックにとって良いことなのかどうかは誰にもわからない。


「パパ!前!階段ある!」


頭を悩ませていたジャックは娘に言われて、ようやく通路の先に階段の存在に気が付いた。

ティナの情報が正しければこの階段を登った先にある扉を潜れば、すぐに外に出られるはずだ。


「ハハ…あぁ、階段があるな!頑張れ、ソフィ。ラストスパートだ」


「うん!」


娘に手を引き、ようやく見えてきた出口にジャックは笑みが溢れる。

非道かもしれないが、もういないティナのことより愛しい娘の今後のことを考えることの方が重要だ、ジャックはそう自分に言い聞かせて、ティナのことを心の片隅に置いた。

一番優先すべきことは娘の安全と平穏である。


だが、ティナのことを忘れるわけではない。

今、自分と娘が生きているのはティナの礎のおかげてあり、もしも今後ショッピングモール以上の安寧の元に暮らせても、それはティナの死があってのものだ。

そのことを肝に銘じて生きていく。


ティナだけではない。

ショッピングモールではたくさんの人間が死んでいった。

マイアはもちろん、デニスやケイティなど、様々な人間の死を見てきている。

それだけではなく、ジャックの知らぬ所でジャックの知らぬ人がたくさん死んでいるだろう。

そして、その全てに物語がある。


その全てがジャックが今こうしている結果に繋がっているのだ。

1人でも欠け、1人でも違う行動をとっていればジャックには別の結果が待っているだろう。


ショッピングモールにいた全ての人間を礎にジャックとソフィは生きている。

そのことを忘れずに、ジャックはソフィと共にこの世界を生き抜いていくのだ。























































「………外だ」


「外だね、パパ」


「生きてるよな…俺達?」


「大丈夫。生きてる。今も、これからも」


「あぁ…クソ。ダメだ、安心するな。ショッピングモールとは違うんだ。外は危険だ、気を抜くな」


「でも、パパ?ショッピングモールにいてからずっと離れ離れで、まだ再開の喜びを味わってないよね?………それにママのこともまだちゃんと悲しんでない。

ショッピングモールでは色々あって疲れたんだし…一息つかない?」


「ちょっと見ない間に、大人になったな。純粋だったソフィはもう戻ってこないのか。

うん、わかった…近くで落ち着ける場所を探そう。そして、そこで久しぶりの家族団欒と葬式といこうか」


「ママの?」


「それはもちろん。だけどママだけじゃない。あのショッピングモールで死んでいった全ての人間の葬式だよ」


「………うん」


「よし!じゃあパパについて来い!外は危険だから離れるんじゃないぞ!すぐ一息付けるところ見つけてやる!」


「うん!」

な、長かった(ヽ´ω`)


長かったこの話もようやく完結しました。

ここまで読んで下さった人がいれば心の底から感謝です(人´∀`*)


つたない文章とストーリーですが楽しめていただけたでしょうか?

相変わらずの亀更新になるでしょうが、新作も話は考えているのでいずれ投稿するつもりです(`・ω・´)ノ

その際はまた読んでくれると嬉しいです(´・ω・ `)

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