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第67話

「………娘さんと再会できたみたいね。おめでとう」


娘を保護したジャックが女子トイレから出ると、ティナが仁王立ちで待ち受けており、ティナは全く感情の籠もってない社交辞令を口にした。

ティナはチラリと横にいる首だけの死体を見ると、先程と同じく義務を全うするように話し始める。


「奥さんは…残念だったね。ドンマイ」


「そう思ってるならもっと残念そうに言ってくれ」


「こんなありふれた悲劇で同情しろって?無茶言わないで」


「………パパ…この人、誰?」


「パパのお友達だよ。あまり褒められる人じゃないけど」


「?…どういう事?」


「それは、私の性格が悪いってことよ。初めまして、お父さんのお友達のティナです」


「………お姉さん、悪い人なの?そうは見えないけど」


「じゃあ、今会ったばかりのお姉さんと大好きなパパの言う事どっちを信じる?」


「………え?いや、それは、その…えっと」


「ほら…性格悪いでしょ」


ティナは困惑するソフィの頭をポンポンと叩くと、自分がからかわれていたことに気が付いたソフィがハッとしてからむくれてしまう。

その様子に死体を見ても無表情だったティナがクスクスと笑い始める。

そして、笑うティナの様子を見て、呆れたようにジャックがため息を吐いた。


「あんまりソフィをいじめないでくれ」


「こんな世の中だからね…子供でも純粋で可愛い子って最近いなかったから、つい」


「つい、で人の娘をいじめるな。それで…これからどうするつもりだ?」


「その質問そっくりそのまま返すよ。この聖域が落ちた今、私の目的も夢もない。ただの抜け殻だよ。

君とその家族の行く末には興味もあるけど、その結末はこうして目の前にある。強いて言うなら君と娘さんに祝福の意を込めて外に出るのを手伝いたいかな?その後は特にないかな」


「行く宛のないなら一緒に来ないか?」


「………」


「人は少ないよりかは多いに方が俺はいいと思う。それに幼い娘を男手一つで育てるってのは色々と弊害がありそうだしな」


「………母親代わりをしろって言うの?」


「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、行く宛がないなら一緒に」


「お断りよ!」


「え、いや。別に断るのは構わないが…何もそんな食い気味に言わんでも」


「………あなた達といるのはここを出るまで。その後は家族、いえ、父娘水入らずってことで」


「あ、あぁ。そうだな…俺がとやかく言うことじゃないし」


「そう。じゃあ私とあなた達はここを脱出するまでの協力関係ってことで」


「………それは構わないが、ここをどう脱出する?この辺りにゾンビは少ないが、出入口がどうなってるかまではわからん。一度様子を見に行ってみるか?」


「いえ、あまりショッピングモールに長く居るのは好ましくないわ。

ゾンビは東エリアから入ってくるけど、東エリア以外から出ることができない。つまり、今は別エリアにいるゾンビもいずれモールを一周してここに戻ってくる。それがいつになるからわからないわ。他エリアの人達の抵抗力次第ってところ。

そもそも、東エリアのゾンビの侵入口となっている出入口の位置がわからない。スピーカーは放送でシャッターを開くだけでゾンビを入れられるポイントとしか言ってなかった。そのポイントとやらがどこにあるかもわからないのに少ないとはいえゾンビがいる場所を闇雲に彷徨くのは得策ではない。

そして、苦労して見つけた挙句そこが狭くてゾンビの密度が高かったら私達は完全に詰みよ。

いつショッピングモールを回ってるゾンビが東エリアに戻ってくるかはわからない現状、確実に…もしくは少しでも脱出できる確率が高いルートにすべきよ」


「っつてもそんなルートに心当たりがないぞ。そこら辺のバリケードを解体するか?」


「このバリケードは長期的にゾンビを防ぐためにかなり強固に作られてる。2人、子供もいれて3人でゾンビから身を守りつつ解体するのはそれなりの時間が必要になるわよ」


「じゃあ、どうするんだよ?そこまで言うなら何かいい案あるんだろ?時間ないと言っておきながら勿体ぶるなよ」


「………中央エリアよ」


「中央?」


「中央エリアはその性質上セキュリティはかなり高い。電子的な意味合いだけでなく物理的にも。

もし、ショッピングモールが物理的な攻撃を受けた時に中央エリアは他エリアとの繋がりを物理的に遮断することができるのは知っての通り。でも、今回の北エリアでの一件みたいにいくら強固と言っても時間と武器さえあれば破るのは難しくない。

こんなゾンビが蔓延った世界でこのワードは失笑ものだけど、平和だった頃はことあることあるこどに人命第一と叫ばれていた。

もし、テロリストのような何かからここが攻撃された時、中央エリアは他エリアとの繫がりを遮断するけど、そうすると中央エリアの人達は閉じ込められてしまうことになる。だから、中央エリアにはテロリストにバレないように関係者しか知らない中央エリアから直接外に脱出するための通路があるのよ。その通路があればテロリストに中央エリアが占拠された時に奇襲をかけたりもできるわ」


「………言いたい事はわかった。だが、そんな通路があったとしても、警察が奇襲をかけるのに使ったりする通路ならどこかに隠されてるはずだ。看板なんかあったら奇襲をかけられない。それに、外と直接繋がるってことは、その通路の存在がバレた時に備えて物理的なセキュリティは一番厳重にしてあるはず。

そんな通路をどうやって見つけてどうやって入るつもりだ?」


「………その通路の位置も暗証番号も知ってるし、鍵も持ってる」


そう言ったティナは得意気に鍵をジャックに見えるように掲げた。

そんなティナの顔はしてやったりという表情をしているが、ジャックとしてはただの一般人に過ぎないティナがなぜそんなことを知っていて、さらには鍵を持っているのか腑に落ちずにいる。

そんなジャックの反応を予想していたのかティナは得意気な表情のまま、得意気にその理由を語り始めた。


「スピーカーから直接聞いて受け取ったから間違いないわ」

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