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第57話

妻と娘との再会のために走りだしたジャックは目の前の光景に出鼻をくじかれてしまっていた。

南エリアと東エリアを行き来できる通路の数は限られており、その内の1つの前に辿り着いたジャックだったが、その通路に密集するゾンビの数に止めることなく動かし続けた足が止まってしまう。


南エリアにも既にかなりの数のゾンビが侵入していたが、ショッピングモールは広いため密度はそこまで濃くはなかった。

だが、目の前の通路にいるゾンビは先程までと違いとても走り抜けられる密度ではない。


あの通路さえ抜けることさえできれば再びショッピングモールは広がり、密度は低くなるだろう。

さらに、ゾンビの獲物となる人間が多く生き残ってるであろう南エリアにゾンビが流れるため東エリアのゾンビは数が少なくなっているはず。

つまり、この通路こそが最初で最後そして最大の難関ということだ。


「あと少し…もうすぐそこだというのに………クソッ!」


とても1人で切り抜けられるとは思えず、ジャックは悔恨の念に駆られ歯を噛み締める。

だが、ここで無理をしても無駄死にするだけという歯がゆい状況にジャックはどうしようもできずにいた。


「フフ、どうやらお困りのようね」


恨めしそうにゾンビの大群を睨みつけることしかできなかったジャックの背後からそんな声をかけられて、ジャックは驚きつつも振り向く。

そこには5人の男女がおり、その内の2人はジャックにとっても見知った人物であった。


「………ティナ…それにチャック」


ジャックが見知った2人の名を呼ぶと、チャックは軽く笑いかけてき、ティナは呆れたようにため息を吐いた。


「君の言う通りの状況だったね。まさか、こんなに早く見つかるとは思わなかったけど」


「別に…なんとなくよ。女の勘ってやつ?」


訳が分かってないジャックを置いてけぼりにしてティナとチャックは何やら話しており、その会話を理解できずジャックはさらに置いて行かれることになってしまう。

それに一緒にいる3人の人物にジャックは見覚えがなく、誰なのか問いただすためにもジャックは声をかけた。


「ごめん…状況がわかんない。お前ら何でここに?それにその人達は誰だ?」


「あ〜ごめん。後ろの3人は俺の家族。父親と妻と息子」


「………再会できたのか、よかったな」


「その件はありがとう。ジャックのおかげだ。

まぁ、親父に関しては俺もさっきここにいるのを知ったんだけどな。赤の他人としてショッピングモールの南エリアにいたらしい」


「それで、揃いも揃って何でこんなところにいるんだ?」


「おかげ様でこうやって家族との再会を果たしたんだが、どうにもショッピングモールはこの有り様だ。外に逃げてもゾンビの餌食になる未来は変わらないだろうし、こうやって家族が揃って死ねるだけでよしとしようという結論に至ったんだ。

で、そんところにたまたまそこのティナちゃんと会ってな。そこであんたの状況を聞いたんだ。

ジャックは俺たち家族を再会させてくれた。今度はこっちの番だ。どうせ、死ぬなら命は有効活用しないとな」


「………俺のために命を懸けてくれるのか?せめて、息子さんだけでも逃したらどうだ?」


「どうせ近い内に死ぬだろうし。息子もそろそろ高校生だ、本人がジャックの手助けをして死ぬ道を選んだなら親は何も言わんさ。息子だけじゃない、妻も親父も自らの意志でこの場にいる。あんたが気にする必要はないってことだよ」


「そうか…ありがとう、本当に。俺なんかのために………それでティナは何で俺の状況を知ってるんだ?」


「あなたの家族が東エリアにいることは知ってたから、現状から考えたらこうなるだろうと推測しただけよ。見事に大当たりだったようね」


「………チャック達が駆け付けたのはわかったが、まさかティナまで来るとはな」


「借りを返しに来ただけよ。それに、いくら私でも主様に切り捨てられたことはわかってる」


「それでスピーカーに嫌気が差したのか?」


「いえ、主様はこの状況でも被害を最小限に収めた。悪いのは裏切った私達よ」


「………一途なやつだな」


「でも、去り際はわかってる。主様に切り捨てられた以上は潔く去ってくわよ」


「………健気なやつだな」


「あなたにだけは言われたくない。………それより時間が勿体無いんじゃない?」


「それもそうだな………皆、本当にありがとう。俺のために」


「だから私は借りを返しに来ただけだって」


「俺も礼はいらない。既に家族と再会させてもらったし」


頭を下げるジャックにティナはそっぽを向きながら、チャックとその家族は笑いかけながらそう答えた。

これだけの人間がいればギリギリ東エリアまで行くことができるだろう。

礼はいらないと言われたが自らの命を危険に晒すどころがほぼ助からない窮地にまで追いやってまで、あまり関わったことのないジャックとその家族を再会させようとしているのだ。

礼を言うなという方が無理があった。


「じゃあ、行くぞ!ギネス一家、この命に変えてもジャックを東エリアに送り届けろ!」


「おおおおしゃあああああぁぁぁぁぁぁぁあ!」


チャックを筆頭としたギネス一家が横一列に並び、気合を入れる叫び声と共に武器を構えてゾンビに突っ込んで行く。

ジャックもその後に続こうとするが、その行く手をティナが目の前に立つことによって強引に止めた。


「あなたは道が開けるのを待ってればいい。死んだら元も子もないからね」


「俺だけ黙って見てろって言うのか?」


「そうよ。彼らはそのために戦っている」


「………ティナは?」


「私はあなたのボディガード。道が開けるまでの安全と、道を通る際に襲って来る危険からあなたを守る役目。もちろん命に変えてでもね。

自分のために戦っているのに当の本人が突っ立ってるだけというのは気分が悪いかもしれないけど…彼らはそれを望んでる。彼らの最期の戦いをあまり邪魔しない方がいいよ」


「………わかった。だから、約束しよう。必ず家族に会うと」


ジャックはその足を止め、目の前で道を開けるために戦うギネス一家をただ見ることしかできない。

援護をしようとも考えたが、その銃声によりゾンビがジャックの方に流れる危険性を危惧してティナに止められてしまう。


ジャックは自分を襲う危険性のある最低限のゾンビをティナに倒してもらいながらただ道が開けるのを待つのみという現状に歯痒さを感じていた。

恐らく、道が開く頃には4人のギネス一家は全員無事とはいかず、最悪の場合は誰一人として助からないだろう。

それでもジャックは手を出すことはなかった。


生きてるかわからない家族との再会のために会ったばかりの人達がその命を散らそうとしている。

ジャックの胸にその事実が重くのしかかり、ジャックは今一度家族との再会をその胸に誓った。

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