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第55話

南エリアと西エリアの各所で発生した無差別的な戦いは南エリアと東エリアを繋ぐシャッターの前も例外ではない。

だが、ある出来事がこの場所を唯一の例外へと変貌させることになる。


ついさっきまで殺し合っていた人々が今はその手と足を止め、全く同じ方向を見ていた。

その方向とは南エリアと東エリア繋ぐ通路を塞ぐシャッターで、そのシャッターは一度閉ざされてから守ってきた沈黙が今まさに破られたのだ。

人々は銃弾が飛び交う戦場でもその音を聞き漏らさずに、そしてその音に全身を固めてしまう。


「………おい、今さ…音したよな?」


「ってことはあれか?タイムリミットか?」


「おい待て!ここが開くってことはゾンビが入ってくるってことなんだろ!」


「………その前に東エリアはどうなったんだ?あそこには家族がいるんだが…」


さっきまで殺し合っていたとは思えないほど自然に人々は目の前の光景について話し合う。

それだけこのシャッターが開くというのは衝撃的なことなのだ。


だが目の前のシャッターはそんな人々が感じてる恐怖など知らず、無機質な音をたて続ける。

そして、ついに人々が恐れていた瞬間が訪れてしまう。

今まで音だけだったシャッターがついに上へと、つまり塞いでいた道を開け放ち始めたのだ。


そして、シャッターが開くにつれゾンビのものと思わしきおぞましいうめき声が大きくなり、出来上がった隙間からは音につられてやってきたのかゾンビのものと思わしき足まで見え始めた。

潜り抜けるということを知らないゾンビはまだ南エリアに入ってくることはないが、今も焦らすようにゆっくりとシャッターは確実に開いている。

ゾンビ達がこちらに入ってくるのも時間の問題だろう。


「マズい…逃げるか」


「逃げるって、どこに?」


「………外?」


「外だってゾンビだらけなのは変わりない。なら、ゾンビの侵入経路が限られるここの方が安全とはいえないか?」


「逃げ場がないともいえる。狭く入り組んだ場所もあるから囲まれる恐れもある。ゾンビの侵入を許した時点でここは安全とはほど遠いんだよ」


「だからといって外はやばいんじゃ?ゾンビ発生からそれなりの時間がたってる。外の状態がわからない以上うかつに出歩くのは自殺行為だ。

せめて、安全そうな場所をいくつか調べておきたい」


「………今更だな。とりあえずいきあたりばったりにいくしかないか」


「もう終わりか。まぁ、大抵はゾンビが出てからすぐに死んだんだろうから長く生きられて方か」


ゆっくりと開いていくシャッターの前の人々の反応は千差万別であった。

ある者は情けない姿を晒しながら逃げ惑い、ある者は諦めを抱き立ちすくみ、ある者はゾンビの侵入を防ごうとみがまえている。

誰の行動が正解なのか、はたまた正解などはないのかはわからないが、1つだけ確かなのはここで大多数が死に絶えるであろうことだ。


「………来るぞ」


誰かが言ったそのセリフ通り、ゾンビが通れるだけの隙間が出来上がり、ゾンビが東エリアから雪崩れ込んでくる。


「クッソがぁぁ!」


次から次へと東エリアから入ってくるゾンビに逃げずにいた人々が銃を手に応戦していくが、それは傍から見ても無駄な抵抗で、当の本人達も自覚をしていた。

だが、何の意味があるかはわからないが死ぬまでに1人でも多くのゾンビを倒す。そんな意気込みの中で彼らは最期まで戦い続ける。


























































『デニス・ゴールドマンは死んだ。南エリア及び西エリアに暮らす諸君の協力的な行動によりこのショッピングモールには再び平穏が訪れよう。

南西エリアの大多数が協力してくれたおかげで、不利を悟ったデニスの自殺という限りなく最小限の被害で事が収まったことは非常に喜ばしい。


約束は守ろう。東エリアへゾンビを入れるようなことはしない。南エリアと西エリアも再び現体制下に戻ってもらう。


東エリアの諸君を不安にさせたことは謝ろう。これは完全にこちらに非がある。だが、安心してくれ。今後二度とこのようなことは起きない。


今回の事態は南エリアと西エリアの一部の人物達がこっそりと連絡をとりあった末に起きたことだ。

そのため、今後はいかなる班でも他エリアへの立ち入りを禁じる。今まで他エリアに行っていた班は自エリアでその役割を担って欲しい』


「………なんだこの放送は?」


ジャックは目の前のインターホンではなく、スピーカーから聞こえてきた放送の内容に眉をひそめ、そう声を漏らした。

この放送の内容はさっきまでのスピーカーが言ったこととは真逆で、事実と反する内容も多く見受けられる。


『事の顛末の放送だよ』


今度はスピーカーからではなくインターホンから響いた声にジャックはより深く眉をひそめた。

そんなジャックの反応に何が面白いのかスピーカーのクスクスという笑いがインターホン越しにも聞こえてくる。


「事の顛末だと?貴様がさっき言った内容と異なるようだが?そもそもデニスは自殺などしていない」


『まだわからないのか?これは北エリア向けの説明だ。北エリア以外にどう思われようと知ったこっちゃない。

それより、こんなところでゆっくりしていていいのか?早くしないとゾンビがそこにも押し寄せてくる。それにあんたの家族、今生きているかは知らんが時間をかければかけるほど手遅れになる』


「………ふざけやがって。あんたの顔を一度でいいから拝んでみたかった。そして、1発ぶん殴ってやりたい」


『減らず口を…』


ジャックは一度だけ大きく舌打ちをしてからその場を駈け出した。

恐らく今頃は南エリアにゾンビが侵攻を初め、人々はパニックに陥っているであろう。


東エリアに向かうということはゾンビの侵攻を逆走する形になる。

さらに、東エリアと南エリアを繋ぐ通路の数は限られており、通路は狭い一本道だ。

つまり、南エリアに向かうゾンビは今頃はその通路に密集しており、その流れに逆らって東エリアに行くのは至難の技といえよう。


それでも、ジャックは諦めることはなかった。

沢山の人々が犠牲になった今回の騒動だが、ジャックにとっては開かれることのなかった東エリアへの道が開けたと捉えることもできる。


(マイア、ソフィ…無事に生きていてくれ!)


ジャックはそう心から願いながら東エリアに通じる通路に向けて我武者羅に止まることなく走り出した。

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