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第47話

「デ、デニスさん!」


デニスがスピーカーと話している所に、デニスの仲間が大声でデニスの名を呼びながら、乱入してきた。

デニスはあからさまに煩わしそうな表情をし、不機嫌なのを隠すどころか知らしめるような態度をとりながら応対する。


「うるさい。しばらく一人にしてくれって言っただろ」


「いやいやいや、それどころじゃないですよ!今の放送を聞いてなかったんですか!?」


「ちゃんと聞いてた。それで状況は?襲撃でも受けてるのか?」


「その方がわかりやすくてよかったぐらいです。南エリア・西エリアの至る所で小競り合いが起きてます。

きっかけはあの放送。あの放送を聞いて、あなたを殺そうと言う連中が各地で現れました」


「それぐらいのことは聞かなくても予想できる。俺が聞きたいのはその連中が何をしてるかだ?徒党でも組んだか?」


「い、いえ。奴らは団結することもなく各自で暴動のようなものを起こしてます。奴らは反対する人物を容赦なく殺し、それを止めようとする者も殺し、ついには無差別に殺し始めました。

そして、その人物から身を守るために中立の立場の者までもが銃を手に取り始め…今やヒドい有り様です」


「ヒドい有り様というのは?具体的に頼む」


「………自分以外は全て敵。生き残りたいなら動く者は殺す。まさにそんな有り様です。

もはや、デニスさんもスピーカーも関係ありません。誰もが訳も分からず殺し合っています」


「ハハハハ、なるほど。確かにヒドいな」


「笑ってる場合じゃないですよ!どうにかしてこの騒ぎを止めないと!」


「止めてどうする?俺が生きているとゾンビの餌食になるだけだ。

人に殺されるか、ゾンビに殺されるかの違い。なら、人の方がまだマシじゃないか?」


「諦めるのは早いですよ!ゾンビは東エリアから来る、つまりは侵入経路は限られる!今すぐ南西エリアを纏め上げれば対処は可能です!」


「纏め上げるって簡単に言う。東エリアに家族がいる者が従うとは思えない。そもそも俺の声を伝える術もない。スピーカーは文字通りスピーカーの物だ。まさかこの状況で伝言ゲームをするつもりか?

だいたい俺はこの状況をどうにかする気はない」


「なっ!諦めないでくださいよ!」


「勘違いしてるようだが、俺は諦めたわけではない」


「な、何か策があるんですか!?」


「だから、勘違いしてるようだが、この状況を作り出すことこそが俺の目的なんだよ。

だいたい管理する者を追い出し、武器をばら撒けば、無秩序な争いが起こるのは当たり前だろ。まぁ、想定よりかはいささか派手になったが。まさか、スピーカーが自ら俺の手伝いをしてくれるとは」


「………冗談ですよね?だいたいデニスさんが今こうして生きてるのは誰のおかげだと思ってるんですか?あなたを信じて外で命懸けで戦ってる仲間がいなかったら、ここにはとっくに暴徒が乱入してるっていうのによくそんな冗談を」


「恩着せがましいし、冗談じゃない。俺は本気でこの状況を作りたくてスピーカーと対立した。

俺を信じてる連中?そいつらは自分で考えれないから俺を信じてるだけだろ。

で、これを聞いたお前はどうする気だ?外にいる俺を信じてる連中とやらはお前の言葉に従うと思うか?」


デニスが煽るようにそう言うと、乱入してきた男は悔しそうに歯ぎしりをたてる。

デニスの言う通りこの状況をどうにかできるのかはデニスとスピーカーの2人だけで、それ以外の人物はこの2人の手の平の上で踊ることしかできない。


なら、男にできる最良の選択はスピーカーの手の平の上で踊ることだ。

デニスの思惑はわからないがこの状況こそが目的だと言うデニスの手の平の上は破滅しかない。

なら、デニスと同じく信用が置けない人物ではあるが、まだスピーカーの手の平の上の方が可能性が残っている。


男はデニスによって配られた銃を取り出し、それを目の前に立つデニスに向けた。

その男の行動にデニスは心底つまらなさそうにため息を吐く。


「はぁー………普通。至って普通の反応だな。何も面白味もない。

もしかしたら、お前がより状況を掻き回してくれるのではないかとからかってみたが…期待はずれだな。

考えてみろ。俺を殺したからといってあのスピーカーが俺達に救いの手を差し伸べるか?」


「確率の問題だ!まだスピーカーの方が高い!」


「またつまんない答え」


「言ってろ!後は引き金を引くだけだ!俺を惑わそうとしているのなら無駄だ!」


「あーあ、まだ勘違いしてる。言っただろ、目的は達したって。そこに俺自身の生死は含まれていない。

むしろ、俺が殺されることにでより強固な結果が得られるかもしれないな。そうなると、お前に殺されるのは惜しい。せっかくスピーカーが派手に演出してくれたんだ、もっと面白い奴に殺されるべきか。

………贅沢は言ってられないか」


途中から男に話しかけるというよりはブツブツと独り言を言うように喋るデニスだったが、デニスの言葉はしっかりと男の耳にも届いていた。

だからこそ男は困惑する。デニスが何を考えているのか理解できないのだ。


そもそも、この状況を作り出すことが目的というのが理解できなかった。こんな状況を作ったところでデニスに得があるとは思えない。

デニス自身の生死を度外視してまで成し遂げたこの状況、これが生み出す結果とやらを男がいくら模索したところでハッピーエンドに終わる結果は1つとしてなかった。


「………あんたは何がしたいんだ?」


「そうだな。観客もいるし、この辺りで話しとくか。だが、ギャラリーが少し寂しいな」


デニスが悩ましい声で呟くと、そんなデニスの思いが通じたのか図ったようなタイミングで銃を向ける男とは別の男が乱入してきた。

何やらデニスに伝言があるようだが、男はデニスが銃を突き付けられており、にも関わらず飄々とした態度のデニスに困惑して口を噤んてしまう。


「気にするな。それで、要件は?」


デニスがフォローすると男は戸惑いながらも要件を伝える。


「は、は!ジャックという男がデニスさんと会いたいと言ってまして。状況が状況なので会わせるべきではないと思ったのですが、一応確認しておこうと」


「ジャック…あの男か。悪くない人選な上にこのタイミング。

なるほど、やはり神は見ているのか」


「………デニスさん?」


「あぁ、すまん。ジャックを通せ。あいつとは親しい間柄だ。ボディチェックの類は必要ない」


「え?しかし…」


「いいから、言う通りにしろ」


「は、はい!」


男はデニスに睨まれると慌てたように飛び出し、その様子をデニスは楽しそうに眺め、デニスに銃を向ける男は戸惑いながらもしっかりとデニスの動きを注視する。

そして少しの間、誰も何も発さずに待っていると、例のジャックという男がやってきた。

ジャックはデニスが銃を向けられていることに驚いた様子だったが、デニスはそんなこと気にも止めずに笑顔でジャックを歓迎した。


「よく来たね、ジャック!手紙のやり取りはしていたが面と向かって会うのは牧場以来か。

それで、君は俺を殺しに来たと思って間違いないか?」

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