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第46話

突如として、南西エリアを滅ぼす生贄に選ばれた東エリアは混乱の渦に陥っていた。

だが、それも無理はない。ゾンビと人間を隔てるシャッター、いわば生命線ともいえる壁を取り除くと宣告されて平静を保っている方がおかしいのだ。


そして、放送を聞いた東エリアの人々が真っ先にとる行動は至って単純で、隔てて壁が無くなるなら新しく壁を作ってしまうというものだった。


「なんでもいい!家具や家電でもバリケードになりそうなもんはかたっぱしからかき集めろ!」


シャッターの前にいる男がリーダーシップを発揮して叫ぶが、付近にいる人々はそんな男に言われるまでもなく目の色を変えて動いている。

そして、誰かが運んできたバリケードの一部となる家具をシャッターの前に置こうとしたちょうどその時、ガコンという何とも不吉な音が目の前にあるシャッターから響いてきた。


その音を耳にした人々が忙しなく動かしていた身をまるで石になったように止め、まさかとは思いつつ音源であるシャッターを恐る恐るといった風に見る。

気のせいであってほしい、そう願う視線をあっさりと裏切るように、視線を一手に引き受けていたシャッターはゆっくりと上へと動き始めた。


「………おい…やばいんじゃないか?」


誰からともなくそんな声が漏れ聞こえてきたが、非情にもシャッターは止まることなく上へと登り続ける。

少しずつシャッターと床の隙間が大きくなるにつれ、微かに聞こえていたゾンビのものと思わしきうめき声も大きくなっていく。


家具店から大きな本棚をシャッターのすぐ直前まで運んできていた先頭を行く人々は、その光景に恐れをなし、その場に本棚を置いて足早に逃げ去っていく。

そんな人々の動揺を助長するようにシャッターは無遠慮に開き続ける。


「に、逃げるな!おい!今からでも出来る限りのことを!」


威勢よく叫んでいた男が再び人々を鼓舞するために叫び声を上げるが、心なしかその声に先程までの覇気はない。

そのせいかは定かではないが、人々は男のいう事など聞かずに次々とショッピングモールの奥へと逃げ去っていく。


「ああ、クソッ!死んでたまるか!ここは人類の最後の居場所なんだ!お前ら薄汚いゾンビに奪われてたまるか!」


すっかり人気がなくなってしまった廊下で男は逃げようとせず、むしろシャッターに向かって走り出した。

シャッターはまだ完全には開ききってないとはいえ、すでにゾンビが通るには十分すぎるほど開いており、実際に何体かのゾンビは人間の領域に足を踏み入れている。


男は逃げ去っていった人達がシャッターのすぐ前に置いていった本棚まで駆け寄ると、その本棚を横に倒した。

持ち運ぶにはかなりの重量がある本棚でも倒すだけでも一人の力で十分に可能とはいえ、それを横に倒しただけのそれはバリケードには成り得ない。

横にも上にもゾンビが通れそうな間は多くあり、現に男の目の前で本棚の横や上をゾンビがわらわらと通ろうとしていた。


「通さんぞ!この地から人類は繁栄を取り戻すのだ!人間をお前ら腐れに滅ばさせはしない!」


男はやけになりながら目の前にいるゾンビは素手で殴るが、少しよろける程度で止まることはない。

近づいては殴り近づいては殴りを繰り返してゾンビの侵入を防ぐ男だが、それも次第に数を増すゾンビのせいで限界に近づいていた。


男はそれでも逃げようとせずに殴り続けるが、男がしていることはゾンビの侵入をほんの僅か遅らせるだけで大した意味を持たない。

その事を頭では理解しつつも男は拳を振るい、最後の抵抗を続ける。

だが、男が屈してゾンビが侵入するのは時間の問題であることは明白で、その事は男自身も理解していた。










































「ゾンビ!ゾンビが来てるんだ!」


「ふさけるな!早く武器を寄越せ!」


「見殺しにする気か!」


東エリアにゾンビが侵攻したという情報はあっという間に東エリア全体に広がり、その情報を得た人々は武器庫に押し寄せた。

ここでゾンビに戦うにせよ、ショッピングモールを逃げ出すにせよ、武器は必要となるからだ。

しかし、武器庫に行けば武器が手に入ると考えていた人々の思いは簡単に粉々に砕かれてしまう。


武器庫に籠もる武器管理班が武器を独占してしまっているのだ。

武器管理班には手に余るほどの武器を所有しているに関わらず、武器を独占しようとしており、そのことに人々は怒りをあらわにし、武器庫に向けて怒声を浴びせる。


「お前らは安全な武器庫にいるかもしれんが、俺らは外にいるんだぞ!」


「そこに引き籠もっても助かりはしない!助かりたいなら俺らに武器を渡せ!」


怒声を発しながら武器庫に足蹴りをいれる人々にようやく武器管理班に反応があった。

武器の引き渡しに使う穴から銃口がにゅっと顔を出したのだ。

少し考えれば銃口だけが出て来ることに違和感があるが、冷静さを欠いた人々はその銃口に群がるように駆け寄り始める。


そして、案の定というべきか、その銃は群がる人々を薙ぎ払うように銃弾をばら撒き始めた。

その銃弾により人々は呆気無くその命を落とし、生き残った人々は逃げるように武器庫から距離を置く。


「この武器は俺らの物だ!お前らには渡さん!」


沈黙を守っていた武器管理班がようやく発した発言は人々の反感を買うが、未だに顔を出している銃口に恐怖し、それを心の内に留める。


「確かにここには大量の武器がある。だが、全員に満足なだけ行き渡る量はない。俺らはハンドガンと弾数発でこの窮地を乗り切るのは無理だと判断した。


だから、ほとぼりが冷めるまで武器管理班一同はここに籠城する。

今出てもお前らと共倒れするのは目に見えている。お前らは武器を振り回すだけで、邪魔になるだけだろう。


外のゾンビを見てれば一箇所に長時間留まることはないことはわかる。ゾンビをウロウロと色んな場所を彷徨いていく。


わかるだろ?お前らが死に絶えてゾンビの数が少なくなった頃を見計らって、武器をふんだんに使ってどこか安全な場所に逃げさせてもらうよ」


「い、いいたいことはわかった!でも、1つぐらい武器をくれたっていいだろ?」


「わかってないな。この状況で武器を少し与えても奪い合い殺し合うだけだ」


「いや、そ、それもわかるが…武器もなく行き場もない俺らにどうしろと!?」


「知ったことか。話は終わりだ。これ以上ここに居座るなら撃ち殺すぞ」


脅すようにそう言ってから有り余る銃弾を無差別にばら撒くと、武器庫の周りに集まっていた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

かくして東エリアの人々は、南西エリアとは真逆で人々に一切の銃器を与えられないまま生き抜くことを余儀なくされてしまった。

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