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第40話

「救済?………いや、救済はまだわかりますが人類ってのは些か大袈裟な話じゃありませんか?」


エミルはデニスの言葉が理解できず、困惑しながらも問いかけてみるが、デニスはニタニタと笑うだけで返事をしようとしない。

どうするべきか、エミルは悩んでいるとそんな思考を遮るように久しく鳴ることがなかったスピーカーからショッピングモール中に放送が鳴り響いた。


『先刻、情報提供があった。デニス・ゴールドマンが反逆を目論んでいる。

南エリア粛清班はただちに出動し、広場2階にいるデニス・ゴールドマンを粛清せよ』


突然の粛清班への指令に広場にいる人々が目に見えて動揺が広まり、エミルは驚きのあまりに目を見開いていた。

一方のデニスの様子に変化はなく、変わらず広場を見下ろしている。


そんなデニスの見下している広場では多くの人がキョロキョロと周囲を見渡してから、そそくさと逃げるようにその場を去っていっていた。

段々と広場とその周辺は巻き込まれることを恐れて人が離れ、遠巻きで事態を見守るように群がっている。

その場を動くことのなかったデニスとエミルは野次馬の視線を一身に受け、エミルは居心地が悪そうにしているが、デニスは気にした様子はない。


野次馬はその場を動こうとしない2人にヒソヒソと何やら話し始めた。

エミルからは何を話しているかは聞こえないが、好意的な物とはどうしても思えず、焦りながらも野次馬に聞こえないように声を潜めてデニスに話しかける。


「デ、デニスさん。ここにいたらマズイですよ。

すぐに粛清班がきます。逃げましょう」


「逃げてどうする?こうなったらスピーカーは俺のことを逐一監視する。

逃げたところですぐに放送が流れるだけだ」


「な、ならどうするんですか?ここにいたら殺されるのが早まるだけですよ」


「安心しろ」


「何を、根拠に…現にこうして誰かが裏切ってスピーカーに密告した。

あんたの計画とやらは失敗した…もう終わりだ。俺はここから逃げる。

少しは期待してたのに残念だよ」


「逃げるのか?男としてスピーカーが許せないんじゃなかったのか?」


「それは最初の話だ。スピーカーのやり方は嫌いだし許せないが、今はこの平和を壊そうとするあんたの方が許せない。

あんたの目的は知らんが、断言する。あんたはろくなことしない」


「昨日まで俺の言う事にヘコヘコ従ってくせに。ずいぶんな心変わりだな」


「言ってろ。あんたはすぐに粛清される」


エミルは言いたいことを言い終わるとすぐにデニスの背中を向けて野次馬の方に歩き出した。

デニスはその背中を少し呆れたように肩をすくめながら眺める。


「これからどうするんだ?」


デニスが気紛れで去っていく背中にそう尋ねるとエミルは声に反応し立ち止まり振り返らずに答えた。


「あのクソ医者を捜す。あんたがいたから何もしなかったが、スピーカーよりも、あんたよりも、あの変態が許せない!」


「………カーソンが何してるか知ってるのか?」


「知らないが想像はできる。確証がないことを問い詰めるのは腰が引けて今まで放っておいたが、この機会だ。問い詰めて吐かせてやる」


そう言うと、エミルは鬼気迫る表情で止めていた足を再び動かし始めた。

そんなエミルの表情に野次馬の群れが道を開けるに2つに割れ、エミルは群れの真ん中を堂々とした足取りで進んでいく。

奇妙なことに最初に野次馬に怯えていたエミルとは違い、今は逆に野次馬を威圧するような気迫を纏っている。


「………悪くない展開だな」


野次馬の間にできた道を突き進むエミルの背中を見ながらデニスが小さな声で呟いた。















































突然の放送にショッピングモール中がざわつき出し、南エリアの武器庫もその例外ではない。

だが、すぐにでもやってくる粛清班のために武器を用意しなければならず持て余す暇はなかった。


『デニスは諦めてるのかその場を動こうとしない。装備もあまり大袈裟な物は必要ないだろ。

ハンドガン2丁と弾も数発で充分だろう』


武器庫についているインターホンからはスピーカーが指示を出し、それを聞いた武器管理班はいそいそと言われた物を用意し始める。

2名の武器管理班がガチャガチャとハンドガンと弾を用意しているのを他の武器管理班は興味深そうに眺めていたのだが、唐突に1人の男がその輪からこっそりと抜け出した。

その抜け出した人物は何を考えているのかアサルトライフルを手に取り、さらに弾にまで手を伸ばしている。


「………おい。何、やってんだ?」


流石に見過ごすことができなくなったのか輪から男の動向を見ていた人物が声をかける。

だが、男はそんな声を無視して黙って弾倉を装填し、安全装置を外してから手に取ったアサルトライフルの銃口を声をかけた人物に向けた。


「は!?いや、ちょっと待ッ、」


銃口を向けられ焦りから出た発言も男は聞く耳を持たずに問答無用で銃を撃つ。

声をかけた人物は訳もわからない内に撃ち放たれた複数の銃弾を全身に浴び、あっという間に血を吹き出しながら倒れてしまう。


周囲の別の武器管理班も流石に異変に気付くが、何か具体的な行動を取る前に男が次々と横になぎ払うように動かした銃の餌食となる。

そんな中、ハンドガンの用意をしていた2人は集団から離れた所にいたため、銃弾を免れることができた。


その内の1人は仲間が撃ち殺されたということを理解すると瞬時に用意していたハンドガンを乱射した男に向ける。

乱射男もそれに気付き、対向しようとするも銃をなぎ払うように動かしたせいで銃口があらぬ方向に向いていた。


そして、次の瞬間には武器庫に一発の銃声がこだまする。

状況から考えれば撃たれたのは乱射男のはずだが、実際は違う。


撃たれたのはハンドガンを乱射男に向けていた人物だった。

だからといって乱射男が撃ったというわけではない。

乱射男に銃を向けた人物と一緒にハンドガンの用意をしていた女が何の躊躇いもなく自分の横にいる人物、つまり乱射男を撃ち殺そうとしている人物の頭を横から撃ち抜いたのだ。


『き、貴様ら!何をしでかしたかわかっているのか!そこから出られると思うなよ!お前らはそッ、』


1組の男女が武器管理班を皆殺しにする様を監視カメラ越しで見ていたスピーカーの声がインターホンから響き渡るが、彼らはそんな叫びに聞く耳を持たず、インターホンに銃弾を撃ち込みその声を強制的に止めた。

強引に止めたスピーカーの声はいつもの冷静な声ではなく、怒りや焦りを隠そうともしない怒鳴り声だったがそれも無理はない。


スピーカーは武器庫の占拠という事態を最も恐れていた。

もし、武器庫が占拠されれば武器を好きなだけ外に横流しできるからだ。


だが、武器庫の扉は電子ロック式で中央エリアで開け閉めができ、直接開けようとすると社員証と暗証番号が必要になり、武器の出し入れをする小窓は人間が通れる程の大きさはない。

つまり、武器庫を占拠すると武器庫から出られなくなる。

外に協力者がいれば食事には困らないかもしれないが、それだけの覚悟がある者がいない。


スピーカーに反感を覚える理由の大多数は家族と離されたことなのに、ここで武器庫に閉じ込められたら意味がなくなってしまう。

他の者もわざわざ貧乏くじを引くわけがない、そう考えていたスピーカーだったが実際にこうして恐れていた事態が起きてしまったのだ。


こうなってしまったらスピーカーには武器の流出は止められない。

インターホンを壊したことから目的は武器庫の占拠による交渉ではないことがわかり、交渉が目的でないなら武器を使って何かをするはずだ。


それが、どのような結末を生むかはわからないがショッピングモールに混乱に陥ることだけは確かであった。


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