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第32話

ケイティの指示の下で行われた転倒したトラックからの怪我人の救出は結論から言うと失敗した。


何とかして全ての怪我人をトラックの外に引きずり出したケイティ達だったが、その頃には想像を絶する数のゾンビが四方八方から迫っており、そのゾンビを恐れをなした人が次々と怪我人を見捨てて走り去り始めた。

だが、ゾンビの僅かの隙間から抜けようとしてもあまりにも多いゾンビに結局は逃げ切ることが出来ずに無情にも包囲網から抜けられた者はいない。


中には怪我人を最期まで見捨てない者もいたが、結果は同じで誰一人助かることなくゾンビの餌食となっていく。


そして、遂に生き残ったのはケイティとニックの2人だけとなり、その状況にニックは口を尖らせていた。


「時間をかけ、必死で集めた生存者がこうも一瞬で死んで行くとはな」


唯一の生き残りである2人に狙いを定めたゾンビをニックは銃器で迎撃していくが、それが無駄な抵抗であることはニックも理解している。

一方のケイティは無駄な抵抗はせずに、銃器は手放さないものの撃つことはせず、ぼんやりと自分達が乗ってきたトラックに背を預けているだけだ。


「………ごめんね」


そんなケイティがポツリと小さな声で呟く。

辺りにはゾンビのうめき声と銃声が響く中でニックはその呟きを聞き逃さなかった。


「何を謝っているんだ?」


「私、どうかしてたのかな?ニコルが死んだって聞いてすごく悲しかった。

あなたを恨むことはお門違いってこともわかってる。

でも、どうしてもあなたを見ていると恨んでしまう。


わかる?ニコルは親がいない私を始めて愛してくれた人なのよ。

それを奪われた気持ちわかる?

褒められた人じゃないことはわかってる。それでも、私には最愛の人だったのに」


「………すまん」


「謝らなくていいよ。あなたは悪くない。

あの状況で悪はニコルであなたは正義。

そう頭では理解していても恨みの感情は勝手に湧いて出くる。


だから、そんな感情から逃げようと生存者を集めようとした。そう思ってた。

でも、それっておかしいよね?

一番手っ取り早いのはとっととショッピングモールに戻ってあなたと別れることなのに。


さっきようやく気づいた。

私は言い訳をしてただけであなたを殺すために生存者を集めていたんだ。

今みたいな状況になることを期待していた。


愛する人の仇をとり、私自身も愛する人の元に行く。

そんな身勝手な理由でたくさんの人を死なせてしまった。


最初の謝罪はあなたを含めた私のせいで死なせた全ての人に対しての謝罪かな」


長いケイティの独白をニックは一言一句を聞き漏らさないようにとゾンビを対応しつつも耳を傾けていた。

どことなく落ち込んだ様子のケイティにニックはわざとらしく呆れたようなため息を吐いた。


「謝る必要なんかねぇよ」


「………でも、私がたくさんの人を死なせたのは事実だし」


「事実かもしれないが、俺も含めて死んでいった連中が悪い。


そもそも、この牧場には死を覚悟して来ているはずなんだ。

死んだからって文句を言う筋合いはない。


もし、死にたくないって言うなら自分の頭で考えて動くべきだ。

いつ死んでもおかしくない状況で赤の他人の指示に従う方が悪い。


まぁ、おおかたゾンビが発生してすぐに赤の他人の力で特に苦労をせずに平穏を手に入れたせいだろうな」


「…じゃ、じゃあ、あなたは?あなたは何で悪いの?

あなたはニコルへの罪悪感から私に従ったんでしょ?」


「俺はあんたに殺されるつもりだった」


「え?」


「この世界は終わりだ。もう希望はない。

俺は死んでもいい、そう思ってたんだがどうも踏ん切りが付かなくてな。

この牧場作戦に参加したのはあんたに全てを打ち明けて、あわよくば殺されようと思ったんだ。


だから、嘘をついた。

あんたの夫がみっともなく命乞いするのを嬲り殺したって言ったが、あれは嘘だ。

本当は最期にあんたへの伝号を残して逝った」


「…何て?」


「愛してる」


「………それだけ?」


「それだけだ。不満か?」


「ううん。大満足よ」


「そうか。で、どうする?」


「どうするって?」


「あんたは俺を恨んでる。仇を討つか?

放っておいてもゾンビに噛み殺されるだろうが自分の手で殺りたいとかないのか?」


「………ニコルの伝号を黙ってことはいただけないけど、ニコルは…夫は…私の夫だとあなたに名乗ったのでしょ?」


「そうだが、それが?」


「ふふ、なんでもない。

おかしいね、さっきまであった悲しみとか憎しみとか吹っ切れた。

もうすぐ会えるからかな?今は満足感が心を占めてる」


ケイティは本当に満足そうの表情で伏せがちだった顔を上げた。

辺りには相変わらずのゾンビがいるが、1つだけさっきまでと違う所がある。

そう遠くない位置にある牧場の出口に園内バスが立ち往生しているのだ。


見た様子からだとバスで牧場からの脱出を試みたが失敗して身動きがとれないといったところだろう。

何故かバスの上からバス内に乱射している男がいるが、それ以外は変わった様子はない。


それだけならケイティはすぐに意識の外にそのバスを追いやっただろう。

だが、そのバスの運転手を見たケイティはそのバスから意識を外せないでいた。


「ねぇ、ニック。あそこのバス見える?」


「バス?………あぁ、いつの間に。

俺達が通った後を通ろうとして失敗したってところか?」


「あのバス、助けられない?」


「助ける?何で助ける必要がある?」


「このまま死ぬのも癪じゃない?だったら、最期に…ショッピングモールで諦めずに待っている家族の元に父親を送り届けてあげたくて」


「………転倒してるバス。

元の運転手の趣味か知らんがかなりうるさい感じのメタルというかロックというかわからんが、CDがある。

あれはトラックで大音量で鳴らせばあのゾンビを引き付けられるだろう。

あの距離なら問題ないはず。少なくともバスが通れるくらいに数は減らせると思う」


「ありがとう」


ニックはゾンビに向けていた銃口をバスの方に向けて一発だけ発砲した。

撃たれた弾はバスの上で銃を乱射していた男を、運転席に向けて銃撃しようとする直前の所で頭を撃ち抜いた。


「あの運転手だろ?」


ニックがそう言うとケイティは少し驚いたような表情をしてから改めて礼を言った。

そして、駆け足で転倒したバスの運転席に入り込むとケイティはCDを探し始める。


「安心しろ。あのバスの無事を確認するまであんたのことは守ってやる」


ニックがそうケイティに言うとほぼ同時にトラックから鼓膜が破れるのてはないかと思うほどの大音量の音楽が鳴り響き始めた。


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