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第29話

デニス率いるバスとバイクに乗った集団が銃撃戦を始めた同時刻


デニス達が辿り着くより一足早く牧場北側の出口に辿り着いた1台のトラックがあった。

そのトラックに乗ってるのはケイティやニックを含む大人数の作戦参加者。


ゾンビやバイクの襲撃によりショッピングモールから牧場にやって来た者達は逃げ惑うだけだった。

トラックは仲間を待つことなく運転手だけを乗せて走り去り、残された者は無惨にも死んでいく。

そんな中でニックとその仲間達は、ケイティの提案で牧場内をトラックで走り回り一人でも多くの生存者を集めようとしていた。

牧場には脱出する手段を失くした者達が大量におり、トラックが一杯になるのにそう時間はかからなかった。


そして頃合いを見て脱出するつもりだったが、なぜか北側の出口は横転したトラックで塞がれていた。

仕方なく南に向かう途中で今度は謎の爆発が起きてしまう。

細かい爆発地点はわからないが、相当な爆発音がしたので、すぐに外からゾンビが押し寄せてくるだろう。


どうすることもできなくなったニック達は、大量のゾンビが牧場に入ってきた侵入口となった西側から脱出することを決めた。

いくらトラックとはいえ、かなりの数のゾンビがいるはずのそこを突破のはかなり危険が伴う。

失敗すれば死に直結するが、それでもそれ以外の道がない。

そんな苦渋の決断の元にケイティ達は牧場の北側にやって来たのだ。


「………多いな」


出口が見え始めると運転席にいるニックがポツリとそう呟いた。

助手席に座るケイティも出口にいる大量のゾンビにさすがに顔をしかめる。


「本当に多いね、あれ。いける?」


「いくしかないだろ。じゃあ、手はず通りに」


「はいはい」


ケイティは生返事をすると助手席の窓を開いた。

そして、次に用意してあった火炎瓶の布の部分に火を付ける。


既に火炎がゾンビに対して有効なのは実証済みだった。

服が燃えてるのか、腐った肉が燃えているのかはわからないが、火を付けてみたところゾンビは簡単に炎に包まれる。

そして、炎上したゾンビは不規則に動き始めた。

本来なら近くにいる生きた人間を無差別に襲うゾンビが規則性なく右に行ったり左に行ったりする。

火に巻かれた人間がジタバタと暴れるようにゾンビもゾンビなりに悶え苦しんでいるのかもしれない。


燃えてないゾンビも火を避ける。

本能のままに人間に向かうゾンビも間に炎があると珍しくその足を止めた。

人間だったころの記憶が残ってるのか炎に突っ込んだりせずに、その前で立ち往生する。


つまり、ゾンビの群れに火を放てば一層することが可能で、火を挟む様に立ち回ればゾンビと接触しなくてすむ。

これだけわかれば火がゾンビに対して非常に有効なことは明白だ。


その火を使えばゾンビに埋め尽くされた出口からの脱出も不可能ではない。

ケイティ達はその考えのもとで動いている。


「…突っ込むぞ」


ハンドルを握るニックがそう呟くとケイティはコクリと頷く。

ニックは荷台に乗っている人達に何かに掴まっているようにと伝えると覚悟を決めるように深く深呼吸をする。


そして、覚悟を決めるとニックはアクセル全開になるまでペダルを踏み込んだ。

圧倒的なスピードと質量でゾンビを軽々と轢き飛ばしながら、猛スピードで出口へと真っ直ぐとトラックは突き進む。

だが、それだけの威力をもってしても牧場の外に出ることは叶わないだろう。

それだけの数のゾンビが出口の狭い範囲に密集しており、その集団は壁と言っても過言ではない。


そのことを理解しながらもニックはペダルを踏む力を抜くことはなく、次第に轢き飛ばすゾンビの数も増えていく。

出口に近づくにつれ数を増すゾンビに、トラックへの抵抗力もニックやケイティが感じ取れる程になっていた。


それでも、出せる限界の速度で突き進むトラックは遂に出口に差し掛かると同時に車体はゾンビの群れに突っ込んだ。

トラックに正面からコンクリート壁に衝突したような衝撃に襲われるが、止まることなくゾンビの群れを強引に割り開きながら進んでいく。


だが、ゾンビの群れに突っ込むとトラックのスピードを目に見えて落ち、このまま進んでいくとトラックがその動きが止まってしまうのは明らかだ。

もし、そうなってしまえばトラックは全方向をゾンビに囲まれて一巻の終わりである。


「ケイティ!やれ!」


徐々に速度が落ちていくトラックに冷や汗をかきながらニックがそう叫ぶと、ケイティは火炎瓶を持った手を窓から外に突き出した。

外はゾンビだらけだが、トラックは大型なため窓から手を出してもゾンビの歯が届くことはない。

だが、ゾンビが手を延ばせば届く距離に手を付き出すというのはかなりの勇気がいる。

今はゾンビはトラックを引っ掻いているが、その手がいつ上方に延びるかわからない。


そんな危険を冒してでもケイティは行動を起こした。

やらなければ、全員が死んでしまうのだ。やるしかない。


ケイティは手に持った火炎瓶をトラックの前方にいるゾンビの集団に投げつける。

トラックの前方にはトラックの進行を妨げるゾンビが密集しており、そのせいでトラックは既に停止寸前の速度で動きはノロノロといった風だ。

だが、そのおかげでケイティは楽にトラックの前方に火炎瓶を投げることができた。


ゾンビのど真ん中で割れた火炎瓶はトラックの前方にいるゾンビを炎で包み込む。

すると、今までは一心不乱にトラックに向かっていたゾンビが燃え上がると同時にバラバラに動き始めた。

それが周囲のゾンビに火を移し、燃えていないゾンビは火から逃げるような動きをする。


つい先程までトラックが進めないほど前に密集していたゾンビが疎らになり、トラックが火を掻き分けるように進み始める。

止まりかけていた速度も徐々に取り戻し、このままいければ牧場から脱出できるだろう。

自然とニックの表情が明るくなるが、それを嘲笑うように突然ガクンと車体が大きく揺れる。

同時に直進していたトラックが急にスピンするかのように曲がり始めた。


「何ッ!?」


ケイティが叫ぶような声を出し、ニックは表情を固まらせながら焦りながら必死にハンドル操作をする。


「わ、わかんねぇ!急に操作が!」


火によって立つこともままならない程に焼け、地面に倒れ伏したゾンビをトラックのタイヤが巻き込み、それが絡まることにより前輪の片方が動きを止めたことにより起きたことだが、ニックはそんなこと知る由もない。


何とかバランスを保ち牧場から出ることは出来たが、脱出すると同時にバランスを崩して、道の脇に逸れるように横転してしまう。

その際に生じた音で周囲のゾンビが引きつられ様に集まりだす。


ニックとケイティは銃を手に取り、何とかトラックから這い出た。

幸い大きな怪我はないが、ワラワラとゾンビが集まって来ており、のんびりしてる暇はない。


2人はトラックの後ろに回り込み、荷台の扉を開けると牧場内で掻き集めた生存者が一斉に飛び出してくる。


「落ち着け!慌てるな!」


ニックが声をかけるが、聞く耳を持たずに我先にとトラックから飛び出していく。


「怪我人もいる!お願いだから手伝って!」


ケイティも叫ぶがトラックから飛び出した人々はチリチリに走り去って行くが、既に冷静さを失っており、恐らく助からないだろう。


ケイティの悲痛な叫びを聞き、逃げることなくこの場に残った者達も段々と集まるゾンビの姿にたじろぐ。


「………とりあえず怪我人をトラックから連れ出すよ」


何処か元気のないケイティの声に反応し、数少ない残った人達が動き始める。

ケイティ自身も怪我人を助けるべく、トラックに入ろうとすると、後ろからニックに声をかけられた。


「怪我人は見捨てるべきだ。今ここに残った人数ならまだ助かる見込みはある」


「ダメ。目の前で見捨てるなんて」


「無茶言うな。このままだと全滅しかねない」


「それでも、見捨てることはできない」


「………お前、死ぬ気か?」


「………」


「牧場の生存者を探して回るって言った時からそんな気はしてたんだ。

今のケイティからは生きる気力ってものを感じない」


「………それなのに付き合ってくれたの?」


「あー、ニコルのことで負い目があったからかな」


ケイティは黙ってニックのことをジトっとした目で睨んでから小さくため息をついた。


「そんなんじゃないよ」


それだけ呟くと、止めていた足を再びトラックに向けて動かした。

ニックはそんなケイティに困ったように頭を掻きながらも、自分も怪我人を助けるべく動き出す。


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