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第26話

「………爆発音?なぁ、したよな?爆発音?」


「…したな」


ジャック達は管理棟から素早く行動をし、目的であったバスまで無事辿り着くと同時に響いた爆発音に皆一様に動きを止めた。

そんな中、いち早く硬直から解かれた一人がバスがある建物から顔を出して、外の様子を確認してから口を開く。


「煙出てるな」


「予定より早いだろ!爆発したんだったら急がないと!」


「いや、待て。ありゃ………牧場の中だ」


「は!?どういうことだよ!?」


「俺だってわかんねぇよ。

ただ、煙は牧場の中からだ。何か不測の事態があったのか、そもそも別の爆発なのか。

だが、あの規模の爆破を起こせそうなのをタンクローリー以外に心当たりがない」


「そうなると、やっぱり失敗したってことじゃ」


「………ダグラスは?そうなると、ダグラスはどうなった?」


「ダグラス?あ、あぁ、運転手か。推測しかできないが、死んだ…として行動すべきだろう」


ジャックはその言葉に言い返したいことがあったが、それを唇を噛み締めることで何とか押し留めた。

ダグラスが生きてる可能性があるからといってここにいる全員を危険に晒すわけにはいかない。

ダグラスが死んでる可能性が高いことはジャックだってわかっているのだ。

どうすることもできない。諦めるしかない。


(割り切れ。そうだ、割り切れ。マイアとの再会のためにもここで死ぬわけにはいかないのだ。

マイアとの再会を諦めないためにダグラスのことを諦めるってことか?意味わかんねぇ。

結局、俺は諦めてるのか?諦めてないのか?

いや、待て。落ち着け、あれだ。優先順位の問題だ。

考えても仕方ないこと………ダメだ。どうしても、思い知らされる。


これが俺の限界なのだと。

なぁ、マイア。やっぱり個人の力でなんとかなる範疇を逸脱している。

俺が諦めなかったからなんだっていうんだ?

諦めなかったからといってどうにかなるレベルをとっくに超えてる。

そんな気がしてならない。諦めなかったからといって俺が助かるわけじゃない。

結局、俺はここで死ぬんじゃ………)


考え込むジャックとは別に他の仲間達はせっせとバスに乗り込んでいく。

牧場の外にゾンビを誘導するための爆発が中で起きてしまったのだ。

すぐに外からゾンビが押し寄せてくるだろう。

急いで移動しなければ、その考えがジャック以外の行動を早めていた。


「おい、ジャック!バスのキーお前が持ってんだ!早くしろ!」


なかなか、バスに乗ろうとしないジャックに業を煮やした人物がそう声をかけると、ジャックも我に返った。

一言謝ってからジャックはいそいそとバスに向かう。


「ジャック!何ボォーとしてるんだ!?ほら、早く!バスを出せ!」


「………すまん。運転は別の奴に変わってくれ」


「はぁ?お前が運転するからお前に鍵渡したんだろうが!?」


「…頼む」


「チッ。何だよ、急に。怖気ついたのか?ほら、鍵よこせ」


ジャックが鍵を差し出すと、目の前の人物は鍵を引ったくって運転席に乗り込む。

エンジンをかけて、いざ出発しようとしたその時にバスに乗った人々から制止の声が上がる。


「待て待て!お前、どこに向かうつもりだ!?」


「どこって決まってるだろ!北だ、北!南は今の爆発で、西はゾンビ、東はバイク!残ってるのは北だけだ!」


「俺は反対だ!北に行くってことはこのバスで牧場を横断しなければならない!

ゾンビは振り切れても、バイクからは格好の的だ!デカくて目立つ上に一箇所に固まって身動きも取りづらい!

歩いた方がまだマシだ!だいたい北まで辿り着いたらどうする!?待っているのは出入口を覆うゾンビだ!」


「じゃあ、代わりに何かいい案があるのか!?」


「思い切って南からというのはどうだ!?爆発の影響でゾンビが群がるといってもゾンビはトロい!今ならまだ間に合う!?」


「間に合うって何にだ!?元々あそこには大量のゾンビがいる!」


「やれやれ…でかい声で騒ぐだけで何の進展もないやり取りだな。

外まで声が響いてたぞ。ゾンビはあの爆心地に向かってるとはいえ、この辺りもまだ少なくなくないゾンビがいる。もう少し慎重になれないのか?」


突如として割り込んできた第三者の声にバスに乗る人々の視線が一箇所に集まる。

声がした方を向けば、いつのまに入り込んだのか車庫のシャッターを開いた場所にある人物を先頭に置いた集団がいた。


「………誰だ、お前?」


「君達の前で一度だけ挨拶をしたはすだがな、忘れたか?」


「あん?………そういや、見覚えがあるな」


「あ!思い出した、あいつだ!ほら、この作戦の立案者で指揮官だとかになった!」


「あー、そういえばいたな。名前は何て言ったっけな?」


「ふむ。では、改めて名乗らせてもらおう。デニス・ゴールドマンだ。

さて、唐突だがこの場は俺が仕切らせてもらうぞ」


デニスの宣言にバスに乗る人々は呆気に取られたようにポカンとした。突然現れたくせに今から自分の言う通りに動けと言ったのだ、呆気に取られても無理はない。


「は…はぁ?お前さ、今さら指揮官面するなよ。今まで何にもしてなかったくせに」


「なら、この場をどうするつもりだ?誰かが指揮を取らないとグダグダと意味のないやり取りをした挙句にゾンビの腹の中だ」


「じゃあ、なんだ?あんたが皆が納得する案を出してくれるのか?」


「そんなもんはない」


「は?てめぇ、何も案がないのに偉そうなこと言ってるのか?」


「全員が納得する案がないと言ったんだ。少なからず死人が出る以上は納得しない輩はいるだろ」


「………いや、流石に死人が全く出ない案を出すのが無理なのは俺にもわかる。だが、無駄に犠牲が出るような案は挙用できないぞ」


「それなら何も問題はない。恐らくは現状において最も犠牲者が少ないはずだ。………多くて2割といったところか」


「…犠牲者が、か?」


「いや、生きてショッピングモールに戻れる人数だ。もちろん、全滅の可能性もある」


その言葉に人々が息を呑む。バスに乗り込んだ人々だけでなく、デニスの後ろにいる者達まで驚いたような反応を示していた。

だが、誰も異を唱えることはない。生き残るのは多くて2割、あまりにも少ないような気がしてならないがデニス以外に自信を持って生き残りが少しでもいる可能性がある案を出せる者はいないのだ。


「当然だが、これより生存率が高い案があるなら聞く。あくまでこれは俺が考え得る中で最善ということだ」


「………お前の案とやらの内訳を聞かない限り何とも言えん」


「それも、そうだな。難しい話ではない。消去法ってやつだ」


「消去法?」


「あぁ、空を飛べれば一番なんだが俺達は地を這うことしかできない。

なので、牧場から出るに使えるのはちゃんとした出入口のみとなる。さっきの爆発で南は無理だ。

そうなると、北が最善になるわけだが、残念なことに北は使えない」


「どういうことだ?」


「俺の後ろで気を失ってる奴がいるだろ。そいつがついさっき一瞬だけだが、目を覚めした。

その時にトラックが事故を起こして北の出口を塞いでいるという情報をくれた」


「その気を失ってる奴の見間違いってことはないのか?」


「誤情報だったとしても、北は使えないことに変わりはない。

爆発前の南と同じ状況になっているだろうから、このおもちゃみないなバスじゃ無理だ。

つまり、この情報は北が使えない理由というよりも、北を捨てる後押しになっただけだ。


残りは東西だが、東はあのチンピラ共の巣窟だ。

ゾンビと違い僅かだが知能がある。奴らの目的が何かはわからないが、牧場の外に出れないような対策を練られていたら終わりだ。

じゃあ、残りは何処だ?」


「………まさか、西か?バカ言うな!西はゾンビが最も多いはずだ。

まだ、南の方が可能性がある」


「よく考えろ。西にいるゾンビは最初に俺達が連れて来たゾンビだ。この牧場に入りかなりの時間が経った。もうピークは過ぎた」


「た、確かに出口付近はそうかもしれんが道中には大量のゾンビがいるはずだ」


「さっきの爆発はかなりの音だ。牧場中に音が響いただろう。そうなると、牧場内のゾンビは南寄りに配置されることになる」


「………北から回り込むように西に向かうってことか?」


「そうだ。出口にどれだけのゾンビがいるかはわからんが、このバスでも抜けられないことはないだろう」


「だが、それは牧場をこのポンコツバスで移動することになる。バイクはどうなる?確実に襲ってくるぞ、あいつら」


「あぁ、襲ってくるだろう。なら、返り討ちだ」


「は?」


「強行突破だ。だいたい、今までやられるだけだった方がおかしい。襲って来るなら迎え撃てばいい。単純だが、それだけのことだ」



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