第25話
ブライは持っていた大型の銃を杖代わりにして満足に動かすことができない体を強引に引きずり進んでいた。
ブライはもう少しで牧場から出られるという所で何者かが運転するタンクローリーと衝突事故を起こしてしまったのだ。
タンクローリーの存在には気付いており、恐らくタンクローリーの運転手もブライが運転するトラックの存在に気づいていただろう。
お互い事前に気付いていたのに何故事故が起きたかというと、単純で情けない理由だが、お互いに先を譲ろうともしなかったからだ。
そんな些細な理由でブライは乗っていたトラックを吹き飛ばすは程の事故を起こしてしまい、後悔はしているが起きてしまった事実は変えられない。
安置など存在しないこの牧場でのんびりしてる暇はなく、ブライはフロントガラスを割り横転したトラックから這い出た。
すると、同時に耳をつんざく爆音が響き、衝撃に襲われるとブライの体は軽々と吹き飛ばされた。
トラックと衝突したタンクローリーが爆発したのだが、ブライの乗っていたトラックが盾となり爆炎に呑まれることはなかったが、それでも襲いかかる爆風はどうすることもできなかったのだ。
ブライは地面に全身を何度も叩きつけられるように吹き飛び、生きているのがやっとだという状態に陥る。
だが、気を失ってしまうと、助かる見込みが完全に潰えることを意味している。
ブライは遠退く意識を必死に繋ぎ止めて、移動を開始した。
だが、重傷の体では周囲のゾンビと同等、下手したら遅いぐらいの速さしかない。追い付かれるのは時間の問題だ。
「死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか」
ブライには生きる意志は強かったが、それだけでは体は動いてくれない。
終いには体を支える杖代わりにしていた銃を持つ手の力が抜けてその場に倒れ込んでしまう。
「マジかよ、オイ」
起き上がろうとするが、体に力が入らずに起き上がることができなかった。
だが、そんなブライにゾンビは遠慮なく襲いかかる。
ブライは立ち上がることを諦め、ひとまずゾンビに銃を向けようとするが傷ついた腕では銃を持ち上げることすらできなかった。
このままではまずいとブライの頭が警鐘を鳴らすがどうすることもできない。
そして、すぐ目の前まで迫ったゾンビは大きく口を開き、ブライを噛み付こうとしていた。
「死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるか」
恐怖に顔を歪めるブライにゾンビは何の躊躇いもない。
だが、そんなゾンビの歯がブライの肉を裂く直前に、何処からか響いた銃声と同時に目の前のゾンビの頭が破裂した。
驚くブライを他所に次々と銃声が響き、その度に別のゾンビの頭が撃ち抜かる。
ブライが銃声する方に顔を向けると、そこには複数人の武装した人物達がいた。
助かった、その安堵の気持ちからブライは何とか繋ぎ止めていた意識を手放してしまう。
「うわっ、すげぇ怪我。デニスさん、こいつどうします?」
「放っておけ。見ればわかるだろ、足手まといだ」
「………ですよねー」
「だいたい、誰だ?最初に撃ったのは?弾だって有限なんだぞ。そして、その後に続いた連中もだ」
「いや、死にそうな奴がいたんで…つい」
それを聞いたデニスは大きくため息を吐いた。
目の前の人物を捨て置くのは目覚めが悪いというのも理解はできるが、これからのことを考えると多少は非道になってもらわなければ困る。
そんなことを考えながら、デニスは何気なく意識を失った男を見た。
(こいつ、見覚えがある。誰だ?見覚えがあるということは南エリアの人間ということだが………思い出した、あいつだ。レジスタンスのリーダーだ)
デニスはショッピングモールにいた頃にレジスタンスなら協力してくれると思って独自に調査をしたが、判明したのはリーダーを含む3人だけ。
デニスは上手いこと隠蔽されてると関心したが、リーダーはまだ若い男だったことには驚きを隠せなかった。
よっぽど優秀なのかカリスマ性があるのかはわからないが、味方につけられればいい働きをしてくれるだろう。
(…ん?待てよ。こいつ、なんでこんな所にいる?どこのチームに所属していないレジスタンスはそもそも参加権がないはず。
潜り込んだのか?目的は俺と一緒で他エリアとの接触か?リーダー自ら?人手不足なのか?
いや、そんなことはどうでもいい。こんな所でこいつと会ったのは神の導きか何かだ。
ハハッ、思った通りだ。神はまだ見ている。このチャンスを逃すわけにはいかない。強引にでも味方に引き入れるしかない)
一方の他の人々は気を失った男の顔を見た瞬間に固まったデニスに困惑していた。
だが、放っておくわけにもいかずに仕方なく肩をつつく。
「デニスさん。何、ボォーとしてるんですか?危ないですよ。ほら、行きましょう」
「………気が変わった。こいつ連れてくぞ」
「は?え?は?いやいや、足手まといって言ったのデニスさんじゃないですか」
「連れてくぞ」
「ちょっ、いや、説明」
「連れてくぞ」
「………わかりました。それにしても、急にどうしてたんですか?知り合いですか?」
「………そうだ、知り合いだ。名前はヴィクターという」
「へー、デニスさんの同じチームにいた死んだ奴と同じ名前ですね」
「こいつも同じチームだ」
「え?あっ、2人いるんですか?」
「いや、一人しかいない。そもそも、ヴィクターは死んでないぞ」
「は?」
「いいから、運べ」
そう言った時のデニスの目は鋭く、如実に詮索するなと物語っていた。
その眼付きに身震いを起こしたデニスの仲間は指示通りに数人でデニス曰くヴィクターという名の男を持ち上げて運びだす。
この気を失った男のことは気になるが、そのことを問い詰めようものなら、問答無用で殺される。
そんな雰囲気をデニスは漂わせているのだ。
仕方なく、運びだすがそれにより移動速度は格段と落ち、戦える人手も減ってしまう。
それでもデニス一行は気を失った男を見捨てることなく、バスがあるはずの建物に向かった。




