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第21話

デニスはチャールを引き連れて二人で物置の2階にやってきている。

チャールは突然の指名におっかなびっくりしながらも畏怖の対象でもあるデニスの頼みという名の命令を無下にするわけにもいかなかった。


「えっと、デニス…さん。2階に来ましたけど」


チャールが2階に登ってきたきり鋭い目付きで辺りを見渡しているデニスに声をかけたくなかったが、このまま何もしないのは明らかにまずい。

勇気を振り絞って声をかけるとデニスは目付きを鋭くしたままチラリとチャールを見てから2階の窓を指差した。


「あの窓から外の様子を確認してくれ。俺は2階に現状を打破できる何かがないか探してみる」


「あー………わかり、ました」


チャールは腑に落ちないものを感じながらも口答えすることなく窓に近づいていった。

窓がくすんでおり外が見にくかったので、窓に手をかけてみるとしばらく閉じられたままだったのか、かなり固くなっている。

強引に開けてみると辺りに埃が散り、チャールはつい咳き込んでしまう。


「外はどうだ?トラックはまだあるか?」


チャールが手を顔の前で振り、埃を払ってると少し離れたところからデニスの声が聞こえてきた。

チャールは咳き込みが治まってから明解になった外の景色を覗き込んだ。


「まだありますね。ですが、トラック周辺にゾンビが集まりだしてます。

自分が運転手ならもう逃げ出すレベルですよ。………あっ、いえ、変な意味じゃなくて!あれ?変な意味?

と、とにかく今のは不敬とかそんなんじゃなくて!」


「………君が俺にどんなイメージを抱いてるかなんとなくわかった。別に取って食ったりしない。チャールはもう身内だからな」


「あっ、ありがとうございます」


「そんなことより外だ。そこから表口の方が見えるはずだが」


デニスに言われてチャールは窓の真下付近に表口があることに気がついた。

チャールは表口の様子を確認するために窓から身を乗り出して、頭を突き出し表口の様子を見た。


「うわー、ダメですね。すぐ外に結構な数のゾンビがいますよ。ヴィクターの死体に群がってる」


チャールが表口のすぐ外に集まるゾンビに不快そうに顔を歪める。

そして、ふとある疑問が頭に浮かび、ゾンビに顔を向けままその疑問をデニスにぶつけてみた。


「そういえば、デニスさん。俺が南エリア所属ってことを確認してましたが、どうしてですか?」


2階に来て少しだけだがデニスと絡んだチャールはデニスのイメージが少し柔らかくなっていた。

少し前ならこんな疑問が浮かんでも口にすることはなかっただろう。


「あぁ、それな」


チャールの柔らかくなったイメージ通りの優しいデニスの声が聞こえてきた。

だが、遠くにいたはずのデニスの声がすぐ後ろから発せられたことをチャールは不思議に思い、振り返ろうとしたがそれは叶わなかった。

振り返ろうとした頭を上から押さえつけられてしまったのだ。

窓から身を乗り出した状態で頭を押されたせいで窓から落ちそうになるのを窓枠を掴むことで何とか耐える。


「落ちる!落ちる!デ、デニスさん!?何すんですか!?頭!放して!」


「質問は何で南エリアのことを確認したか、だったな」


「いや、そんなことより落ちるって!」


チャールはジタバタと暴れるが不安定な体勢のせいでデニスから逃れることができない。

デニスは片手でチャールの頭を押さえつけながら空いている方の手でチャールの腰にある銃を取り出して、その銃口をのたうち回るチャールの足に向ける。

次の瞬間、チャールは銃声を聞くと同時に足を激痛に襲われた。


「あああああぁぁぁぁああ!デニス!て、てめぇ!こ、この、クソッがぁ!」


チャールは悲鳴を上げるが、デニスはチャールの抵抗する力が小さくなったのをいいことにもう片方の足も撃ち抜いた。


「あああああぁぁぁぁ、がぁ!足!足!痛い!何なんだよ、一体!」


「質問の答えはすっごく単純なこと。南エリアには俺がいる。他エリアはこの牧場で仲間を作らなければいけないが、南エリアはそうじゃない」


デニスはそれだけ言うと銃を持つ手をチャールの股の下に回して下半身を持ち上げた。

窓から上半身を乗り出して、さらに頭を押さえらた状態で下半身を持ち上げられたらどうなってしまうかは自明だ。

チャールも窓枠を掴み、落下するのを必死に抗うが、足を撃たれて力がうまく入らないうえに無理な体勢でうまく窓枠を掴めなかった。


「落ち、嫌だ。た、頼む。許してくれ」


チャールがデニスに懇願するが、デニスは無慈悲にも下半身をさらに持ち上げる。

デニスが下半身を持ち上げれば持ち上げるほどチャールの窓枠を掴む力が弱まっていき、ある時点で耐えきれなくなった。

チャールの手が窓枠から外れると同時にチャールの体は窓の外に投げ出される。

外に投げ出されたチャールは真っ逆さまに1階まで落下し、そのまま地面に叩きつけられる。

2階からの落下で高さがあまりなかったので、命に別状はないが軽傷ではすまない。


「痛ぇ、何なんだよクソが」


チャールはぼやきながら顔を上げると目の前の光景に絶句した。

考えれば当然のことだが、目の前にゾンビがいたのだ。

表口を塞ぐようにヴィクターの死体に群れを成していたゾンビが見えているか定かではないその眼球をチャールに向けている。

チャールはゾンビのすぐ隣に落下したのだ。

小さく悲鳴を上げたチャールはゾンビを撃ち殺そうと腰にあるはずの銃を取り出そうとするが、腰から銃が消えていた。


今度は立ち上がり逃げようとするが足を撃たれた痛みにより立ち上がることすらままならない。

しかし、ゾンビはチャールが逃げるのを待つことはなかった。

ゆっくりとだが、ヴィクターの死体から離れてチャールの方に向かってくる。


「う、嘘だろ………おい!デニス!許さねぇぞ!」


チャールが這いつくばり、痛む体に鞭打ってゾンビから逃げようとするが、デニスに向けて叫ぶ暴言がよりゾンビを引きつけていることには気が付かなかった。

確実に距離を縮めていくゾンビとチャールの姿を上から眺めていたデニスはほくそ笑む。

デニスが煽るように2階から顔を出すと、チャールはより一層声を荒げる。

デニスが視線を表口の方に向けると、チャールに引きつけられそこにゾンビの姿はなく、あるのは原型を留めていないヴィクターの死体だけだ。

表口の前からゾンビがいなくなったことを確認したデニスは急いで物置の1階に下りると、火の前で右往左往していた人々が一斉に寄ってくる。


「デニスさん、火消えないですよ!」


「っていうか、さっき銃声が!」


「あれ?チャールは?」


寄ってくるなり思い思いのことを口にする人々をデニスは煩わしく思いながらもそのことをおくびに出さずに答える。


「落ち着け。チャールとバイクが少し交戦した。

チャールは撃たれて窓から落下して………残念だが、ゾンビに囲まれて」


「なっ」


「だが、朗報もある。おかげでゾンビが表口からいなくなった。詳しく話したいところだが、時間が惜しい。表口から出るぞ」


デニスが急いで表口に走り寄ると、物置にいる人々は動揺しつつもデニスの後を追う。

デニスがすっかり小さくなったヴィクターの死体を巻き込みながら表口を開けると、確かにそこにいたはずのゾンビの姿はなくなっていた。

代わりに表口の少し横にゾンビが群がっている。

既にチャールはゾンビの群れに追い付かれ、全身の肉にゾンビの歯がたてられていた。

だが、チャールはまだはっきりと意識があり、表口から出てきたデニスを先頭にした群集に恨みを込めた目で睨みつけめくる。


「デニス!貴様、よくもよくも!オッ、」


デニスは持っていた銃でゾンビの群れの中心にいるチャールの頭を正確に撃った。

チャールはデニスの姿を認めるなり叫び声を上げてきたので、余計な事を言われる前に始末したのだ。


「デニスさん!?何でチャールを!?」


「もう助からないのだ。ゾンビに噛み殺されるのはさぞ苦しいだろうから介錯したまでだ。

それより、急げ。チャールの死を悲しむ暇はない」


デニスの号令のもとトラックに乗り込んでいく。

少し物置の中で時間をかけ過ぎたのか、想定よりゾンビの数が多く数人が犠牲になるが、なんとかトラックまで辿り着いた。

デニスが運転手に発車を促そうとして、ようやく運転手が死んでいることに気がつく。

噛まれた後はないが、激しい銃撃戦の痕が残っている。

どうやら、デニス達を待っていたのではなく、バイクに乗った集団に襲われていたようだ。

デニスは運転手の死体をトラックから引き摺り下ろすと運転席に座る。


「生きてる奴は乗ったか!?車を出すぞ!」


デニスはそう叫んでからトラックのエンジンをかけようとしてあることに気がついた。


ガソリンが残っていない。ショッピングモールから出る際にガソリンは十分に積んだはずで、往復どころか片道しか進んでないのにガソリンがなくなるはずはなかった。

デニスが窓から顔を出して外を覗き込むと、トラックの下からガソリンのような物が流れている。

どうやら銃撃戦によりガソリンタンクに穴が空いたようだ。

爆発はしなかったようだが、ガソリンは全て流れ出ている。


「おい、どうした?」


なかなか発車しないトラックに荷台からそんな声が上がる。一方のデニスはそんな声を無視して思考にふけっていた。


(………どうする?牧場内に残ってるトラックを探すか?いや、時間をかければかけるほど牧場は危険だ。

なら、歩いてショッピングモールにまで向かう…その方がよっぽど危険だ。

牧場とショッピングモールはかなりの距離だ。ゾンビを警戒しながら進める距離じゃない。

外に乗り物がある保証などない。


そもそも牧場の出入口は何処も少なからずゾンビがいるはずだ。

乗り物で突っ込む以外の方法だと被害が大きすぎる。そうなると、やはり牧場内で乗り物を調達する必要が。


………そういえば、この牧場はかなり大きい。

観光客向けの牧場内を周るバスツアーがあったはずだ。確か、バスは牧場南側の管理棟付近に駐車スペースにあるはず。

鍵は立地から考えて管理棟にあると考えるのが自然だろう。………それしかないか)


歩いてバスを調達する。

これが現状とれる最善の手段だと判断したデニスはそのことを伝えるべく荷台に声をかけた。


デニスはショッピングモールに戻って、スピーカーに吠え面をかかせる使命があるのだ。こんな所で死ぬわけにはいかない。

デニスはそう意気込み頭の中にいれた牧場の地図を思い出し、最短ルートを少しでも生き残る確率をあげるため必死に探っていた。


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