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第20話

「最低限必要な情報は揃った。それで、今後のことを話す前に何か質問ある奴いるか?」


薄暗い物置の中にいるのはデニスと各エリアの人々。

デニスが今回の牧場において最大の目標である、他エリアとの接触し味方に引き入れることは無事成し遂げられた。


デニスは新たに集めた仲間からチーム数などの情報を聞き出し、今後の方針を話し合おうとしていた。

最初に有無を言わさずに反抗的な3人を殺したことの効果か、デニスに協力的な者ばかりでかなりスムーズに話が進んでいる。

このまま順調に事が進むと思っていたデニスだったが、現実はそう甘くなかった。

物置の外から銃声が聞こえてきたのだ。

一発や二発では終わらずに銃声は止むことがなく立て続けに響く。

最初は遠くから微かに聞こえる程度だったが時間と共に銃声の距離が近づいてきていた。

デニスは冷静に音に聞き耳を立てているが、デニス以外の物置内の人々は目に見えて狼狽え始める。


「じゅ、銃声!?デニスさん、ヤバくないですか!?」


「思っていたより早かったが来るべき時が来ただけだ。ヤバイかヤバくないかで言ったらショッピングモールの外は常にヤバイ。

ヴィクター、外の様子を確認してくれ」


デニスがヴィクターに指示を出すと、ヴィクターはコクリと頷いてから銃を構えて物置の扉に向かって行った。


「よし。ここで死んだら元も子もない。全員、生きて牧場を出るぞ。細かい指示は手紙に書いて、君達が管理班になった時に渡すようにする。

手紙の位置は武器庫ならショットシェル弾のケースの中に食料庫な」


「アガぁ、クッソ!嘘だろ!」


デニスの声を遮るようにそんな声が物置に響いた。

音源は物置の入り口の方からで、デニスはついさっきそこにヴィクターを向かわせたばかりだ。


物置中の視線がヴィクターの方に向く。

そこには物置を出てすぐ外でゾンビに噛み付かれているヴィクターの姿があった。

ヴィクターは気が動転しているのか、そのゾンビごと物置の中に戻ろうとしている。

人々がゾンビの姿に唖然とする中、デニスの行動は早かった。


デニスはゾンビに噛まれているヴィクターを視界に確認するとほぼ同時に駆け出した。

ヴィクターは近寄って来るデニスを笑顔で迎え入れる。

ヴィクターにとってデニスは絶対神にも等しい存在だ。こんな絶望的な状況の自分でさえ救ってくれる。そう信じて笑顔でデニスを受け入れた。


だが、デニスにはヴィクターを救う力はない。

走り寄ったデニスはその勢いのままヴィクターを蹴り飛ばした。

物置内へのゾンビの侵入を防ぐには扉を閉める必要があり、それを妨げる位置に立っているヴィクターは邪魔でしかない。


だから、退かした。デニスにとってはその程度の認識だったが、ヴィクターにとってはそうはいかない。

信じていたもの、縋っていたものにあっさりと身捨てられたのだ。

それはヴィクターを絶望を淵に追いやるには十分だった。蹴られた勢いで物置の外で尻餅を着いているヴィクターの周囲にはワラワラとゾンビが集まっている。


だが、ヴィクターは集まってくるゾンビには目もくれずに物置の扉を閉めるデニスを絶望的な顔で見続けた。

扉を閉める僅かな時間、その間にデニスの表情に少しでも同情や憐れみ、どんな物でもいいがヴィクターに何らかの感情を向けることを期待している。

身捨てられたヴィクターが自分の死を受け入れるため最期に縋るものを縋ったのだ。


だが、扉が閉まりデニスの顔が見えなくならその時までヴィクターの目に映るデニスの表情に変化はなかった。

侮蔑などのマイナスの感情すら浮かばない、完全なる無表情だった。

何とも思ってない。扉が完全に閉まり、縋るものを得られなかったことを察したヴィクターはそれでも縋るべきものを求めて物置の扉を噛み付くゾンビを引きずりながら縋り寄った。


「あああああぁぁぁぁ!デニスさん!開けて!ここ開けて!」


ヴィクターが扉に大声を上げながら掻きむしるようにしがみつくせいで閉じられた物置の扉のすぐ外にゾンビが群がっていることは想像に容易い。

扉を閉めたデニスは物置の中にまで響く断末魔に反応を示すことなく、呆然と立ちすくむだけの仲間達の方に向き直った。


「こっちのはもう使えない。裏口から出るぞ」


「えっ、あっ………あぁ。それで、ヴィクターはいいのか?」


「何が?」


「い、いや。仲間だったんだろ?俺達より前からの」


「お前らも見ただろ。あいつは噛まれた。その時点で助かる見込みはないんだ。

ついでだからお前らに肝に銘じておく。

ゾンビの最も恐ろしいのは一体でもいればその数が爆発的に増えることだ。たかが一体と侮っていると身を滅ぼすぞ」


デニスの行動も言葉も決して間違っていない。

だが、間違っていないから正しいと割り切れるほど単純なものではないのだ。


「扉を閉める際に外の様子を少しだが把握することができた。ここら一帯に少なくないゾンビがいるが突破できないほどではない。

だが、急がなければ数は増える一方だ。幸いにも俺達が乗ってきたトラックは同じ位置に残っている。

裏口からここを出ると迅速にトラックに乗り込む。単純だが最善の作戦だ。時間をかければかけるほど不利になる。

慌てず騒がずに行動するように。では、行くぞ」


デニスはそう言うと物置の裏口の扉を警戒しながら開けた。

表口ほどじゃないにしてもゾンビは少なからずいるはずなのだ。扉を開けた瞬間にガブリと噛み付かれという間抜けな最期だけは迎えたくはない。


そして警戒しながら開けた扉から真っ先にデニスの視界に入ったのはゾンビではなかった。

バイクに乗った生きた人間。何処でバイクを手に入れたか気になる所だが、本来は警戒すべき存在ではない。

だが、その警戒すべき存在ではない相手がこちらの存在に気付くと明らかに警戒を表にした。

そして、手に持ったショットガンの銃口をデニスに向ける。

ゾンビではなく生きた人間と認識した後に銃口を向けてきたのだ。


「チッ」


デニスは舌打ちと共に横に転がるように移動してショットガンの銃口から逃れる。

バイクに乗った人物はデニスが避けたからといって撃つことを止めることはなかった。

デニスが避けたことにより、撃たれた散弾はデニスの後ろの人物に命中した。

撃たれた人物はそのまま後方に吹き飛び、周囲は呆然と撃たれた人物を見ることしかできなかった。


「何してる!?早く撃ち返せ!?あのバイクは敵だ!?」


デニスが叱咤するとようやく我に返ったようにバイクに向けて銃撃を始めた。

バイクに乗った人物は数発だけ反撃をしたが、すぐに銃弾の餌食になる。

撃たれたことによりバイクから飛び落ちると、主を失ったバイクは地面を滑るように一人でに動き、地面とバイクの接地面が火花と音を立てながら進み続けた。


「ゲッ、バイクこっち来るぞ!」


地面を滑るように向かってくるバイクに誰からともなくそんな声が上がる。

デニスが下がるように叫ぶと、一斉に裏口から逃げるように物置の内側に移動し始めた。

バイクは裏口に引っかかるように止まると同時に炎上して爆発した。

地面を滑った際にバイクのガソリンタンクからガソリンが漏れ、そこに火花によって引火したようだ。

爆発、炎上したバイクは物置の裏口を火に包む。


「マジかよ、おい!消火器どっかにねぇか!?」


「火の勢いが強い!あの火は消してる暇なんかない!裏口はもうダメだ!」


「で、デニスさん!じゃあ、どうしろって言うんですか!?」


「俺が聞きたい!?この物置には表口と裏口の2つしか出入口がないんだぞ!?」


「そ、そんな!嫌ですよ!こんな所で焼け死ぬの!」


「俺だって嫌だ!まだ、終わるには早いんだよ!」


デニスは苛立つ気持ちをそのまま横の壁にぶつけた。

デニスはここで一旦深く深呼吸をする。こういう時にこそ冷静になるべきだ。


(………ここには2階がある。2階には1階にはない窓がある。表口と同じ方角に表口を挟むような位置に2つ)


デニスはぼんやりと窓の存在を思い出した。梯子があるわけではなく、飛び降りるにしても下にはゾンビがおるため着地を失敗したら助かりようがない。

だが、活用の仕様はある。


「………お前、チャールって言ったっけ?」


苛ついていたかと思うと、急にぼんやりとし始めたデニスを周囲は奇妙に思っていると、デニスが唐突に口を開く。

デニスに脈絡なく声をかけられた男は戸惑いつつも答えた。


「えっ、と。はい。チャール、です」


「南エリアだったよな?ショッピングモールでの所属?」


「…そうだけど」


「よし、チャール。今から俺と周囲の様子を確認するために2階に行くぞ。他の連中は裏口の火が消えないか試していてくれ」


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